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食のサステナビリティ

こんにちは。DSMの丸山です。「栄養、健康、サステナブルな暮らし」の分野で事業を展開する私たちにとって、今年2021年は大きな節目の年になります。

その理由は3つ。
 ●「国連栄養のための行動の10年」の折り返し地点
 ●「東京栄養サミット」(Tokyo Nutrition for Growth Summit)を12月に日本政府が開催
 ●「第一回国連食料システムサミット」を9月にニューヨークで開催

今回は、ぱっと見、とても遠い世界の話に思えるこれら国際イベントの背景と、私たちの取組みについて少しお話ししたいと思います。

2021年は「食と栄養の一年」

日本にいるとピンときませんが、世界では未だ8億人近くが慢性的に栄養不足の状態にあり、20億人以上がビタミンやミネラルなどの微量栄養素不足に苦しんでいる現状があります。
今年は、この問題の解決を目指して2016年に国連総会で決議された「国連栄養のための行動の10年(2016-2025)」の折り返し地点にあたります。

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また、「東京栄養サミット」(Tokyo Nutrition for Growth Summit)が日本政府により12月に開催される予定です。これは、オリンピック開催国がホストとなって開催する、栄養改善の取組みを具体的に前進させるための国際会議で、2012年のロンドンオリンピックから始まり、2016年のブラジルを経て、今回が3回目となります。

各国政府、NPO、企業などが、栄養改善のための取り組みについて、具体的なコミットメントを提出し、第三者機関が今後数年間にわたってその達成状況をモニターするという非常に実務的なシステムです。今回は日本で開催されることもあり、より多くの日本企業の参加が期待されています。強制力はないとはいえ、コミットしたからには守らないといけませんから、栄養改善の問題を現実的に前へ進める原動力となります。

もう一つ、9月には国連総会のタイミングに合わせて、初の「国連食料システムサミット」がニューヨークで開催されます。

食は私たちの生活の根幹をなす大切なものです。一方で、食料の生産から消費までのサプライチェーンは多国間にまたがり非常に複雑な反面、極めて非効率かつ脆弱です。その結果、世界中の食料の1/3は廃棄されながら、未だ飢餓や栄養失調にあえぐ人々が存在するなど、多くの矛盾が放置されています。

わたしたちの食は問題だらけ

私たちの食料システムは、様々な問題を抱えています。いくつか例を挙げると、

栄養不良
23億人の成人(18歳以上)と子供(5歳未満)が肥満である一方、8億人が栄養不良の状態に置かれている。2050年に向けて医療コストの急激な増加が見込まれる。

気候変動
農畜産業は、輸送セクターと並び世界の温室効果ガス排出の主要な要因(>17%)。

環境破壊
52%の農地は消耗状態にあり、天然魚の76%は乱獲の状態にある。地球上の真水の大半は農業に消費されている。

貧困の罠
農業従事者の所得は他産業従事者に比べて低い傾向にある。75%の農業従事者は「極めて貧困」(一日の収入1USD以下)の状況に置かれている。

紛争
紛争地域では土地と水が不足するとともに、食糧問題も発生。

フードロスと廃棄
世界の全食品の1/3は廃棄されている。理由は収穫・流通時のロス、販売・消費者の廃棄など、サプライチェーンのすべてにわたる。(食料となる前の)家畜飼育時の斃死を含めるとその率はさらに悪化。

これらの問題は、世界人口の増加により、2050年に向けてますます悪化することが予想されます。

食料システムの問題は、国連が2030年の達成に向けて推進する持続可能な開発目標(SDGs)の全てに直接関わります。また、気候変動の問題と同じく、多国間の協力がなければ解決することができません。これが国連が食料システムサミットを開催するに至った背景です。

「第一回国連食料システムサミット」 世界は動き出している

食料システムの問題は、とても複雑で一朝一夕に解決できるようなものではありません。テーマが多岐に渡ることもあり、包括的な議論はこれまでなかなか行われてきませんでした。

今回の食料システムサミットは「SDGs達成のための行動の10年」(2020-2030)の一環として、グテレス事務総長自らが召集しました。
より健康的かつサステナブル、公平な食料システムを実現することで17SDGsのすべてを前進させることを目指しています。

食料システムサミットでは、多岐にわたるテーマを「より健康的かつサステナブル、公平な食料システム」という言葉にまとめた上で、5つに分類。Sustainable Food Systemの実現に向けたアクショントラックとして設定しています。言葉の再定義によって、関心事の違うより多くの人が集まれるようになった点は見事だと思います。

第一回目ということもあり、今回のキーワードは「ゲームチェンジャー」。アクショントラックごとに、現在の状況を変える劇的なアクションが求められています。

<5つのアクショントラック>
① 安全で栄養豊かな食料を全ての人に
② サステナブルな食料消費パターンの確立
③ 環境に調和した農業・畜水産業の推進
④ 農村地域の収入確保
⑤ 食料供給システムの強靭化

>>参考:

既に各アクショントラックのコミュニティがウェブ上に形成されており、世界中の人が参加して議論を加速しています。
登録すればだれでも参加でき、ゲームチェンジャーのアイディアを提出することもできます。既に一巡目のアイディア出しは終了して、現在は二巡目に入っていますが、アイディアの中間とりまとめも閲覧できます。

>>参考:

サステナブルな食料システム実現のためのDSMの取組み

DSMでは、サステナブルな食料システム実現のために、5つの分野に注力しています。

● サステナブルなタンパク質
● 食品ロス・廃棄削減
● 栄養を入手しやすく
● 健康的な食事
● サステナブルな農畜産業

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詳しくは別記事でご紹介しますが、ここでは「サステナブルな農畜産業」から一つだけ、Bovaer®の例を紹介させていただきます。

人類が排出する温室効果ガスのうち、14.5%は家畜に由来しています。さらにそのうちの65%は牛のゲップに含まれるメタンガスであることが知られています。
Bovaer®は一日一頭当たり小さじ1/4を飼料に混ぜることで、牛のゲップに含まれるメタンを減らすことができる飼料添加剤です。オランダで行った実証実験では、牛1頭あたり27~40%削減できることが確認されています。

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>>参考:

畜産は環境への負荷が比較的大きく、欧米を中心に肉食の是非に関する議論が始まっています。一方で、畜産そのものの環境負荷を低減し、いかにサステナブルにしていくかという議論はまだまだです。

文化的な観点からも、栄養的な見地からも、世界中でいきなり動物性タンパクの消費を止めることは不可能です。一方、消費人口の増加が畜産による環境負荷を増大させていることも事実です。現実解として、「いかに速く、効果の高いアクションを起こすことができるか」を真剣に考える時だと思います。

畜産による環境負荷を大幅に減らした上で、畜産業を営む人々が動物性タンパクを適正価格で販売でき、世界中の人々が手頃な値段で購入することができる。DSMアニマルニュートリションはこういった新しい畜産モデルへのシフトを加速するためのソリューションを開発、提供しています。

「東京栄養サミット」の意義:コロナ、高齢化…栄養改善は途上国だけの問題ではない

「東京栄養サミット」に連なる”Nutrition for Growth”イニシアチブは、元々開発途上国の栄養改善を目的にスタートしました。

一方で、昨年から続く新型コロナウィルス感染症の世界的流行は、生活習慣病や肥満など、食習慣も深く関係する基礎疾患のリスクを改めて浮き彫りにしました。また、感染症予防の基礎として、免疫系の健康維持の大切さも再認識されました。

また、そのためにビタミンやミネラルなどの微量栄養素を適切に摂取することが極めて重要であるということも広く知られるところとなり、途上国だけでなく、先進国でも栄養改善の機運がかつてなく高まっています。

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意外に思われるかもしれませんが、日本人の多くは、様々な微量栄養素が不足している状態にあります。食生活の変化も一因で、脂質や炭水化物の摂取によりカロリーは足りているのに、ビタミンなどの微量栄養素が不足した状態、「Hidden Hunger(隠れ飢餓)」とも呼ばれています。
そして、この状態のまま高齢化が進めば、栄養の不足傾向が「健康寿命と寿命の差」(健康を損ねた状態で過ごす時間)の増加という形で表れてしまいます。

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「栄養改善」は途上国だけの問題ではないのです。

日本は高齢化で世界の先頭を走っていますが、この問題は早晩欧州や中国などでも顕在化してきます。
このタイミングで日本において「東京栄養サミット」が行われることは、先進国における栄養改善の重要性について世界の人々のマインドセットを変える絶好の機会だと思います。

日本でも議論を活性化させるために

DSMが本社を置く欧州では、政府、NPO、民間企業(大企業・スタートアップ)、アカデミア、学生など、様々なステークホルダーが集まり、大きな社会課題に対して議論を行う場がたくさんあります。議論には欧州各国、さらには域外からも参加するので、比較的ダイバーシティも高く、様々な立場から異なった価値観の元に議論を進める素地があります。

一方で、日本ではそういったマルチステークホルダーが集まって、あるテーマについて議論する場は、まだ少ない印象です。

日本においても、サステナブルな食料システムに関する議論を活性化させるための一助として、DSMサステナビリティ経営フォーラムを企画しました。「持続可能な食料システムと栄養、健康な暮らし」をテーマに、5月20日、25日にオンラインで開催、参加は無料です。
是非皆さんにもご参加いただき、様々なご意見をお聞かせいただければと思います。

第三回DSMサステナビリティ経営フォーラム
持続可能な⾷料システムと栄養、健康な暮らし
〜 健康な⼈々が暮らす健康な地球を創造するために〜
>>お申し込みはこちらから
日時: 1日目 2021年5月20日(木)14:00~17:00
    2日目 2021年5月25日(火)14:00~16:40
主催:DSM株式会社 | 後援:オランダ王国大使館

金融規制、化学物質規制、そしてカーボンプライシング(炭素税など)にいたるまで、過去の例を見ると、欧州で議論が先行し、欧州主導でルールが作成され、傍観していた日本は後からそのルールに乗らざるを得ないということが繰り返されてきたように思います。

食のサステナビリティに関する議論は欧米を中心に始まったばかりです。今回は議論の最初から日本が参加する絶好の機会ですし、高い技術力を持つ日本の参加を世界も期待しています。

欧州ではマルチステークホルダーコラボレーションが加速しています。そうした輪の中に、多くの日本企業が参加されること、そして、できればDSMもパートナーとしてみなさんと協業できることを願っています。

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Kaz Maruyama | 丸山和則
@maruyama_kaz
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※参考文献:
821m hungry: 821M undernourished (FAO states 821M, see here: http://www.fao.org/state-of-food-security-nutrition/en/)
full FAO report downloaded, sits here: J:\Sec SD\Nutrition\Literature and Reports\Proteins 

2.3 bn overweight/obese: WHO, 2018: http://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/obesity-and-overweight
Number is calculated as adults aged 18 years and older, plus children under the age of 5 years

76% of wild fisheries are overexploited; source: FAO 2016, The status of world fisheries and aquaculture; D. Pauly, D. Zeller, Comments on FAOs State of World Fisheries and Aquaculture (SOFIA 2016), Marine Policy 77 (2017) 176–181.

Poverty trap of farmers: Carter, Michael R. & Christopher B. Barrett (2006) ‘The economics of poverty traps and persistent poverty: an asset-based approach’ . The Journal of Development Studies. 42(2). http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00220380500405261

17% of GHG emissions from Agri-food sector: OECD 2016:  https://www.oecd.org/agriculture/ministerial/background/notes/4_background_note.pdf

52% of agricultural soil is depleted or degraded: New Foresight Paper ‘New horizons for transitioning our food system’
file:///C:/Users/888633/Downloads/Newhorizonsfortransitioningourfoodsystemdiscussionpaper3_548469743.pdf

conflicts causing land and water scarcity leading to food insecurity in near east and north Africa: http://www.fao.org/news/story/en/item/1073611/icode


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