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「自分が主人公の物語を楽しむ」黒ワインさん×ひらやま対談

誰かとお茶をするたびに、「この話、面白いからコンテンツにできたらいいなぁ」と思っていました。そんな話を鳩田さんとしていたら、「え、わたし、協力しますよ!」と言ってくれたので、お茶で話している内容が対談コンテンツになりました!

記念すべき初回は、黒ワインさん。

正直話す前はどんな人か想像がつかなかったのですが、お会いして話してみたら、とても楽しくて、今度また飲みに行くくらいには仲良くなりました。

黒ワインさんのサービスへの姿勢やサービスマンとコーチングの共通点など、4万文字分話した内容を鳩田さんがぎゅっと読みやすく編集してくれてますので、ぜひぜひお読みください〜!

7年間レストランに勤めていた黒ワインさん。その濃密な経験から飲食業界やサービスマンの接客についての“生きた情報”をnoteTwitterで発信されています。お互いの言葉に惹かれ意気投合し、お茶をすることになった黒ワインさんとひらやまさん。話を深めていくと「飲食」「メンタルヘルス」という異なる業界のふたりから、共通する世界観が見えてきました。

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noteを読んで気になったこと

鳩田:おふたりは初対面なんですね。会う前、お互いにnoteを読んで感想ツイートを投稿されていましたね。

ひらやま:めちゃくちゃ読んで、文章がすごく上手だなと思いました。あといちばん感じたのは、人をとても見ている、ということ。それは黒ワインさんだから見ているのか、ほかのサービスマンもそうだけど黒ワインさんの言語化が上手いからなのか、気になりました。

黒ワインさん(以下敬称略):飲食業界は広くて、安い店から超高級店まであるわけじゃないですか。そのため、個人差が強く働いている人の意識もさまざま。僕は星付き系列の店にいたこともありますが、そこのみんなの意識が高かったかというと、そうではなかったですよ。

ひらやま:そうなんですね。

黒ワイン:ただ、自分が教わってきた先輩や、長く付き合ってもらったサービスマンの人たちは崇高な志を持っていました。高級レストランになると、一生に一度しか来ないお客さんもいるんですよね。だから「この人にとって一生に一度の経験かもしれない」と思って接客できるかどうか。そこまで意識している人は少なからずいたし、サービスマンはそうあってほしいと思っています。なんとなく接客して、お客様にガッカリされるのが嫌なんですよ。

ひらやま:その想いはnoteからもすごく感じます。

黒ワイン:飲食ってキツい業界なんですよね。先輩から教えてもらえないし、「見て覚えろ」みたいなことはザラにある。だから僕はトップダウン的な働き方しか知らないんです。一方、ひらやまさんの仕事は、オンラインカウンセリングやコーチング事業じゃないですか。なので気持ちよく働ける職場にしようとか、その人らしさを引き出すような働き方になるのかなと。そのあたりを聞きたいと思ったんです。

ひらやま:その話を聞いて2つ思ったんですけど、1つが臨床と医療は違うということ。例えば、カウンセリングと外科手術だと全然違いますよね。飲食はどちらかというと緊急医療に近いのかなと思いまして。

黒ワイン:そうでしょうね。

ひらやま:緊急性の高い医療現場で、目の前の人に「45分かけてあなたの気持ちを考えよう」とはできないですよね。同じアプローチは再現できないので、その種類の違いはきっとあるなぁと。
もう1つが“らしさ”を引き出すコミュニケーションについて。黒ワインさんやサービスマンの人は、お客さんに対してやっているじゃないですか。その人のなかから答えを引き出す技術はサービスマンにある。でも、それが職場のメンバー間で行われていないのでは? と思ったんです。

黒ワイン:たしかに、サービスの技術があってもバックヤードではできていない。

ひらやま:30秒や1分の遅れは命取りだから、引き出すコミュニケーションができない。そのギャップなのかなと感じました。いまのcotreeの場合はメンバーの役職・職能がひとりひとり異なり、ボトムアップで掛け算したほうがシナジーを発揮できるのでその形になっています。ただ、ボトムアップが美しいからといって無理にボトムアップにする必要はないと思っています。

黒ワイン:僕もそう思いますね。

ひらやま:チームの目的次第だと思っています。それが飲食店の現場では難しいのかもしれないですね。

大衆店で見た、お店とお客さんのいい関係

ひらやま:どんなふうになると飲食業界がもっとよくなるんだろう。黒ワインさんはお店とお客さんの関係がどうなるといいと思いますか?

黒ワイン:ずっと考えているのは、「お客さんとお店は対等」ということ。僕のnoteでもそれは意識しているんです。お客様がお金を払っているから偉いわけでもないし、上でも下でもない。お互いに敬意を持ってほしいんです。ちなみに僕は飲食店で嫌な思いをしたことはあんまりないんですよ。

ひらやま:そうなんですか?

黒ワイン:はい。なぜならお店が何をしたいのか、どういうふうに楽しんでほしいのかを汲み取ろうとしているので。内情を知っているのもありますけど「この店はこういうワインを飲んでほしいのか」「このくらいのペースで注文してほしいんだな」とわかるんです。だからやれるのもありますけど。

ひらやま:すごいお客さんですね。

黒ワイン:でも、やったほうが楽しいですもん。お店には「こう楽しんでほしい」という想いがあるので、それに合わせてレストランへ体験しに行く。それだけで店の価値はいくらでも上げられるんです。だから「行ってつまらなかった」と批評しちゃうのはすごくもったいない。
もちろんお店はお客様のことを考え、お客様もお店のことを考える。その相互関係ができるともっと幸せになると思うんです。

ひらやま:その相互関係がいちばん上手く成立しているお店って、やっぱりハイクラスですか?

黒ワイン:いや、全然そんなことないですよ。大衆店でもあります。いま思い浮かんだのは、昔師匠に連れていってもらった焼肉屋さん。高級感はない、福岡のチェーン店です。僕たちの隣に若者4人のテーブルがあったんですね。で、仏頂面のおばちゃんが「若い子はあんまり野菜を食べないでしょ」「野菜、ちょっと大盛にしといたから」とブツブツ言いながら出しているわけですよ。すごく怖い顔して(笑)。

ひらやま:怖い顔(笑)。

黒ワイン:師匠が僕に「あのおばちゃんがいま何をしたかわかる?」って聞いてくるんです。僕は「え? なんか野菜をたくさん出していました」と答えると、「だからお前わかってないんだ」と。

ひらやま:「わかってない」つらい……。

黒ワイン:「君のサービスはあのおばちゃん以下だから」と。「おばちゃんの怖い顔は相当だけど、少なくともお客様を見て対応を変えているでしょ? 君は意識したことないでしょ」と言われたんですよ。おばちゃんが大盛りで出して、若者が「あざーす!」って美味そうにごはんをかっこむ。大衆店でも学食でも、そういう相互関係は存在していますね。

ワインはイメージで例えて楽しめる

ひらやま:お店の人はお客さんを楽しませる知識や技術が高いなと思いました。逆にお客さんが持っている情報はとても少ない。食べログを見てなんとなく来たとか。いわゆる教養や、食を深く楽しめるための知識が単純に足りないのだろうなと思うんです。

黒ワイン:それは僕も感じます。

ひらやま:お店とお客さんが同じレベルになるには、どうしたらいいんだろう……?

黒ワイン:その昔、先輩がレストランに連れていってくれたときにパンをかじろうとしたら「ちぎらなきゃダメだよ」と教えてくれたんです。僕は先輩や親から教えてもらう機会があったんですが、僕が働いているときにそういうお客さんをほとんど見ませんでした。食は文化なので、誰かが教えていくことが必要だと思うんです。

ひらやま:なるほど、食文化を継承できる機会があるといいですね。

黒ワイン:逆に情報で頭でっかちになるのも、もったいないんですけどね。だから、1月にcotreeで開催したワイン会は、すごくいい会だと思ったんです。(ワイン会=ヤマシタマサトシさんにワインの飲み方を教えてもらう会)

ひらやま:ありがとうございます!

▲黒ワインさんご提供ワイン

黒ワイン:僕は5本中2本のワインを提供しました。イベントには参加していませんがTwitternoteでその様子を読みました。ワインを知るための情報として「甘み・酸味・渋み」というのは絶対欠かせないので、そういう話も入りつつ。でも難しくなりすぎず、ワインは自分の感覚で楽しめばいいというバランスがちょうどよかったと思います。海側/山側、人間などのイメージで例えるのもよかったですね。僕もソムリエ仲間とよくやるんですよ、このワインを女優に例えると……って遊びを(笑)。

ひらやま:レベルが高い遊びですね(笑)。

黒ワイン:「女優でいうと長澤まさみ」。「いつの長澤まさみだよ」って聞かれたら、「じゃあ、『モテキ』のときの長澤まさみ」みたいな(笑)。

ひらやま:いいですね、楽しそう(笑)。

黒ワイン:ワインはそうやって楽しめるんですよ。ワイン会は初心者も楽しめる内容ですごくよかったです。そういう会を主催できるのも、ひらやまさんに興味をもった理由のひとつです。

ひらやま:おぉ、やったー。そう言ってもらえるとうれしいです。ワイン会のように食の文化を知れるイベントは、またいつか開催できたらいいなと思います。

競合も“レイヤー”を変えれば仲間になる

黒ワイン:飲食の人間はどうしても知識寄りになってしまうんですよね。もちろん、知識は必要なのだけど。それこそ、前にTwitterでひらやまさんと話していた「世界のバランスの話」につながると思うんですよね。知識を得て「何か」にならなきゃならない、とんがらなきゃいけない瞬間は絶対存在する。でもそれだけだと疲れちゃうし、なんかもっとファジーでいいと思うんです。その中間点で成り立つ世界がいいんじゃないかな、と。

ひらやま:僕もバランスで考えることがあって。善と悪とか何かの概念には必ず反対の概念がある、というのを本で読んで「たしかに」と思ったんです。単体だからケンカする。そのときに必要なのが、その2つを包括させるもう1つ反対の概念なんだろうな、と。例えば国と国がケンカしていたとしても、火星から敵がきたら地球上の国と国は味方になるんですよ。

そんな感じで、レイヤーの上げ下げが大事だと思うんです。飲食もきっと同じで、お客さんとサービスマンじゃなくて「一緒に食の文化を推進する、一緒に食事を楽しむ仲間」とレイヤーを変えることが大事なんだろうなと。

黒ワイン:そうそう、すごい! それはすごくいい視点ですね。

ひらやま:最近、いろいろな人と話していて「バランスって大事だよね」という着地になることが多くて。僕はいま会社の事業やチーム全体を見るんですけど、個人を見るけどチームも会社も見て、他社や他の業界を見て……と視点を切り替えていて。例えば、競合サービスはcotreeからすると“相談”文化を日本に広げるための仲間なんですよね。

黒ワイン:わかる、超わかる。それを聞いて思い出した話があります。ビオワインというジャンルがあるんですね。ワイン製造の手法のひとつで、それ自体に価値を持つべきではないと僕は思っていて。ビオで美味しいものはたくさんありますが“ビオだから”美味しいわけではないんです。いまはビオワインを信望する人も受け入れられますけど、前は嫌いだったんです。

ひらやま:そうだったんですね。

黒ワイン:昔、接客を教えてくれた人に「そんなことを思っているようじゃ、まだまだよ」「その人たちだってワインが好きで飲んでいるんでしょ。だからいいじゃない」と言われて。当時の僕は、「何言ってんだろ。僕は嫌いなのに」と意味がわからなかったんですよ。でもよく考えたら、同じ“ワインを楽しむ仲間”だから目くじらを立てる必要はないと気付いたんです。それからは「この人はビオが好きなんだな」くらいにしか思わなくなった。

ひらやま:ワインを楽しむ仲間として同じ方向を向けたんですね。

黒ワイン:そう。お客様が「ビオばっかり飲んでいるんです」とおっしゃれば、「うちだったらこういうビオがありますよ。どういうのがお好きですか?」という話ができるだけで。レイヤーを変えて思考が変わりました。

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自分を物語の主人公にすればいい

黒ワイン:お客さんとお店の相互関係について、店側の立場からお客さんにこうあってほしいというのは少し言いづらいんですが……僕は「大人」であってほしいと思っています。

ひらやま:大人ですか。

黒ワイン:子どもは「~してほしい」「~やってほしい」と求めるじゃないですか。対して「大人」は何かをしてあげる存在。僕は「自分で物事を考えられる存在」と定義しています。子どもの状態でお店に来ると不幸が起こりやすいんですよね。「~してくれなかった」「あの店はこうだったのに」という不満につながりやすい。
なので、この店をどう楽しもうかと考えられる人は、間違いなく楽しめます。でも結局、どうやったら楽しめるかという答えは、その人のなかにあるんです。知識とかマナーではない。その人がその人らしく楽しんでくれればいいんです。

ひらやま:まさに、cotreeの世界観に近いですね。自分らしい生き方で、自分の物語をよりよく生きるという想いがあるんですが、それにかなり近いです。

黒ワイン:そうそう。レストランに来た自分を物語の主人公にすればいいんですよ。レストランに短パンとサンダルで行ったら日常の延長だけど、非日常にする努力をしたらより楽しめるかもしれません。高級店に行くときドレスアップしたら楽しいし、物語の主役になれるじゃないですか。そのやり方はできる範囲で構わないんです。別にハイブランドの洋服を着なくてもいい。ちょっといいレストランに行くから、いい服を着てメイクを変えてもいいかもしれないし。「自分がこの店をどう楽しむか」を考えると楽しいですよ。

ひらやま:おぉ、それはすごくいいですね! レストランをもっと楽しみたくなりました。

黒ワイン:レストランは楽しい体験ができる場ですからね。一晩の食事に何万円も払う価値があると感じている人がいる。それだけ楽しめる要素があるんです。それを知っているだけでも世界は広がっていくと思いますよ。

ひらやま:すごくおもしろいです、業界は違うけど近い世界観もあって。

黒ワイン:そうですね。お話をして、ひらやまさんと友達になれそうな気がしてきました。

ひらやま:ぜひ今後とも仲良くしていただけると。今度飲みに行きたいです!

黒ワイン:では、お誘いしますね。

編集・文:鳩田


ひらやまのあとがき

今回のコンテンツを鳩田さんと一緒につくってみて、編集をすることの大切さをひしひしと感じました。文章と編集を担当してくれた鳩田さんからもらう問いや投げかけで、話そうとしている内容やコンテンツの方向性に筋が通っていったような気がします。そして鳩田さんがいま転職活動中ですので、編集力が高い方を探しておられる方、ぜひぜひお声かけください〜。



最後まで読んでいただきありがとうございます。