かぶの葉は立派な食べ物なのに、なぜ「草冠」に「無」と書くのか
お野菜の「かぶ」の字をご存知ですか?「草冠」に「無」、「蕪」と書きます。
不思議です。
かぶの葉はかぶの根(実)の部分よりもはるかに栄養価が高い部位だと言いますし、かぶ畑って、ものすご〜〜〜〜く、葉っぱに覆われるんです。
それなのに、なぜ、字が「蕪」……?
草が、無ってこと…?
ある朝、おかゆを作っている途中にそんな疑問にとらわれました。
こういう小さな疑問をすぐには調べずに、あれこれ考えを巡らせるのがたまらなく好きです(要は暇なのです)。
3ヶ月ほど保留にして、私が立てた仮説は以下の三つ。
-----
仮説1
草が生えないようなところにも育つ強い作物だから、草では無いという意味
仮説2
かぶの「ぶ」の音に合わせて「無」をあてたものの、「か」の部分が消えて、不思議な感じになった
※「無骨 ぶこつ」など、「無 ぶ」とも読むこともある
仮説3
蕪という字を含む土地の名産
-----
さて、みなさんの頭に浮かんだ仮説はあったでしょうか。
図書館で調べてみました!
(答えだけ知りたい方は一番下へGO!笑)
まずは漢字辞典
漢字の意味が知りたかったら漢字辞典!
「蕪」の部首は草冠で、「無」は12画ですね。
【 蕪 】
1. あれる。雑草がおい茂ってあれる。
2. 生い茂った雑草。物をおおい隠すあれ草。
3. ごたごたと乱れているさま。入り乱れてよくわからないもの。
4. 「蕪菁」とは、野菜の名。アブラナ科アブラナ属の二年草。カブ。カブラ。
[ 日本語だけの意味 ]
かぶ。野菜の名。
ーーー『漢字源 改定第六版』
うむ。ちょっと何を言っていのるか混乱しますね……
雑草が生い茂ることを「蕪」という字で表し、野菜のかぶは「蕪菁」。「蕪」に「野菜のかぶ」を当てるのは、日本語特有、と。
う〜ん、わかりにくいな〜。
知りたいのは、どうして「蕪」という字が「草が生い茂ること」とつながるのか、ということなんですよね〜。
語源の方からアプローチ
しっくりこないので、語源辞典にあたってみます。
かぶ【蕪・株】
語源は、「草木の根元で、根の集まったところ」で、頭をカブというところから頭のように固まったところをいいます。経済用語の同業者の株、野菜のカブ・カブラ(蕪)も同源です。
(中略)
【蕪】…草が覆い隠す。「艸+無(おおいかくす)」。日本で野菜のカブに転用。
『日本語源広辞典』
おおお!頭をカブという。なるほど。音の意味はそういうことだったのですね。「かぶ」=「頭」。栄養がぎゅっと集まったところということですね。
株式の「株」が「蕪」と同じ語源とは、意外な発見でした。会社の根元、資金の根っこだから「かぶ」!おもしろいですね〜。(どうぶつの森の株がカブなのは、あながち間違いじゃない!笑)
もうひとつ「無」という字の方に「おおいかくす」という意味があることがわかりました。
草がおおいかくす。なんとなくあの畑の様子が見えてきましたね〜。
でも、なんで「無」なんでしょうね。もう一息でスッキリするのですが……
こんな時は絵本だ!
手詰まりの時は、調べ学習用の児童書や絵本にあたる。良く使う技です。誰もがわかりやすい言葉に言い換えて説明してくれている可能性が高いうえ、参考文献もきっちりしていて便利です。
カブの漢字は「蕪」で、くさかんむりの草+無だ。荒れ地に茂るといった意味らしく、はじめは山野に生えていたものを利用していたのだろうね。
『そだてて あそぼう カブの絵本』
山野にも茂っているような草から生まれたから「蕪」?
こんなイメージですかねえ〜。
他の草がないようなところでも草が生えているから「蕪」……堂々巡り感が出てきました。
今回の児童書作戦は残念ながら失敗。
……という一連の流れを図書館のリファレンスカウンターの方にとくとくと語り、最高の本を教えていただきました。
漢字といえば
教えていただいた本が『植物の漢字語源辞典』。
こんなすんごい本がこの世にはあるんですね……!
ありました、「蕪菁」こと「蕪」の項目。記述量スゴイ。
(著作権的な観点からフィルターかけてます)
前半はこれまでの本に載っていたような内容でしたが、後半です!
「無」は神前で舞具を両手に持って舞う人を描いた図形。「ないものを求める」というイメージがあり、「ない」「見えない」というイメージに展開する。「無+艸」を合わせて、草が生い茂って地面を覆って見えない(つまり草がはびこる)様子を暗示する。
『植物の漢字語源辞典』加納喜光、2008年、東京堂出版
草が生い茂って地面が見えない……!!
あ、そっちか!!!
荒地って、最果ての地、不毛の地みたいな荒地ではなくて…
地面が見えないほどの、草ぼうぼうの、荒地……!
……わたしの「荒地」イメージが固すぎたんですね。
なるほどこれなら、あのかぶ畑の様子と繋がりますし、
児童書にのっていた「山野に生えていたものを利用していたのだろう」という記述とも結びつきます。地面も見えないほどのボーボーの山からかぶを作ったのかもしれませんね〜。
漢字の由来を調べていて、最後に行き着くのはたいてい「白川静」さんか、「加納喜光」さん。もういっそ初めからこのお二人の著作を当たった方が早いですね。笑
答え
残念ながら仮説はどれもハズレ。個人的に納得した答えをまとめます。
かぶの葉は立派な食べ物なのに、なぜ「草冠」に「無」と書くのかの答えは……
かぶが生い茂って地面を見えなくしてしまうから。
草が地面を無くしてしまう、覆い隠してしまうから、蕪。
おお〜〜〜〜。とりあえずしっくり!
はじめから漢字博士の著作に当たればよかったのでは?とか、「無」を漢字辞典で引けばよかったのでは?等々、ツッコミどころは満載ですが、ささいな問いから寄り道をするのはたのしい時間でした。
かぶを愛でたい気分になったら、ぜひおかゆに!笑
みなさんのいただきますが、笑顔でありますように!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?