見出し画像

小さな島国から生まれたパワフルな気候リーダー バルバドスのミア・モットリー首相

バルバドスは、中央アメリカのカリブ海東部、小アンティル諸島の中のウィンドワード諸島の東端にある島国だ。その面積は430平方キロメートル、2022年の推計人口は約30万人だという。この小さな島国のミア・モットリー(Mia Mottley)首相は、規模が小さく脆弱な国々が直面する環境問題や財政の脅威に着目し力強い声を上げる。

2021年スコットランドのグラスゴーで開催された国連気候変動サミットの初日、モットリー首相は、気候変動に対処するための戦いを道徳的な言葉で表現し、豊かな国々は貧しい国々の災害からの復興と地球温暖化への適応を支援するよう呼びかけた。

「私たちの国民は見ています。私たちの国民は注目しています」と述べた彼女は、「私たちは本当に、命を救い、地球を救うために切実に必要な(気候変動対処への)野心に対するコミットメントなしに、スコットランドを去るつもりなのでしょうか? 私たちは盲目で硬直化しもはや人類の叫びを理解することができなくなっているのでしょうか?」

この演説によって、モットリー首相は一躍、気候に関する世界的な議論の最前線に躍り出た。そして近年、彼女はその権威を利用している。

彼女は、国際通貨基金(IMF)や民間金融機関と協力してバルバドスの債務再編に取り組み、支払利息の引き下げに成功したほか、激しいハリケーンが発生した場合の債務履行についてもより柔軟な対応を認めてもらえることになった。

今年9月には、バルバドスはネイチャー・コンサーバンシーと共同で、国債の償還に充てる資金の一部を海洋保護に振り向ける、新たな「ブルーボンド」プロジェクトを発表した。

11月にエジプトのシャルムエルシェイクで開催された国連気候変動サミット(COP27)でモットリー首相は再び脚光を浴びた。今度は世界銀行と国際通貨基金の改革案を発表したのだ。

この計画は、バルバドスの首都名にちなんで「ブリッジタウン・イニシアチブ」と呼ばれる。第二次世界大戦末期から続く世界経済システムの再構築を求めるものだ。

世界銀行と国際通貨基金は、1944年にニューハンプシャー州ブレトンウッズのマウントワシントンホテルで開催された連合国44カ国による会議で設立された。世界銀行は富裕国から貧困国への融資を行い、戦争からの復興を支援し、IMFは各国に流動性と安定性を提供し、支払能力を維持させるというものだった。

しかし、80年近く経った今、モットリー首相の率いるチームは、これら制度が気候変動に見舞われている国々への支援に欠けていると指摘する。貧しい国には、裕福な国よりも高い金利が適用されることがよくあるからだ。

バルバドスやパキスタンのような国は、地球温暖化に適応するために必要な資金のほんの一部しか提供されていない。また、途上国が融資を受ける場合、国民の基本的なニーズを満たす能力を損なうような緊縮財政を強いられることも多い。

今年7月にブリッジタウンで開催された会議で、モットリー首相と経済学者、非営利団体のリーダー、国連指導者らによるチームが策定したこの「ブリッジタウン・イニシアティブ」は、こうした現行システムを見直し、本来あるべき世界銀行と国際通貨基金に生まれ変わらせようとするものだ。

モットリー首相は、エジプトに集まった世界の指導者たちを前に、これらの制度改革の緊急性を訴えた。

サミットの開幕式でモットリー首相は「今こそブレトンウッズ体制を見直す時だ」と演説した。「今日この部屋に座っている国々は、ブレトンウッズ前にはそうした機関が設立されていなかったことを思い出してください。」

フランス、カナダ、アメリカ、そして世界銀行とIMFの指導者たちは、制度改革への支持を表明し、彼女のキャンペーンはすぐに好評を博した。世界銀行は今年中に計画を策定すると発表し、各機関のリーダーたちも来年に予定されている一連の会議で詳細を詰める予定だ。

モットリー首相は、バルバドスの著名な政治家の家に生まれ、2018年に首相に就任した同国初の女性首相だ。気候変動について発言することは、その小国を世界の舞台で目立つ位置に押し上げることにもなった。

ロックフェラー財団の理事長で、「ブリッジタウン・イニシアティブ」の設計を支援した幹部の一人ラジブ・J・シャー(Rajiv J. Shah)氏は、「彼女は気候変動危機の最前線にいるからこそわかる独特の信念と緊急性をもって発言している」と述べる。「多くの国が気候変動と金融危機の両方に脅かされている中、モットリー首相は、困難な時期を乗り越えるために国を導くだけでなく、世界経済を改革し、すべての人のためになる方法を模索している」。

もちろん、モットリー首相が立ち向かう課題は気候問題だけではない。新型コロナウイルス感染症の拡大では国を指揮し、同国の観光経済に打撃を与えうる一連のロックダウンを決めた。昨年には、バルバドスは正式に共和国となり、エリザベス女王との関係を断ち、過去の植民地時代から遠く離れたところに移った。

それでもモットリー首相の功績は、何よりも気候変動への取り組みによって定義されるものになりつつある。

ブリッジタウンでの会議に参加した経済学者のマリアナ・マズカート(Mariana Mazzucato)氏は、「多くの人々が、試行錯誤の末に失敗した緊縮財政に戻ろうとしたとき、彼女は、新しい経済思想に支えられたグリーン産業とイノベーション政策を採用し、政府、企業、労働者間の社会契約を再構築したいというバルバドスの野望を示した」と述べる。

「彼女の素晴らしいのは、気候危機に取り組む理由と方法について真剣に話し合う方法を知っていることだ」とマズカート氏は述べ、「それは気候問題における正義を、世界の政策対応の周辺ではなく中心に据えるということだ」と語った。

(引用元)https://www.nytimes.com/2022/12/14/world/americas/mia-mottley-climate-change-barbados.html?smid=nytcore-ios-share&referringSource=articleShare

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?