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60m近く積まれるごみ処理場が抱える問題 インド

デリー北西部のバルスワ(Bhalswa)ごみ処理場では、高さ62メートル(203フィート)を超えるごみの山に、さらにごみを積み上げるために、ジープがジグザグと登っていく。

熱とメタンガスによる火災が散発的に発生し、デリー消防局は今年これまでに14件の火災に対応した。山の地下深くでは、数週間から数ヶ月にわたってくすぶり続けるものもあるが、男女・子供までもがゴミの中から売れるものを探している。

バルスワに住む約20万人の住民の中には、この地域にはもう住めないと言う人もいるものの、彼らの多くは引っ越す余裕もなく、有毒な空気を吸い、汚染された水で水浴びをするしかないのが現状だ。

しかし、バルスワはデリー最大の埋立地ではない。ガジプール(Ghazipur)という最大の埋立地よりはまだ3メートルほど低い。しかし、どちらもインド国内のメタンガスの総排出量に寄与している。

温室効果ガスの中でも、メタンは二酸化炭素に次いで2番目に多いが、熱を逃がさない点で、気候危機をもたらす力は二酸化炭素より強力だ。人工衛星でメタンを監視しているGHGSatによると、インドは他のどの国よりも埋立地から多くのメタンが発生している。国際エネルギー機関(IEA)の「Global Methane Tracker」によると、インドのメタン排出量は中国に次いで第2位だ。

インドのモディ首相は、「クリーンインディア」構想の一環として、こうしたゴミの山を取り除き、緑地帯に転換する取り組みを行っているという。これがきちんと実現すれば、ゴミ捨て場の陰で暮らす住民の苦しみも和らぎ、世界の温室効果ガス排出量の削減にもつながる。

世界のメタン排出量を2030年までに30%以上削減(2020年比)することを約束した協定「Global Methane Pledge」には130カ国が署名しているが、インドは署名していない。科学者たちによると、メタンの30%以上の削減で、世界の気温上昇を0.2%抑えることができ、地球温暖化を1.5度未満に抑えるというパリ協定の目標達成にも貢献できるとの予測もある。

インドが署名しない理由には、同国のメタン排出の74%は家畜や水田などの農業関連で、埋立によるものは15%未満であることだからという。昨年インドのAshwini Choubey環境・森林気候変動大臣は、インドのメタン排出総量の削減を約束すれば、農民の生活を脅かし、インドの貿易・経済の見通しにも影響する可能性があると述べた。

バルスワに1982年に引っ越してきたナラヤン・チョーダリー氏(72)は、「ここは美しい場所だったが、12年後に地元の埋立地に最初のゴミが届き始めると、すべてが変わってしまった」と言う。以来、バルスワのゴミ処理場は、歴史的建築物タージ・マハル(73メートル)とそう大きく変わらない高さにまで成長し、それ自体が周囲の家々の中にそびえ立つ目障りなランドマークとなって、そこに住む人々の健康に影響を与えるようになったのだ。

チョーダリー氏は慢性喘息に苦しんでいる。4月にバルスワで大火災が発生し、何日も燃え続けた時には、死にかけたという。「ひどい状態でした。顔や鼻が腫れ上がり、私は死の床にいたのです」。

「2年前に、この地域に住む私たちの多くが廃棄物の処分を求めて抗議したましたが、自治体は協力的ではありませんでした。2年もすれば良くなると言っていたのに、何の解決策もないまま、このありさまだ」(チョーダリー氏)。

ニューデリーに拠点のある非営利研究機関・科学環境センター(CSE)が発表したインドのゴミ処理場に関する報告書(2020年)によると、このゴミ処理場は2002年に容量を使いきった。しかし、政府によるリサイクルシステムの標準化や、プラスチックの消費・生産の削減努力のないまま、毎日何トンものゴミがこの場所に届き続けている。

近隣住民を苦しめているごみ処理場はバルスワだけに限らない。腐敗した廃棄物であふれ、大気中に有毒ガスを放出している、デリー内に3つあるゴミ処理場の1つなのだ。

インド全国には3,100以上の埋立地がある。ガジプールのごみ山の高さはデリー最大の65メートルだ。バルスワ同様に、2002年に廃棄物処理能力を超え、今も大量のメタンガスを発生させている。GHGSatによると、3月のある日には、1時間に2トン以上のメタンガスが現場から漏れていたという。

GHGSatのCEO・Stephane Germain氏は、「この埋立地が1年間メタンガスを漏洩する量は、米国で35万台の自動車が1年間に排出するのと同じだけの気候へのインパクトがある」という。

バルスワやガジプールのような埋立地からは、メタン排出だけでなく、何十年にもわたって危険な毒素が地下に浸透し、何千人もの近隣住民の水源汚染ももたらしている。

2022年5月、CNNは2つの認定研究機関にバルスワ埋立地周辺の地下水の検査を依頼した。その結果、少なくとも廃棄物処理場周辺の半径500メートル(1,600フィート)圏内の地下水は汚染されていることが判明した。最初の検査報告書では、アンモニアと硫酸塩の水準が、インド政府が規定する許容限度を大幅に超えていた。

また2回目の検査結果では、あるサンプルから検出された総溶解固形物(TDS)(水に溶けている無機塩類と有機物の量)の水準が許容限界値の約19倍で、人間が飲むには危険な水準であることが示された。

インド基準局ではTDSの許容値を500mg/lに設定しており、この数値は世界保健機関(WHO)が「良好」と見なす数値とほぼ同水準だ。WHOでは、900mg/l以上は「悪い」、1,200mg/l以上は「許容できない」となる。

科学環境センター(CSE)のリチャ・シン氏によると、バルスワの現場近くで採取された水のTDSは3,000~4,000mg/lだったという。「この水は飲用に適さないだけでなく、皮膚に触れることにも適さない。つまり、入浴や調理器具の洗浄、衣服のクリーニング目的に使うことはできない」(シン氏)。

グルグラムにあるフォルティスメモリアル研究所の腫瘍内科でシニアディレクターを務めるニテッシュ・ロハティ医師は、政府に対して、地域住民の健康状態を調査し、市内の他の地域と比較するよう促した。「15~20年後に振り返ったときに、がんの発生率が高く、健康被害や健康問題が多くなったときに、この課題に取り組まなかったことを後悔したくないですから」(ロハティ氏)。

バルスワの人々のほとんどは、飲み水をボトルウォーターに依存しているが、それ以外の目的で水を使う時には、地域の水を利用する。それは、「他に選択肢がないから」だ。「でも、どうしようもないときには、食器洗いや入浴、時には飲用にも使わざるを得ない」と、足が厚く赤い発疹で覆われている住民の一人、ソニア・ビビさんは言う。

埋立地近くの路地にある小さな小屋に住むジュワラ・プラシャドさん(87)は、腐敗したゴミの山が「生き地獄」になっているという。「私たちが使う水は薄赤色だ。顔や首にできた赤い傷をなだめながら、風呂に入ると肌が焼けるんだ。でも、ここを離れられない」。

デリー最大のゴミ処理場・ガジプールには、デリー市の固形廃棄物が毎日2,300トン以上運ばれている。これは、当地の火災の発生数を減らすために結成された合同委員会が7月に発表した報告書で明らかになったことだ。

報告書によると、これらのごみは、周辺地域から出る廃棄物の大部分であり、他の手段で処理されるのは300トンにしか過ぎないという。古いゴミの中から再利用可能なものを発掘・処理するバイオマイニングが行われているのは、廃棄物全体の7%未満だという。

デリー市では、3カ月ごとに無人偵察機を導入してゴミの山の大きさを監視し、ゴミの山からメタンを抽出する方法を実験していると報告書は記載している。しかしあまりにも多くのゴミが毎日運ばれるため、作業が追いつかない。

委員会は、「バイオマイニングは遅々として進まず、イーストデリー市(現在はノースデリー市とサウスデリー市に統合)が2024年までにゴミ山を平らにするという目標を達成する可能性は極めて低い」と結論づけた。

また報告書は、「ゴミの山の高さを低くする効果的な計画は立てられていない」とも指摘する。「ゴミを捨てると将来的に地下水系も汚染されることを、もっと前に提案すべきだった」と付け加える。

CNNでは、水質検査アンケートのデータとともに一連の質問をインドの環境省と保健省に送ったが、両省からは何の回答もない。

インド政府は2019年の報告書で、リサイクルセクターの正式発足や国内でのコンポスト工場の設置拡大など、同国の固形廃棄物管理を改善する方法を提言している。ごみの戸別収集や廃棄物処理の改善など、いくつかの改善は見られるものの、それでもデリーの埋立地にはゴミがたまり続けている。

2022年10月、国家環境法廷は、3つの埋立地全体で3000万トンを超える廃棄物が処理されていないとして、州政府に対して1億ドル超の罰金を科した。

「問題は、デリーには具体的な固形廃棄物の行動計画がないことだ」とCSEのシン氏は指摘する。「だからすべての廃棄物が毎日埋立地に捨てられているのだ。」

またシン氏は言う。「たまった廃棄物を1,000トン処理しても、毎日新たな廃棄物が2,000トン投棄されるのなら、それは終わりのない悪循環に陥る。もちろん、たまった廃棄物の管理は政府の義務で非常に重要なことだが、新たに発生する廃棄物を処理する代替施設がなければ、このプロセスを開始することはできない。それが最大の課題だ」。

(引用元)https://edition.cnn.com/2022/12/10/india/india-bhalswa-landfill-pollution-climate-intl-hnk-dst/index.html


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