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会話が好きだよ

小説を読んでいちばんビリビリくるのは【会話】じゃないかと思ってる。
壮絶なアクションシーンの狭間で展開されるツーカーなやりとり。
あるいは、絶対に相容れぬ人物二人が対峙しておのれの論理をぶつけあうシーン……大いにけっこう!
世界は会話でできているんだ! アイシテル!!

この本、たしかTwitterでもバズってましたよね(おもに創作界隈?)。
読んだら、「どうしてこの会話はこんなにカッコいいのか? ときめくのか?」という秘密を紐解けるかな、と思いました。
帯もいいデザイン! あたるくんとラムちゃんやん!

最強のカップルにグッとくる帯です

著者の三木那由他さんは、会話の中で何が起きているのかを、「コミュニケーション」と「マニピュレーション」から読み解こうとします。

「コミュニケーション」とは
発言を通じて話し手と聞き手のあいだで約束事を構築していくような営み
「マニピュレーション」とは
発言を通じて話し手が聞き手の心理や行動を操ろうとする営み

三木那由他『会話を哲学する』(光文社新書)
太字部分→p.4「はじめに」から引用

こういう手法、「分析哲学」というのだそうです。奥深そう…!
この本の中では、有名な小説やマンガ、映画、戯曲に出てくる会話を例として取り上げています。現実の誰かと誰かの会話ではなくて、フィクションの中の一場面を扱うのが面白いです。
ネタバレせざるを得ない作品も扱っているのですが(『オリエント急行の殺人』など…)文中で著者がこまめに「ネタバレ注意」を喚起してくれるので、丁寧かつ優しい設計だと思います。

試しに一章、具体的に紹介してみます。▽

第六章 本心を潜ませる
冒頭から一気に飛びますが、六章では『鋼の錬金術師』(ハガレン)が登場します。誰が会話を聞いているか分からない、緊迫する情勢下での、アームストロング少佐の発言について分析していました。
アームストロング少佐は、上司であるマスタング大佐に対し、「情報提供はできない」と冷たく断ります。しかし立ち去る間際、なぜか急に「エルリック兄弟」の話題を持ち出すのです。……そこで何かを察したマスタング大佐。
まさに、スパイ映画でよく見るような場面です。
アームストロング少佐は、言葉の端々に敵を指し示すような情報を忍ばせていた。マスタング大佐にはそれが伝わったのですね。
敵は何人いて、その目的は何か、ということが。
『ハガレン』は主人公が少年であるため、百戦錬磨な大人たちの「複雑なやりとり」を理解できない時がある。その結果、少年と大人それぞれの戦い方の違いまで見えてくる、と著者は指摘します。
…………エモいな。
第六章は、会話の分析をいちだんと深め、楽しめる章でした。

ちなみに私がこの本を手に取ったのは、鎌谷優希先生の『しまなみ誰そ彼』が出てくると知ったからです。
第四章 伝わらないからこそ言えること に登場する作品です。
伝えられない言葉が人の中にはたくさん積もっている。創作をしていると、人が胸の内にしまったものにこそ、思いを馳せます。
『しまなみ誰そ彼』たいへんな名作なので『会話を哲学する』をきっかけに読まれてほしいな〜。


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