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古書ときどきくらげ【改訂版】
「雨の日は本の買い物には向きませんから」
嫌な顔もせずに古書店主は酔っ払った私をにこにこと送り出そうとするので、
「いや、そんなことは」と古書好きのプライドもあり、とにかく一冊手に取った。
表紙からページから濃厚な古い本のにおいがはじけた。ちょっと喉が痛くなるような、ほこり混じりのあのにおい。なんとはなしに潮の香りまでする。
かろうじて綴じ糸でまだつながっているが、はらはらとページがばらけ
迷える小鳥が啼く夜は
** こうして夢魔の境に歩がすすんでゆくところ
ああ、霊感がいっぱい、あたりまえのこといっぱい
〔絵馬、a thousand steps and more /吉増剛造〕**
花びらが滑るように足もとを流れてゆく。
とてもあたたかい空気がただよっている。
目に見えない風は柔らかな皮膚と背中の羽根で感ずるものだけれど、今晩ばかりは春の小花が、空気の変化を目に見えるかたちに彩ってくれる。
天使は、自