EBISU

私は東京下町生まれ下町育ち。
ご近所さんから、味噌貸して!
と嘘かマコトか耳を疑う言葉が、
本当に現実に聞こえる、
まるで寅さんの世界で育った。

そんなわけだから、
東京にいてもいわゆる繁華街とは縁遠く、
渋谷新宿池袋なんて怖くて怖くて、
行くとしても銀座か上野止まりの、
スーパービビリの10代だった。

高校生の頃、
友達と勇気を出して109に買い物に行ったことがある。
セシルマクビーで白いスカートを買ったのだが、
ドジなことに袋ごと二階の外にある自販機の前の踊り場に置き忘れた。
(多分、場違いな渋谷にいて、
平常心ではなかったのだろう。)

取りに戻ったら、袋があったので、
よかった!と、中を見たらすっからかんで、
スカートが盗られていた。
うわー、こわい!渋谷!
いっそ袋ごと持ってってほしかった。
中身だけ持ってくなんて!
恐る恐る渋谷へ行ったのに、
さらにまた怖い思いを重ねて帰ることになってしまった。
(もう、二度と行かない。)
しばらくショックで、
バイト代をはたいて買った白いスカートと、
空っぽの袋の残像が、
いつまでも脳裏に焼き付いていた。

(ここまで書いているのを読んだら、
おのぼりさんの女子高生としか思えないな。)

それほど繁華街とは縁遠かった。
下町で仲間と遊んでいれば充分だったし、
上野のABABや、
北千住のルミネが1番買い物しやすかった。
ルミネにもセシルマクビーは入っていたから、
悔しいけど、白いスカートを買い直した。
(最初から北千住で買えばよかったのだ!)

かろうじて銀座は小さい頃から両親に連れられて、
ソニープラザやホコ天や、
馴染みのドイツ料理屋さんなどがあり、
安心して1人でも銀ブラできた。
若者があまりいなく、
ハイソなセンスのよい、
品のある人ばかりが歩いているように思えた。

大人になり、働き出してしばらくして、
結婚もまだまだ遠い夢のまた夢の頃、
同じく、淋しんぼの独身の親友と、
毎晩のように下町を飲み歩いていた。

ある日、彼女と話していて、
せっかく東京に住んでいるのだから、
オシャレタウンの飲み屋を開拓しよう!ということになった。

そこで週一回、
当時の私たちのオシャレタウンのイメージ
=中目黒、代官山、赤坂、恵比寿
あたりを攻めていこう、ということになった。

赤坂は銀座線で行きやすく、
思ったより遠くないし、
韓国料理屋さんが多かったり、
どこか下町じみた雰囲気があって、
違和感を感じずにお店にいれた。

他の街はやはりドキドキしながら、
駅に降り立ち、お店のドアを開けるのだった。

恵比寿には何回か行った。
おしゃれなお店もたくさんだし、
いるだけで自分もイケてる感覚に陥る、
危ない街。
いいお店もたくさんあるから、
開拓しようとすればいくらでもできたはず。

でも、なんせ、遠い、、。
電車に乗ってる時間であと何杯飲める?
と、のんべえな私たちは結局下町に帰ると、
価格も雰囲気も安心二重丸の、
赤ちょうちんの店で仕切り直すのだった。

そのうち自然とオシャレタウン巡りは、
どちらとも言わずに消滅した。

やはりEBISUよりアサヒなのよ、下町は!
冷えたアサヒビールなんだ!
(実際は
しえたあさしビール、としか発音できていないが、、)

とか笑いながら、
たわいない会話で、 
下町愛で、夜を深めるのだった。



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