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嬉しそうな誰かを無視するのは難しいし、嬉しそうな誰かは理由を答えたくてウズウズしている

 A「……ウフフ、まさかねえ」
 B「……」
 A「エヘヘ……いや、まいったな」
 B「……なあ」
 A「おおっと、いたの? いやごめんね気づかなくて、ハハハ……」
 B「なんかいいことでもあったのか?」
 A「えっ、分かる? いやー、普通にしてたつもりなんだけどなあ!」
 B「掃除道具持ってニヤニヤしてたら呼び止めるだろ……」
 A「実はさ、この前言ってた知り合いの子が部屋に遊びに来てくれるって話になってね──」

 キャラクター同士の会話がスムーズに進む時、そこに「説明」はない。どのキャラクターも必然的に、その状況下で発言すべき内容を話し、それを聞いた別のキャラクターが発言を拾い、また発言を返す。
 そういった「やりとり」によって会話は滞ることなく進むし、それを見聞きしているだけで、彼らの置かれた状況というものが必要なだけ分かるようになっている。スムーズな会話の応酬というのは、単に短い高速のやり取りや、ボケとツッコミのやり合いという意味ではなくて、その会話の参加者達が「説明」をしていないにもかかわらず、その全体として情報不足に陥らないものを指している。

 情報不足というのは、その場面で読み手が知りたい情報が提示されていないということである。だから往々にして、情報不足に陥った会話は、「説明セリフ」を始めてしまう。なぜなら、会話の流れをできるだけ止めずに、情報を入れ込むのに適しているからだ。しかし説明ゼリフはその代償として、その発言をしたキャラクターの印象と、会話全体の雰囲気をぎこちないものにしてしまう。現実の世界でも、誰も、会話の行く末などほとんど意識していないものだ。そんな中で放り込まれる説明セリフは「予定調和」であり、「ここで伝えなければならないこの情報を出さなければ」という目的がはっきりしすぎている。そのような主張の強いものは、スムーズな会話に適さない。流れを止め、淀ませ、キャラクターですらおかしな存在へと変えてしまう。
 だから、できる限り、キャラクターの会話やセリフにおいて、「説明」は避けられている。いざ説明すべき状況や、キャラクターや、心理状況などが来なければ、説明はできない。
 そのような好機とは、1つには「特定のキャラクターの感情が昂ぶっている時」である。喜怒哀楽、不安や恐怖、勝利を確信した時、余裕のある時、新参者が右往左往している時など、とにかく、誰かの感情があちこちに揺れ動いている状況は、説明セリフの格好のタイミングだ。
 なぜなら、そんな状況に陥っているキャラクターの「アクション」は、あきらかにツッコミ待ちだからである。感情が昂ぶっている誰かを、全く無視することなどできないだろう。側でため息を付いていたり、何もないところでニヤニヤしていたり、憤懣やるかたない様子で紙コップを握りつぶしていたり、部屋の中に鼻歌スキップしながら入ってきたり……。
 そんなアクションには、「リアクション」せざるを得ない。するとそこに、「説明」のタイミングが訪れる。なぜなら気になるから。どうしてそんなアクションをしているのか? 思わずリアクションをしてしまうほどの様子になっている理由とは? 明らかに聞いてほしそうに目配せしてくるけど、質問しなきゃ終わりそうにないよね……そんな具合だ。

①昂ぶる感情のアクション
②リアクション(質問)
③状況説明(回答)

 この一連の流れによって、会話の流れをそのままに、説明をすることができる。多少の説明セリフも違和感がない。だって、他のキャラクターも、読み手もそれを知りたいから。知りたいことは説明してしまってもいいのである。反対に、知りたくないことは口をつぐんでおかなければならないのだけれど。

 なんにせよ、キャラクター同士の会話にとって邪魔なのは、その流れを淀ませる「説明」だ。でも、どうしたって説明は必要なこともある。だからお膳立てが必要で、その1つが「①昂ぶる感情のアクション」と「②リアクション(質問)だ、という話である。
 この2つの会話的なクッションを入れることによって、「③状況説明(回答)」は自然な、受け入れやすいものとなる。
 誰だって、嬉しそうな人の様子は気になるものだし、嬉しそうな本人は、その理由を語りたがるのだから。

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