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2020年3月の記事一覧

聖水少女10

 前

https://note.com/kawatunaka/n/nffa19fe517fa

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403

心機一転とはまさにこの事であろう。

「椿さん。お昼、一緒にどうかしら」

 夏場に落ちる深い影のような声は香織である。彼女が自ら天花に向かって昼食を誘ったのだ。周囲は口にこそ出さなかった

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聖水少女9



https://note.com/kawatunaka/n/n4f6f200a37b0

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/taka1212384/works

 陽が暮れて雨が止み香織の涙も止まっていたがそれは流すものがなくなっただけであり実際には相変わらず泣いているのであった。
 嗚咽の中に紛れるか細い声はしゃがれ、床の敷布は所々水でもかけたのかのように濡れ

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聖水少女8



カクヨム

 放課後。香織は逃げるようにして校舎を出た。下校する生徒にぶつかるのを省みず廊下を駆け抜たために服には不自然な皺や埃が目立ちはしたなかったが、それ以上に赤く変色した目元が痛ましかった。妙な事を考え取り乱し笑われたのが辛く、塞ぎ込めばそれだけ疎外感が生まれ、苦しいのだ。
 客観的に見れば盛大な一人相撲に他ならず、香織の迷走といえるだろう。だが考えてみれば彼女は思春期。多感を患った若

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聖水少女7

 前

https://note.com/kawatunaka/n/n80e6d048396d

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403

そうして香織と天花は暇なく話を続け、気が付けば陽が傾く頃合いとなっていた。山茶花堂の窓から見える景色は紫陽花色をした夕暮れ。学業に打ち込むべき男女には些か遅い時間である。

「いい時間になった

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聖水少女6



https://note.com/kawatunaka/n/nc206c1fc9f06

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403

 並んで歩く若き男女のなんと美しき事か。通りすがる野良猫さえ振り向く際立ちである。放つ精彩はさながらミレイのブラックブランズウィッカー。瑞々しい男女の番というものはそれだけで一種の芸術性を産み出し、

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聖水少女5



https://note.com/kawatunaka/n/nb7c2e32b9174

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403

 赤面し顔を伏せる香織に目敏く声をかけたのは天花ではなく付随の男子生徒であった。

「おや、どうなさいましたか? 左様に顔を赤められて……あ、そうか分かりましたぞ! さては香織姫、誰彼かに恋

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聖水少女4



https://note.com/kawatunaka/n/n8f3818657744

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403

 その後はいつも通りに授業が始まりいつも通り終わっていった。数学も現代文も世界史も香織にとっては何も香らぬ内容ではあったが大人しく受講した。文明の利点を享受する以上は最低限の知識と教養を備えなければ

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聖水少女3

前回

カクヨム

 道すがら尿を振りかけながら登校した香織が学校に到着後すぐさま確認するのは天花の所在である。
 彼女は軽やかに席へと座り、一日の準備をしつつ周りを見渡す。そして天花の姿を見つけると安堵と高揚の矛盾を抱え、人知れず、だらしなく頬を緩ませるのだった。香織も天花も皆勤者であり毎日顔を合わせているが、その事実を天花が心得ているか定かではない。だが、香織はその些細な共通点を誰よりも噛みし

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聖水少女2

カクヨム

 香織の朝は早い。
 共働きの両親を慮おもんぱかり家事の一部を引き受けている彼女は毎朝家族三人分の朝食と弁当を作っている。月曜と木曜はゴミ出しまであるのだからさらに忙しい。飽くまで寝ていたら遅刻必至。鶏鳴とまではいかぬまでも、未だ朝日が低いうちに起きねばなんともならぬのである。
 と、同時に、まだ誰も起きていないからこそできる事が一つ。それは厠にて行う秘事。香織が人知れずに繰り返す異常

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聖水少女

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403/episodes/1177354054894480421

 漏水香織の尿は実に馨しかった。
 金木犀のように淑やかで、薔薇のような高貴さを持ち、桃のように甘く、梨のように瑞々しい、まるで極楽浄土に流れる川の如き芳香が、彼女の尿からするのであった。凡人の鼻をつくアンモニアとは無縁の特異体質である。
 香織は

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