雪かきしながら思い出す街～札幌～
吹雪いている中を一人歩くのは、途方もなく孤独だと知った。
息を少しひそめる風にして、伏し目がちに、そして足もとに気をつけながら歩く。
冷たい雪は、容赦なく顔に当たって、いちいちぴりりと痛い。車は行き交い、雪道を歩いているのに、シンとしている。
冷たい。寒い。痛い。
寂しい。
きっとこの瞬間、関西の友人たちは誰も私のことなんか思い出していないだろう。思い出したところで、こんな景色の中、静かに私が冷たい風を吸い込んでは息を吐き出しているなんて、想像もしていないだろう。
兵庫県宝塚市とニュージャージーで暮らした経験しかない私は、雪国での暮らしは未知の世界だった。
1998年の3月終わり。
春だけど雪が残っていて、関西育ちの私には新鮮な景色。
暑い所が苦手でキンと冷えた寒さが好きなので、札幌での暮らしは苦ではないだろうと高をくくっていた。
でも夏に向かっているのに、暑くならなさ過ぎてちょっと焦る。
お気に入りの、タンクトップのTシャツを着る機会がないなあ。
そのうちどうやら身体が気候についていかないみたいで、20代半ばにして、アパートの一室にて日々寝込む。
孤独。
ニュージャージーにいた方がまだ頼れる友人たちがいた。
そして暑くならないなあと思っているうちに、そのまま冬になってしまった。
吹雪に慣れない。前を向けず、信号を見上げるのも大変。
車を出す雪かきに2時間かかり、結局疲れてそのまま部屋に戻って寝る。
それでも元気な日は、市の国際交流センターでボランティア活動やサークル活動を見つけて、少しずつ友達を作っていった。
夫も、自分の飲み会に時には私を呼んでくれて、寂しくならないように気を使ってくれていた。
出張にも同行させてくれて、もちろん自分の費用は出すので、お金は全然貯まらないし、私も同行したところでそんなに話さないのだけど、時間を共有して楽しい思い出が積み重なっていった。
少しずつ慣れていった。
知り合いができて、気候に慣れて。
何よりも食文化に慣れて！
特に美味しいのは、店で食すラーメン。寿司。スープカレー。
スーパーでは、生のホタテや筋子やイカを、安い値段で買える。自宅でさばく。
ずっと札幌で暮らしている人には当たり前の作業だろうけど、私には初めての経験。好きな食材だし、楽しくて美味しくて。
先日、「子供が大学生になったら、札幌に住むかもしれない」と友人から連絡があった。
「札幌ってどんな街なの？ 都会だよね？ 行ったことないから想像できなくて」と言う。
都会だよ。
何でもあるし、便利だしこざっぱりしていてオシャレだよ。
地下鉄もたくさん走ってるから安心だよ。
だけど、ビル街の奥はスカスカで薄くて。平野だからね、だだっ広いよ。なんかでもそれが良いの。
自然豊かだし、温泉も周りにたくさんあるよ。
住む場所もきっとたくさんあるから安心して。
雪は確かに大変だけど、街の魅力がそれを上回るよ。
もう16年ほども前になってしまうのか。その後、夫の実家もあるから時々訪れているけど、札幌の街を紹介しながら、また思い出していた。
冬の寒い日。吹雪く中。夫の運転で私は一緒に車に乗っていた。
橋の上はツルツルに凍っていて、前方で、いったん止まった車が動けなくなった。
運転席にいた夫がためらいもなく、車を飛び出て、その車を押す。夫だけではない。たくさんの人が自分の車をとめて、一緒に押していた。車が動き出すと、みんなサーッと自分の車に戻る。
うわあ。みんなカッコ良いんだなあ。
カッコ良いと言えば、札幌の女性だって。仕事のためでも家族のためでも、雪かきを積極的にする。家を出れない、車を出せないから、仕方ないのだけど、誰かの仕事なんて思っていなくて、やらなきゃならない人がやる。タイヤ交換だってできる。たくましいんだなあ。
子育て環境も良かった。児童館もたくさんあって時間に厳しくなかった。広い公園もたくさん。屋内プールもたくさん。心配事があると相談に乗ってくれる医者や保健師さんがいて、その後も声をかけてくれたり、母親の気持ちを軽くしてくれる預け先もあちこちにあった。
食を知って、季節を感じて、人柄を知って。
何年も経つと、全然孤独じゃなくなっていた。
今でも、一緒に乾杯した夫の仕事仲間や出張で同行した方たちと、機会あって会うと、みんなで食べたり飲んだりできる。懐かしいなあ、おじさんになったな～って。みんなも私を見ると、ニコニコ目を細めて挨拶してくれる。おばさんになったな～って思っていることだろう。
全体的には、札幌よりだいぶ雪が少ないけど、ここ数日、ドカ雪に見舞われた。一人で駐車場の雪かきをしながら、札幌での暮らしを思い出す。
札幌は大好きな街。
読んでいただいて、ありがとうございます！ 心に残る記事をまた書きたいです。