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漫画の中から、何とか一冊「子供はわかってあげない」

 子供が成長してくると、子供も本を読んでくれるようになり、子供が夢中になっている本を一緒になって読んだものだったけど、今は漫画の方が多い。夫がどんなジャンルのものでも買うので、我が家には漫画も多く、本棚に混在している。自然と私も手に取るようになる。


 そうやってそれまでは読まなかった本だけでなく、知らなかった漫画も読むようになって、漫画の世界が思わぬ広がりを持っていることを知った。

 業田良家による『自虐の詩』では、哀しいギャグマンガかと思いきや親子関係と友達関係で最後に胸をかき乱されて泣き、歌川たいじの『母さんがどんなに僕を嫌いでも』では、よく生きてきたねと何度も何度も泣き、他、上野顕太郎による『さよならも言わずに』、松田洋子による『ママゴト』、劔樹人の『あの頃。男子かしまし物語』を始め、こんな紹介の仕方ではもったいないほど、さまざまに心を揺さぶられて、涙でページがゆらゆらに見えてしまうような漫画がたくさんあるのだと知った。

 野中英次による『魁!!クロマティ高校』を始め石川雅之の『週刊石川雅之』他、転げ回って笑う漫画もある。笑いの止まらない私を見て、夫がちょっと引いている。転げ回っている時にうっすら視界に入り、我に返る。あっこれ、私が選んで買った漫画じゃないんでしたね。

 九井諒子による『ダンジョン飯』など他にもゲームの中の世界をテーマにした漫画も最近は出ていてそれもまた楽しいし、結婚してからそれはそれはたくさんの漫画と出会った。


 あずまきよひこによる『よつばと』、小山宙哉の『宇宙兄弟』その他まだまだ紹介したいお気に入りの漫画はたくさんあって、キリがない。もうこれだけでも厳選したものだけを載せたので、なかなかどうしたものか、本以上に「これ!」というものが絞れず、ウンウン考えて選んだ。 

 とりあえず今回は、田島列島さんの『子供はわかってあげない』について紹介したい。
 私の中では、珍しく穏やかで温かい部分がアピールできそうだ!

 映画の好みも知っていただけると、きっと私にもそういう面もあるとわかってもらえると思います。

 と思って自分の映画についてのものを見返したら、最近アベンジャーズものばかりだった。でもこれも元々は……という説明は何度もしてきて、読まれていなかろうが自分の中では説明することに飽きてきた。とにかく元々は苦手なジャンルの映画だったんです。本当はヒューマンドラマみたいなゆったりしたものだって好きなのだ!


 で、『子供はわかってあげない』ですが。展開がどうなるかと筋を追うことに多少は焦ったりもするのだが、登場人物の人間性を感じることの方が面白い。
 絵のタッチはスッキリしていて余白も多い。皆の顔も余白が多い。ま、薄い顔なのですね。主人公の女子高生、朔田さんが可愛い。サッパリとした性格、サッパリとした顔、そしてサッパリとした体つき。でもサバサバを売りになどしていない。キュートな女子高生なのだ。
 そしてなんといっても門司君です。もじくん。ひらがなで書くと、もじもじされちゃいそうじゃないか。可愛いじゃないか。

 話の大筋は、大人の複雑な事情に、高校生たちがなんとな~くだけど振り回されていて、そういう子供たちが、なんとな~く大人になっていく過程が書かれてある。多少ミステリーが含まれており、話を引っ張っていくのに大事で大きな展開もあるが、全体としてあまり何も起こらない。二人の高校生が、なんとな~く成長していく様子が描かれている。でもその「なんとな~く」が、自然で現実味がある。冷めているわけでもなく、熱くなるわけでもなく、バランスの取れた感覚の二人の男女が、不自然なほどさわやかでもなく、とにかくこちらに押し付けるものがなく、なんとな~く成長して、後半急にグッと近づくのだ。

 この漫画は、全体的に「なんとなく」でユルイ感じが良いんだけど、「大人の役割とは、次の世代にバトンを渡すことである」というメッセージは、強く感じた。

 子供が子供を脱する瞬間て、「あからさまにものすごくドラマチックな経験を経て、価値観が変わった」とか、「○○歳になったから」とか、「社会人になったから」とか、そういうことではないだろう。自分が成熟してきたと感じるのは、やみくもに自分のやってきたことをなぞらせるのではなく、押し付けるのではなく、次世代にどういうバトンを渡そうかを考え、行動に移し始めた時だ。

 サクタさんの父親が、もじ君と対峙した時に何度も、直接だけど、穏やかに色々な思いを伝えている場面。サクタさんのお母さんが、彼女の嘘に気づいて自分の思いを言って聞かせる場面。軽いミステリーを暴くシーンでも犯人に対して、その親が思いを伝える場面。
 そういった場面ごとで、親たちが子供への思いというものを言語化していて、ああここまで言わないと伝わったことにならない、「子供はなかなかわかってくれない」んだろうなあと思わせられる。

 親の思いがいくらあっても、言語化しないと伝わらないことが多々ある。

 最後にどうしても書いておきたいのが、この漫画、告白シーンがとても良い。
 もじ君とサクタさんがお互いを好きだと言い合うシーンが、今まで見た漫画のどの告白シーンよりも秀逸。もちろん私にとっては。ですが。ドラマチックではなく、唐突でもなく、ロマンチックでもなく、好きと伝え合う。こんなにあっさりしているのに、キュンキュン感じる告白は相当なものだ。告白されて「自分がいいものに思えてくる」と静かに照れ合う二人。もじ君もサクタさんも可愛すぎる。
 そんなわけで話の筋、各登場人物、絵のタッチ、すべて魅力的なこの漫画が、格別に大好きです。

#漫画 #子供はわかってあげない #大人 #バトン #思いを言葉にする

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