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話をちゃんと聞いてもらっている実感があると安心する

 あからさまに、ハッとした顔をしてしまった。
 後から思い返すとなんて顔に出やすいの私。と恥ずかしくなるほど。
 だけど朝から緊張していたから、ホッとしてさ~。

***

 今住んでいる地域で近くの婦人科は、ほぼ全部行ってみた。今回行ったそこは遠くて、もうそれ以上遠くには通えないから「最後の一つ」の気持ち。
 田舎街だからそもそも病院が少なめ。引っ越してくると、人口が少ない地域って病院の選択肢は減るんだなと実感したし、その中で自分と相性の良くない医師しか見つからずストレスを抱えながら通うケースもある。
 不安に思ったことや不思議に感じたことを聞きたくても、それをただ質問として気持ち良く応えてくれる医師ばかりではなくて。

 更年期症状が心配で最初にかかった婦人科では、出された薬を後で調べるとけっこう強いもので、説明もなくこんなに強い薬を出されるのかと不安になった。次行った時に説明を求めたけど、なんだかはぐらかされてしまった。そこを追求する強さが必要なのだろうけど。

 別の婦人科に行ってみた。
 ホルモンによる精神的な不安定さを訴えると、以前住んでいた地域の内科で処方された薬を出された。
 以前通った内科では、自律神経の調整が下手な私を考慮してあれこれと対応を考えて下さった。不安定な気持ちを聞いてもらい、薬ののみかたも説明してくれた。私は自分をコントロールできているから、薬に頼りすぎない方が良いそうだ。のみ続けたらやめるのが大変だとかのむタイミングだとかを教えてもらっていた。
 そのため、その薬には慣れていたので、当時お世話になった先生に言われたことを思い出しながら、調整してのんだ。でも次に指定された日に行くと、「えっ。まだ残っているの? 勝手な判断しないでください。必ずのみきってください」と叱られた後「あなた、そうやってよく気分が沈んでうつ状態になるんでしょう」「勝手にそんなことして。薬のことなんて素人なのに」「私より知っているわけがないでしょう」などと言われ、駐車場で夫に電話し泣きながら話を聞いてもらった。

 そりゃ診察に行ったからにはその先生の言うとおりにするのが基本だろう。
 でもやみくもにその薬に頼るのはイヤだ。

 婦人科というところは、検査の仕方も含めてデリケートな場所だ。どんな気持ちで患者が行っているか想像しているだろうか。まだ少し残っているなんて言わなきゃ良かった。でも振り返れば、そんな先生にかかり続けなくて良かったのだ。

 近くだと、あとは大病院がいくつかしかない。

 他の科の評判が悪くない病院の婦人科に通うことにした。

 若い女性医師にいろいろ相談した。

 でもどうも話を聞いてもらっている実感がない。

 一通り説明しても、間に看護師さんとのやり取りがはさまると、もう忘れていて「ホットフラッシュがあるんでしたっけ」とか言う。そのころの私はホットフラッシュ未経験だったので、えっ何聞いてたの? と驚いた。

 子宮が後屈しているから検査に手術が必要だと言われて、夫にも付き添ってもらい、全身麻酔して検査したら、子宮内膜増殖症のようだと言われた。「生活する上で何か気をつけなければいけないことはありませんか?」と聞いたら「ありません」と言われて、とにかく数か月おきに、検査してくれと言われた。

 更年期症状がつらいと言っても薬が出されるわけでもないので、私が自分で調べてのんでいた漢方薬を出してほしいとお願いして出してもらった。
 けど。先生の方から提案とか説明はないのだろうかと不思議にも思う。
 次行った時に「他の漢方薬も試してみて良いですか」と言ったら、今度はその漢方薬になった。試行錯誤する私の言うままにあれこれと漢方薬は変わった。どれが良いのか何が「効いている」のか確信も持てない。

 そしてその後の検査には、何故か手術は必要なくて、ただ毎回激痛で、ストレスが増していく。

 友人とぐうぜん待合室で会うと、彼女も「全身麻酔の手術が必要と言われて申し込みに行かなくちゃならない」と言っていた。へえそんなにみんなも必要なものなんだと思った。

 何か月後かに「治ってる」と言われたけど、またしばらくすると「良くない疑いがまた出てきて、全身麻酔の検査手術が必要なようです」と言われた。

 そこで不信感がわいてしまい、「こういう風にならないために気を付けなければならないことってないんでしょうか」と改めて聞こうとしたら、話している途中で「ないです」とかぶせられた。


 ウーン。

 困ったな。いつも会話をしてくれない。

 だから遠いけど新たに通い始めた婦人科の先生が、けっこうおじいちゃん先生で、ボソボソ喋る感じにも不安を抱いた。

 ちゃんと話を聞いてくれているんだろうか。私の質問は答えてもらえるのだろうか。いやな顔されないだろうか。説明はしてもらえるのだろうか。

 一回目は、画面を共有しながら詳しく説明してくれたし、検査自体がつらくなるほどの痛みもなかった。

 二回目は検査結果を知らされた。特に問題なかった。
 ホルモンの検査もしてくれていたので、今の私がどんな状態か、そしてどの漢方薬が合うか探ってみましょうと提案してくれた。
 今の漢方薬が「合ってるかどうかわからない」と言うと、わからないくらいなら必要ないんじゃないかと笑われて、それまでの加味逍遙散から、別の漢方薬に変えてみた。

 その漢方薬、少し体が元気になって嬉しくなっていたら、精神的に強い落ち込みと激しい不安感がやってきて困惑した。
 そうだ。この症状があったから、加味逍遙散を飲み始めたのに、もう何年も前にのみ始めたから忘れていた。

 三回目のその日。
 説明を上手くできるか自信がなかった。
 そのちょっと前に夫に話したら「そのまま伝えれば良いじゃない」と言う。でも一生懸命伝えようとしている私に付き合ってくれる夫(たぶん仕方なく付き合ってくれている)だから、下手でたどたどしくても伝わったのであって。そんな根気ある先生だと良いけど。わからないし。

 かぶせ気味に否定してこないか。精神状態が落ち込んだり不安感に包まれる私を「そんなだから」と責めてこないか。うまく説明できない私に苛立たないか。無視されないか。そして漢方薬を自分の判断で試行錯誤することを「何も知らないくせに」と非難してこないか。

 その日の朝から不安で仕方なかった。

 加味逍遙散をやめて前回処方された漢方薬にしたら体は元気になったけど、精神的な落ち込みがひどくてつらくて、早めに来てしまいました。
 と説明したら、まず「加味逍遙散はそういうきっかけでのみはじめたの?」と聞かれた。

 そうなんです。もうだいぶ前に飲み始めたから、それが日常になって、なんで飲んでいるのか忘れてしまっていて。と自分の間抜けさを説明しながら、私らしさに「はは」と笑ってしまった。つい笑ってしまう自分にまた少し緊張する。
 でも先生は自然に「ふうん」と受け止め。そして。

 「精神的な落ち込みってね。落ち込むこと自体が悪いんじゃないんですよ。落ち込むって心が疲れて余裕がないからよけいにそうなるの。疲れている時は休むでしょ。だから落ち込んじゃったなって思ったら、休むんですよ」と言われた。

 落ち込むこと自体が悪いんじゃない。

 ーの言葉にハッとして先生の目をのぞきこんだ。
 あからさまに動揺してしまった。

 先生はまっすぐに私の顔を見ていた。

 そして「別の漢方薬も試してみてください」と提案された。

 夜中の動悸や夢見の悪いのが負担なようだし、自律神経に効くとされている薬。と説明されて、その時に漢方薬の症状によって、効いたか効いていないかわからないような時はあまり効果がないと思って良いこと。
 のんでいる薬と併用して良いかどうかということ。
 前回出した薬がすごく効くなら頓服のようにしてのんでも問題ないこと。
 きちんと説明があった。

 診察室を出た私は緊張もほぐれて、こんなにちゃんと話を聞いてくれるんだと安心して力が抜けた。

 年齢を重ねて気持ちが自由になっていくのは確か。ちょっとした失敗も恥ずかしくなくなっていくし、考え方にこだわりも減っていく。
 でも臆病になっていく場面も増えている気がする。わからないことも増えてくるし、若い人たちにイライラされてしまうとか。反射神経が遅くなり、動きが鈍くなる。そうやって自信のない部分も出てくる。開き直っているようでそうでもない。
 ちょっとでもわからないことは気軽に質問する私なのに、傷つきを重ねて、いつのまにか臆病になっていたのだろう。

 まだ心配なところがあるから別の検査をお願いしなければならない。
 ちょっと遠いけれど、その先生にしばらくはお世話になろう。



読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。