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会ってから名残まで楽しい彼女

 しょっちゅうではないけど、時々そうするように、カフェにパソコンを持ち込み、1~2時間ほど集中する。田舎は基本的にいつでも混んでいないから、気を使わなくて良い。
 席につこうとしたら、すぐ横にあるついたてにパソコンの入っているカバンをぶつけてしまった。
 ゴゴン! と音がしちゃったので、ついたてをはさんで、すぐとなりに座っていた人に「すみません」とあやまる。

 その人が「なに?」みたいな顔でこちらを見ている。
 なに。みたいな顔してなに? めっちゃ見てくるやん。とついたて越しに気になって目が合うと、知っている顔。友達だった!

 わあ! 思わず声が出たので友達が驚いている。
 ついたてと言っても分厚めの木で、上の方にちょこっと飾りの穴が開いている。すきまからのぞくように友達を発見したその時、私はマスク姿だった。

 マスクを外して、ついたてより上に顔を出し、名前を呼ぶ。

 「わあ!」
 今度は彼女が驚いた。

 彼女はイヤホンをしながら勉強に集中していて、私がぶつけた音が軽いノック音に聞こえたそうだ。「どうしたの? 呼んだ?」とこちらをじっと見たらしい。

 なんだかドラマみたいな偶然が楽しい。

 そっち行って良い?
 彼女の返事も聞かずに4人掛けの席にノートやテキストを広げている彼女の席に移ってしまった。
 あっ。ごめん。勉強中ね。じゃましないようにするねとパソコンを出す。

 「良いよ。ちょっとしゃべりたい」
 彼女がそう言ってくれるので、お互いの近況を伝え合う。
 数か月ぶり。
 彼女は中国人で、以前同じ時期に同じアパートに住んでいた。プライベートで少しだけ日本語を教えていた。と言っても、彼女は日本語の大学を出ているほどだから会話に不自由しない。10歳くらい年下だけど、気の合う友達。と私は思っている。
 もう15年くらい続いていて、震災の時はお互い避難して連絡を取りあったり、母親友達として彼女の悩みを聞いたり、漫画を貸したり。私の話はあまりしないようだけど、自分の話をしてくれたり私に質問してくれたり、話題を振ってくれるのは必ず彼女。私はとにかくボンヤリしているから、よくしゃべってよく笑う彼女に助けられる。
 それに彼女の相談事や日本語に対して、私はわりと率直に意見を言ってしまう。なので感情をコントロールしたり言いたいことを我慢したりしている感覚はない。二人でよくゲラゲラ笑っている。

 しばらく話していると「そろそろ勉強しましょうか」と彼女が言う。私の作業に気を使ってくれているみたい。
 彼女の勉強のじゃまをしてはいけないと私もあわてる。

 向かい合いつつしばし集中する二人。

 時々「これってどういう意味?」と日本語のテキストを見せられる。やはり細かなニュアンスが難しいようだ。
 一通り説明すると「やっぱり日本語は面白い。直接的にこれにして下さい! こうじゃないとダメです! っていうんじゃなく、そっちよりこっちが良いなーと言う。とっても優しくて穏やかな言いかたをするんですね」とニコニコ微笑む。
 特に、電話の声が聞こえづらい時に、「お電話が遠いようですが」と電話のせいにするのが良いねと気に入っていた。「アナタの声が小さいから聞こえないよ!」って乱暴に言うんじゃないのねえと感慨深げに遠くを見ている。

 確かにそういうところあるかもねえ。私がそう言うと、彼女がホワンと思いをめぐらしてから微笑む表情が可愛くて、笑ってしまう。

 しばらくするとまたお喋りが始まってしまうけど、少しはかどった。彼女は近くのラーメン屋でダンナさんと待ち合わせてランチするのだとうれしそうにその時間に出ていった。

 帰宅後、自分のスケジュールノートを見ていたら「ヒゲ 産毛」と書かれてあると気づいた。彼女と喋っていて「ウブゲ? ってナニ??」と聞かれたので説明したのだ。わかりやすいようにと書いたのが、帰宅して見ると、思っていた以上に字が大きくて、ページをめくる度に目に飛びこんできて恥ずかしい。
 「初めて聞いた!」とすごく喜んでくれていたので、まあヨシとしたい。

 漫画読んだらまた連絡するねと言う彼女から連絡があった。どうやら読んだみたいだ。感想やらおしゃべりが楽しみだな。


読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。