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笑顔をたくさんありがとう~母の月によせて~

 幼少期は、私はお母さんには要らない子なんじゃないかと思っていた。お兄ちゃんは勉強もできて、いろんなことを覚えていて、たくさんのことを知っていて、好奇心があって、おしゃべりできて、ユーモアがあって、向かっていく強さがあって。私にはない部分ばかりを褒めているのを私に言って聞かせるから。お兄ちゃんみたいになりたくて真似ばかりして。

 でもなれなかった。
 私は勉強でいつも怒られて怖かった。
 ピアノを教わる時も厳しくて怖かった。
 私に得意なことも、特別なところもないって思っていた。
 かせみは敏感すぎてやりにくいって言われた。
 だから褒められたくて時々嘘をついてしまった。
 敏感な所には目を向けないように皆の前で自分の感情を閉じ込めた。

 転校していじめられると、気が弱いって言われた。
 いじめる子が怖くて塾を遅刻したり、帰る時間をちゃんと守れなかったり、約束を破ったりした。よけいに怒られて、家でも自分を取りつくろうことに一生懸命だった。
 かせみは神経が細くて考えすぎって言われた。

 おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に暮らすようになると、お母さんの機嫌が悪くなる度、私のせいなんじゃないかって思った。
 おばあちゃんとお母さんや親戚とで、私の悪いことを話しているんじゃないかって思った。
 かせみはおとなしいって言われた。

 お母さんは、私のままの私を好きじゃないんだと思いこんだ。
 毎日部屋で泣いた。
 甘えさせてくれなかった。手をつなぐのも、ふくれっ面もダメだった。口ごたえなんかしたことないし、そんな態度もできなかった。

 だから自分に子供ができて親子関係について勉強した時、お母さんにイヤな態度すらも見せられないっておかしいと気付いた。自律神経失調がひどくなった時、カウンセリングルームや心療内科で、母親との関係について指摘された。
 それから10年近く反抗期みたいになって、苦しかった。

 でもふと、お母さんと私とは同じなんかじゃないって気づいた。
 私はお母さんと一緒じゃないんだから、コントロールしようとしないでって思っていたけど、お母さんだって私と一緒じゃないもんね。私と同じように感じたり考えたりしてよっていつの間にか思っていたと気付いた。


 もう40歳になってしまっていたけど、そこから少しずつ気持ちがゆるんでいった気がするよ。

 おばあちゃんが亡くなる前くらいから、お母さんは話しやすくなった。
 「私は何も自分で決めてこなかった」とお母さんが嘆いていた。
 あの頃からかな。

 今はお父さんとお母さんの、元気かどうかの様子うかがいのつもりで連絡を取っているけど、私の方が、もらう元気が多いって気づいているんだ。
 最近、息子の話をしていると、特に思う。お母さんの気持ちの中でどうにか、それを受け止めようとしてくれている。
 息子を育ててきた私のことも、私とは特性のちがう息子のことも。

 そう思うとね、お母さんはずっと元気をくれていたんだなって思うんだよ。
 子供の頃、あんなに私にたくさん笑顔を向けてくれた。

 雷が怖いって足にしがみついていた時も。
 私がアイロンとか靴磨きとか横で真似して遊んでいた時も。
 マニキュアをしたいって指を出したらつめに塗ってくれた時も。
 雑誌の付録がうまく作れないから放り出したら「面白いのに」って作ってくれた時も。
 家に帰ったら誰もいなくてワンワン泣いていたら、慌てて帰ってきてくれた時も。
 一人で電車に乗っちゃって三宮に着いた時に、迎えに来てくれた時も。
 参観日で後ろに並んでいる時や廊下に立っているお母さんに手を振った時も。
 中学受験の面接の練習をしてくれた時も。
 一緒に寝る前のストレッチした時も。
 合格発表を見に行った時も。
 一緒に映画を観た時も。
 料理している横でずっと話しかけている時も。
 テレビを観ながら話す時も。
 お笑い番組観ながらお腹抱えて笑っている時も。
 私がニュージャージーに行くって言い出した時も。見送りの度にも。
 彼ができて結婚したいって、夫となる彼の話をした時も。
 息子が生まれて手伝いに来た時の玄関でも。
 東日本大震災で避難した時も。
 親知らず4本抜歯で一週間の入院だからって手伝いに来た時も。

 そして何か心配事があって相談する今も。
 ポンコツな話をして大笑いする今も。

 お母さんの明るさと笑顔にどれほど救われているだろう。

 私が自分でひどくイヤになる無邪気な部分や、こんなで良いのかなと不安になる「イヤだ」と何かにつけてハッキリ思う部分について、ずっと「かせみの良い所よ」と言ってくれていたから、失わずにいられた。だからたくさんの人を想う気持ちの余白があるのだと思っているよ。

 お母さんが「いつか私もかせみのことがわからなくなるかも」って言った時のこと、覚えてる? 二人で顔を見合わせて一瞬静かになってしまったよね。
 そうなった時のお母さんの表情を想像したんだ。
 想像したお母さんは笑顔じゃなかった。「イヤだ」ととっさに言ってしまった。

 でも。私はそんな日が来る時のために、信頼できる人たちが周りにいてくれているのかもって思う。

 私のこと、忘れちゃっても大丈夫だよ。私がちゃんと覚え続けているからね。
 そしてそうは言ってもできるだけ長く覚えていてほしいよ。まだまだ背中も笑顔も見せていてね。子供のいろんな部分を受け止められるような、それでいて明るい母親に私もなりたい。
 そりゃあ時々はどうしてもすれ違ったりはするけど、お母さんと私はちがうから。仕方ないよ。
 きっと、ちがうから良いんだ。


 いつもありがとう。



読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。