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【書評】沖縄の痛み・怒り・希望〜『宝島』(真藤順丈)

これも時間を忘れて一気に読んだ本です。2018年の直木賞受賞作品、『宝島』。作者は真藤順丈さん。

第二次大戦後、米軍統治下におかれていた沖縄で、強くしたたかに生き抜く若者たちを描いた英雄ストーリーです。

※書評の目次一覧はこちら

1、内容・あらすじ

舞台は戦後直後の沖縄。

主な登場人物は4人の20歳前の若者です。オンちゃん、グスク、レイ、ヤマコの4人。

彼らは、明日を生きるため、そして散々に沖縄を踏みにじるアメリカへのささやかな復讐として、米軍基地に忍び込んで物資を奪う生活をしていました。

彼らのリーダー格であり、沖縄の英雄的存在であったのは「オンちゃん」

ある日、オンちゃんたちは嘉手納基地を襲撃しますが、米軍に見つかり、何人もの仲間が撃たれ、捕まってしまいます。グスクとレイは命からがら逃げ出しましたが、オンちゃんの行方だけが誰にもわかりません。得られた手がかりは一つだけ。

「オンちゃんは、予定外の『戦果』を手に入れて消えた。」

その後、グスクは警官に、レイは裏稼業に、ヤマコは教師になり、それぞれの生活を送りながらもオンちゃんの行方を探します。

オンちゃんは果たしてどこに行ったのか。そしてオンちゃんが、その時に手にしたという予定外の「戦果」とは何だったのか?

そしてレイが思わぬところでオンちゃんの消息をつかんだのですが──。

2、私の感想

直木賞を受賞する前から色んな人が薦めていたので読んでみた本です。独特の文体だな、と思ったら『墓頭』を書いた人でした。納得。これも一種独特の小説でした。

この『宝島』は、冒険小説・青春小説・ミステリー小説としても読めますが、やはり作品の根底に流れているのは何と言っても沖縄の痛み、苦しみです。あまり語られない、知られざる沖縄の歴史がよくわかります。

川越宗一さんの『熱源』などもそうですが、「小説をきっかけにして歴史を知る」という方法はとても有効です。『銀英伝』で知られる田中芳樹さんがそんなことを言っていた気がします。

私は北国在住で、沖縄の歴史についてはなじみが薄くて通り一遍のことしか知らなかったのですが、読んでみると想像以上の悲痛さを感じました。

何ヶ所かは顔をしかめながら読みました。今の普天間の基地問題などを見る目が全く変わってきます。

こういう歴史を経てきた沖縄の人々が言う「なんくるないさー」はとても重みがあるな、と思いました。

「戦果」の正体とともに、英雄であるオンちゃんの消息が明かされる場面では「おお、なんという見事な伏線の回収!」と拍手しました。出てきた時から「これは絶対何かある」と思っていたのです。戦果の正体もかなり意表をつきます。

反米のシンボル的政治家の瀬長亀次郎、“沖縄の校長先生”と呼ばれた屋良朝苗、沖縄ヤクザのスター・又吉世喜など、登場人物の何名かは実在の人物です。

また、物語中でも重要な役割を果たす「ウタキ」にとても興味を持ちました。前から関心があったのですが、これを読んで一層興味が出てきました。霊感のある私の知人は「これはズカズカ入ったらダメな場所だ、と感じた」と言っていました。

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3、こんな人にオススメ

・沖縄以外の人
いわゆる「大和人(ヤマトンチュ)」。沖縄の鎮魂のためにもぜひ読むべきかと。

・沖縄県民
地元の方々が読んでどんな感想を抱くのか、とても興味があります。

・沖縄の基地問題に関心がある人
そもそもの根本がよくわかると思います。

沖縄、ぜひ一度行ってみたいです。

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当時、沖縄の書店では売り切れが相次いだとか。

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