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【書評】熱い感動で胸がいっぱいになる小説〜『熱源』川越宗一

胸が熱くなる小説でした。タイトル通り。

面白い、という単純な言葉よりも、「胸を揺さぶられる」という表現がぴったり来ます。

今年の直木賞受賞作。受賞して当然の傑作です!

タイトルの『熱源』は「生きるためのエネルギー」というような意味です。読み終わった後、読者の胸も熱くなります。

※書評の目次一覧はこちらです

1、あらすじ・ストーリー

舞台は樺太(サハリン)。ここで生まれたアイヌ・ヤヨマネクフが一人目の主人公です。

明治14年。5歳で両親を亡くしたヤヨマネクフは、9歳の時に樺太がロシア領となったため、仲間と共に北海道に移住させられます。

和人たちに差別を受け、「日本人であること」を押しつけられながら成長した彼は、アイヌ美人のキサラスイと結婚し、息子も誕生。

しかし幸せは長く続かず、妻のキサラスイを天然痘で亡くします。アイヌの村はこの天然痘の流行で壊滅状態に。

「故郷に帰りたい」と言い残して死んだキサラスイのためにも、彼は樺太に帰ることを決意します。

そしてもう一人の主人公が、ポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキ。彼の母国ポーランドは、ロシアによって消滅させられます。

ポーランド人は「ロシア人になること」を押しつけられ、ポーランド語を話すことも禁じられてしまいます。

反ロシアのデモ活動に参加していたピウスツキは、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、無実の罪で樺太に送られることに。

そこで待っていたのは過酷な強制労働。

絶望の日々を送るうちに、樺太の先住民族・ギリヤークの人たちに出会って交流するようになり、生きる希望を見出します。

ロシア人たちに迫害されるギリヤークたちを見て義憤を感じたピウスツキは、彼らを助け「兄貴」と呼ばれて信頼されるようになります。

やがてピウスツキは樺太に住むアイヌとも接触を持ちます。

「文明」を押し付けられ、民族としてのアイデンティティを奪われた、という共通点を持つ二人が樺太で出会い、生きるための「熱」を求めていきます。

要約するのに骨が折れるほどの、大河のようなストーリーです。

2、私の感想

そこそこの厚さですが、内容に引き込まれてあっという間に読み終えました。

ヤヨマネクフとピウスツキの過酷すぎる人生に、「なぜこの人たちがこんな目にあわなきゃいけないんだろう」という怒りでギリギリします。

本の帯には「滅びていい民族などない」と書いてありましたが、まさにそれ。

「共生」について、考えるきっかけを与えてくれます。同時に、「生きる」ということについても。

私は読後、「自分はアイヌのことについてほとんど何も知らなかったし、知らなければいけないし、アイヌの人たちを応援したい」という思いを強く抱きました。(私は北海道の人間です)

実は、私の同僚にもアイヌにルーツを持つ人がいます。

その同僚に、この本を読んで感動したことを伝えたら、「そういうふうにアイヌに関心を持ってくれるのは嬉しい」と言っていました。差別的な扱いを受けたことも今まであるそうです。

そういった差別をなくすためにも、少なくとも私はアイヌについて知らなければ、と思いました。

そして、もっとも感動したのが、冒頭のシーンとラストシーンが見事につながること。

作品冒頭で、ロシアの女性兵士のシーンが出てきます。いきなりこの場面から始まるので、読者としてはこのシーンの意味が何だかわからないのですが、読み進めて行くと、このシーンと主要登場人物たちがちゃんとつながって、「あっ!ここでつながるんだ!」となります。

お見事。感動的。泣けます。

なお、登場人物たちはだいたい実在していて、史実に肉づけしたような形だそうです。金田一京助なんていう有名人も出てきて、けっこう重要な役割を果たします。

3、こんな人にオススメ

・北海道出身者、そしてアイヌの人たち
北海道人、全員読んだらいいと思います。本当に。アイヌの方たちの感想をぜひ聞きたいです。私の同僚のためにも、この本を多くの人に読んでほしいです。

・直木賞作品を読みたい人
そうそうたる選考委員の方に面白さを保証されているのが直木賞作品ですから、読む価値は大いにあります。

・歴史が好きな人
私も最近ポーランドを舞台にした歴史小説を読んだばかりだったので、この『熱源』とつながって大いに知的興奮を得ました。

ちなみにこれ。こちらもいつか書評を書きたいです。

なお、『熱源』は本屋大賞にもノミネートされています。本屋大賞、とるんじゃないかなあ。

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