【書評】“この人でなければダメだ”という関係〜『流浪の月』(凪良ゆう)〜
これは傑作です。
久々に「わー、ページをめくる手が止まらない!」という体験をさせてくれた小説です。
『流浪の月』凪良ゆうさん。今まで知らなかった作家さんですが、センスのかたまりだな、と感じました。
1、あらすじ・ストーリー
主人公は、家内更紗(かないさらさ)という女性と、佐伯文(さえきふみ)という男性の二人です。
やや風変わりですが幸せな家庭で育った更紗。しかしその幸せは9歳の時に終わり、親戚の家に預けられることに。
そこは更紗にとって牢獄のような場所でした。
帰りたくない更紗は、ある日公園で19歳で大学生の文と出会います。そして自然な成り行きで、一人暮らしの文の家へ。
文の家がこの上なく安らげる場所だったため、これまた自然な成り行きで、更紗は文の家に居着くことになります。
更紗は再び幸せな生活を手に入れ、文と仲良く(性的な関係はなく、という点がポイント)暮らします。
しかし当然のように更紗の捜索願が出され、誘拐事件として警察が捜査を始めます。
そしてある日、二人で動物園に出かけた時、多くの人の前で文は警察に逮捕され、二人は引き離されます。その様子を多くの人が携帯で撮影し、ニュースやネットで話題に。
時は流れて約10年後、二人は運命のいたずらで再び出会います。
そして物語は再開し、むしろここからが本当の始まり。
立場的には「かつて誘拐した犯人と、誘拐された少女」という二人がまた関係を築いていくのですが……
2、私の感想
「この二人は、最終的にいったいどうなってしまうんだろう」と心配で心配で、光の速さでページをめくりました。一日で読み終わりました。
結果、読者が納得できる結末にはなるのですが、そこに行き着くまで、二人を様々な苦難が襲います。
特に「デジタルタトゥー」による偏見や無理解が、二人を苦しめます。現代に特有のこの問題は、今後も色んな作品のモチーフになるだろうな、と思いました。
二人の関係が「恋愛ではないが、でもお互いこの相手でなければダメなんだ」というところがこの話の最大のポイントで、最大の特徴です。
わたしは文が好きだ。あの女の人といるのを見たとき、大事ななにかを失った気がしたけれど、それは恋とか愛とか、そういう名前をつけられる場所にはない。どうしてもなにかに 喩えるならば、聖域、という言葉が一番近い。
これがなんかもう、よく理解できるのです。
形は様々ですが、誰もがこういう「聖域」を持っているのかもしれません。
作者の巧みな心理描写が、そう思わせてくれます。人間に対する理解が深いんだろうな、と思いました。
他にも、二人が再会した本当の理由とか、文の隠された真実とか、驚くポイントがたくさん。
とにかく、心理描写も設定もストーリーも絶妙すぎて、非の打ち所がない作品です。感服。脱帽。驚嘆。
3、こんな人にオススメ
・「この人じゃなきゃダメだ」という経験をしたことがある人
そういう経験がなくても大丈夫ですが、あれば感情移入度が3倍くらいになります。
・濃密な読書体験をしたい人
これは保証します。時間があっという間に過ぎます。
・「先物買い」が好きな人
間違いなくこの作家さんは今後有名になるでしょう。今読んでおけば有名になった時に自慢できます。
なお、この本は「私が去年読んだ中でおもしろかった本第2位」にランキングされる本です。
かなり自信を持ってオススメできます。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?