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【書評】犯した過ちの大きさに苦悩する刑事~『慈雨』(柚月裕子)

ずっと読みたいと思っていた、柚月裕子さんの『慈雨』です。評判にたがわぬ傑作でした!

※書評一覧の目次はこちら

1、内容・あらすじ

刑事を定年退職した神場智則は、妻と共に四国巡礼の旅を始めようとしていました。

目的は、自分が関わった事件の被害者の供養のため。もう一つは、16年前に起きたある事件の捜査で自分が犯した「過ち」の贖罪のため──。

その事件とは、表向きには解決済みの幼女連れ去り殺人事件でした。

巡礼の最中、神場はそれと酷似した事件が起きたことをニュースで知ります。

「あの事件」と関係があるのではないか……? 神場は苦悩し、自らの過ちと正面切って向き合う決意を固めます──。

2、私の感想

重く、苦しく、そして熱い小説でした。

作中に、こういう記述が出てきます。

神場は奥歯を嚙んだ。そうしないと、鼻の奥がつんとしそうだった。

読者も同じ気持ちになります。泣くまいと必死にこらえながら読み進めていきました。

主軸となるのは神場が刑事生活で犯したある「過ち」です。これが徐々に明かされていく過程で、神場に関わる人たちの色んな人の人生が描かれます。

小説の中とは言え、どうしてこんなことが起こるんだろう、とやるせなくなります。

神場と同じく、理不尽な世の中に対する怒りがわいてきます。

そして神場の「過ち」が明らかになり、それを向き合う覚悟を決めてから、物語は一気に動きます。

神場と共に「過ち」を犯した戦友。神場の後輩。神場の家族。そして二つ目の事件。

全ての要素が一つにまとまり、怒涛のようにうねりながら結末へ……。

様々な人生が交錯する、重厚な作品でした。

人は長く生きていると誰もが重荷を背負うことになるし、一生それと向き合っていくんだな、ということを感じました。

3、こんな人にオススメ

・人生の「重荷」を背負っている人
重荷の中身はそれぞれ違っても、大いに共感できます。

・組織の中で自分を殺している人
神場の後輩刑事、緒方の言葉が身に沁みると思います。

・四国巡礼「八十八か所霊場めぐり」に興味がある人
そうか、こういう人たちが巡礼に出るんだ、と納得しました。私もいつか行きたいです。

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