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5月13日 大腸がん入院7日目🏥

朝の5時に、汚物にまみれてベッドに放置されている。これは病院の対応が悪いのではなく、人手の足らない時間帯に、わたしが自分にぶっ刺さっている5本のチューブのうち1本を抜いてしまった自業自得の結果である。

「かわむらさんごめんね、あと30分待って」
「はい、本当にすみません……」

わたしは今、それなりに露出度の高い格好でベッドに横たわっているが、そこに色気やエロといった要素は微塵もない。もし鏡があれば、ボケーっと介護を待つ情けない中年の姿が映るだけだろう。

病人は、往々にしてみっともない。院内を行き交う人を見て、自分を見て、そう思う。みんなだいたい猫背で、パジャマやスウェットでよたよたと歩き回るし、髪はボサボサそしてペタペタだ。しかもおまけに、なんか臭い。しかし、それは致し方ないというか、入院病棟では当然のことだろう。ここで優先されるべきは生命の維持であり、見た目の美しさはそれと関連しないからだ。

これまで、自分がいかに生命の維持にかかわらない事柄に興味関心を持ち、注意を払い、時間や金銭をあてがっていたのか、その愚かな日々に対して一種の愛しさすら覚えてしまう。まつ毛の束感がうまく出せたところで、イエベブルベがわかったところで何だというのか。日々の生活はちっぽけだ。

それでも今、願いがひとつ叶うのなら、わたしは化粧をして、好きな服を着て、背すじを伸ばして、香水をつけて、街を歩きたいと思う。新宿の伊勢丹本店に行きたい。クレドのパウダーをタッチアップして、バイレードで香水を買いたい。まつ毛だってできればうまく上げたいし、わたしはこれでもブルベ冬だ。

昨日は一日を通して本当に体調が悪くて、嘔吐を重ね、もう楽になりたいと思いながらも、なんでもない日が心から恋しかった。まあ、たぶんこの願いはwishではなくhopeの類で、あと2週間も経てば普通に叶うものだろう(クレドとバイレードを買う財力があるのかはさておき……)。ただし、そのあたりで癌のステージが判明して、抗がん剤治療が始まることになっている。その苦しさは、今のわたしにはまだわからない。

昨晩はいくらか体調がよかったので、シートクレンジングをして、化粧水をつけて、乳液をつけて、クリームを塗った。汚物にまみれても、みっともなくても、まだ負けない。


トップ画像は、昨年12月に行ったフィンランドの路面電車(かな?)にて。旅行中に高熱が出て、9日間の旅程の半分ほどは寝込んでいたのだった。年末からずっとツイてない。もっと言えば、ここ2年ほどツイてない。もしかして厄除けしたほうがいい????

※この記事は、5月13日にインスタグラムに投稿したテキストを、5月29日に加筆修正して投稿したものです


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