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小説【ある晴れた日の午後】

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現在執筆中の短編小説です。思い出しうる最古の記憶から、ある晴れた日の午後まで続く家族との交流の話です。 #短編小説 #冬 #幼少期 #家族
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【短編】ある晴れた日の午後9

【短編】ある晴れた日の午後9

「あすか。ちゃんと見て、お父さんの事。これが最後なんだからね。」

祖母は私の背中をさすりながら、そう諭した。しっかりしなきゃいけないのは私の方なのにな。
おばあちゃん、ごめんね。

父の最後の姿を、私は知らなければならないし、見届けなければならない。恐る恐る視線を移して父がまだ父として保たれている状態を確認しようとした。

少し白髪の交じる髭剃り後や、閉じたまぶたのまつげ、手を組んだ指先の深爪し

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【短編】ある晴れた日の午後8

【短編】ある晴れた日の午後8

その後、どうやって帰ったのか、会社への報告をどのように済ませたのか思い出せないまま、気づけば祖母の家へ向かう新幹線の車内に居た。

最後に父と話したのは、いつだったか。

11月の中旬頃、珍しく酔っ払っている様子の父から連絡があった。
酷く疲れている声に聞こえたけど、翌日には荷物を送る旨のメールがきたので、大して気にも止めていなかった。
確かに様子が変だと認識はしたのに、どうしてもっとちゃんと話を

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【短編】ある晴れた日の午後7

【短編】ある晴れた日の午後7

閉店時間になり、警備員が通行止用のポールを準備したり、シャッターを下ろして買い物客を出口に誘導し始めると、店の入口側の什器に布を被せた。

そして、冬場特有の作業でハンガーにかかったままのニット類は袖が伸びない様、什器に場所を移して寝かせるように置いていく。

閉店作業はレジ締め担当と清掃担当に分かれて行うが、結局閉店後も30分位かかるので帰る時間は21時近くなってしまう。
今日は比較的畳みが終わ

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【短編】ある晴れた日の午後6

【短編】ある晴れた日の午後6

運び込まれたパッキンの見事な連なりを見て、私達はほぼ同時に悟った。

「これは、間に合わないね。日中は片せそうにない、夜に回そう。」
「はい!」

そうと決まればバックルームに急いで押し込もうとパッキンの一辺に二人で並んだ。
しかし二人がかりで押しても一気に進まないので、大人しく1箱ずつ移動させることにした。

私から先運ぶね、と持ち上げたパッキンはずしりと重かったけど、開店までの時間との勝負、俊

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