見出し画像

【短編】ある晴れた日の午後7

閉店時間になり、警備員が通行止用のポールを準備したり、シャッターを下ろして買い物客を出口に誘導し始めると、店の入口側の什器に布を被せた。

そして、冬場特有の作業でハンガーにかかったままのニット類は袖が伸びない様、什器に場所を移して寝かせるように置いていく。

閉店作業はレジ締め担当と清掃担当に分かれて行うが、結局閉店後も30分位かかるので帰る時間は21時近くなってしまう。
今日は比較的畳みが終わっていたので、すぐに清掃に取りかかれたが、セール時期で店頭の服が荒れ放題だと畳み直さなければならず、とても時間がかかる。
また、レジ締め作業も過不足が出たり、日予算に届いていない場合は社販(社員特別販売?30~50%割で購入出来るが、シーズンを過ぎたもの、セール価格になった商品は店頭着用はしないのが原則)で予算に乗せるか調整したりする。
こちらも過不足なく、また予算達成し問題なく締められた。

レジ締め作業を終え、入金から帰ったムロちゃんに声をかけた。

「今日はありがとう。あとはやるから上がって下さいな。」

「分かりました。」

お先に失礼します、と声をかけてムロちゃんは帰っていく。
バイトの子に通し勤務をさせてしまった上、これ以上の残業はさせられないので、ここから先は自分が請け負う事にした。
バックルームに積まれたままのパッキンから1箱を下ろし、検品作業を始める。
パッキンの中の商品と、伝票に書かれた商品番号、色、サイズ、個数に差異がないか確認していく作業だ。
確認を終えたものは地べたに置かず、パッキンやマットの上に置く。
「商品はお金なので、お金を地べたに置いてはならない」という社訓?から来ていて最初の時点でそう教わった。
検品が終わったら、各1枚ずつピックアップし、他はバックルームにストックする作業を行う。
これを、3パッキン分繰り返す。
作業を終える頃には22時を過ぎていた。

身支度を整え、携帯を目をやると、おびただしい程の着信があった。
首を傾げ、画面を開くと珍しく叔父からの着信と留守番電話が残っている。
閉店後暗がりのバックルームで再生を押した。
続けて耳に聞こえてきた言葉の羅列は、今まで聞いた事がないフレーズだ、と思った。
やけにしんとしている店内で、響いてきた叔父の言葉に人生で1度だけ経験する機会が唐突に訪れた事を理解した。

「あすかか。お父さん、亡くなった。」














この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?