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第7話『エルフ少女との邂逅』

 ボクは職業ジョブのおかげで<テイム>に成功した。
 じつに35ものレベル差をも覆すことができたのだ。

 マジック<テイム>の成功には、いくつかの要素が関わってくる。
 ゲーム時代の話だから、あくまで参考にしかならないが……。

 おおまかには以下の5つ。
 1.対象とのレベル差。
 2.対象のレアリティ。
 3.自身のLUK値。
 4.装備による補正。
 そして最後が――”5.職業レベル”。

 職業ジョブレベル。
 通常のレベルとはべつに存在する、もうひとつのレベルだ。

 対応する行動やスキル、マジックを使用するたびに経験値が溜まり上昇する数値。
 そして、高ければ高いほどそれらの行動に補正がかかったり、新たなスキルやマジックが使えるようになる。

 ――――――
 ・テイマー    Lv.100(Max)
 ・逃走者     Lv.78
 ・商人      Lv.61
 ・エンチャンター Lv.55
 ・ファーマー   Lv.37
 ・指揮官     Lv.32
 ・……etc.
 ――――――

「きひっ、きひひっ!」

 ”職業一覧ウィンドウ”を確認したボクは堪えきれず、笑みをこぼした。
 ゲーム時代と同じ数値がそこには並んでいた。

「これこそが彼の……いや、ちがう。ボクの力・・・・!」

 興奮して、ついつい声を張りあげた。
 この力があれば、世界のすべてを支配下に置くことだって可能かもしれない!

 ……え?
 そんなズル・・で手に入れた力で無双したって虚しくならないのかって?

 楽しいに決まってんだろ! 気持ちいいに決まってんだろ!
 そんなことを言うやつには中指を立ててやる!

 そもそも、これはボクが自力で・・・身につけた力だ。
 現世でゲームという媒体を通して費やした時間と努力・・で得た経験値なんだ。

 自分の力を、自分のために使ってなにが悪い!
 もう後悔なんて残さない。好き勝手に生きてやるんだ!

「けど、無双するにはまだ基本のレベルやステータスがまだ足りてないんだよなぁ」

 たしかに35ものレベル差を覆してテオのテイムには成功した。
 けれど、それは”運”の要素が大きかった。

 LUKではなく――らんすうが。

 あのときも、じつは成功を確信して<テイム>を使用したわけではない。
 このマジックは、たとえ職業レベルがMAXであったとしても成功率が100%にはならない。

 加えて、レベル差によるマイナス補正もあった。
 だから、とっさに使用したのが<テイム>で、しかも成功してしまったのは……手癖以上の運命といえよう。

「やっぱり、ボクは神さまに愛されている」

 そんなことを考えながら、テオに負ぶわれてしばらく移動したころ。
 ふいに風の吹く向きが変わった。

 どこまでいっても同じ風景だから「まさか迷ったのか?」なんて疑いはじめていたのだが、一安心。
 たんにテオオザルという種族が、歩くのが遅いだけのようだ。

 今はボクを運ばせるために徒歩だが、本来は木を渡って移動する魔物だしな。
 こうして眺めてみると、背中から何本も腕が生えた身体は、歩行するにはバランスが悪すぎる。

「……チッ。おい、グズ。遅いなりにもうちょっと早く歩く努力をしろ」

 だからといって、イライラしないわけじゃない。
 なにせゲーム時代にはなかった要素――”空腹”という概念がボクを襲いつつあったのだ。

 おそらくHPが減っているせいだろう。
 余計にその欲求は高まっていた。

 それにのどもカラカラだ。
 クソ弟たちのせいで結局、昨晩からコーラが飲めていなかったことを思い出す。

「あぁっ、クソっ」

 いつの間にかステータスにも『状態:重傷・空腹』が追加されていた。
 身体が重く、指1本動かすことすら億劫に感じる。

 だが、眠るわけにもいかない。
 今のこの状況、いつ第2第3のテオオザルが襲ってくるともしれないのだ。

 テオはHPが満タンの状態でテイム出来ているし、ボクのジョブによって能力の補正も入る。
 とはいえ、2対1になればわからない。

 それに、いざコイツを使い捨てるとしてもボクが寝ているとそれもできない。
 ……と、ウワサをすれば。

 テオがバッと視線を斜め上へと向けた。
 まさか、敵っ!?

「……っ!」

 同じ方向へ視線を向ける。
 じっと観察してすると、巨大樹の幹にひとつの影を発見した。

 幸いにも敵は1体のようだ。
 しかし、そのシルエットはテオオザルよりもずっと小柄だった。

 アイコンとステータスがポップアップする。
 ボクはすぐさまその内容を確認した。

 ――――――
 森人エルフ《個体名不明》♀ Lv.42
 HP : 117/ 117
 SP : 64/ 65
 MP : 121/ 199
 状態: 正常
 ――――――

「えっ、人族!?」

 ボクは相手が魔物ではなかったことに驚き、声を漏らす。
 相手も気づかれたことに、気づいたらしい。

「動かないでッ!」

 彼女が警告を発する。
 その手には弓が握られ、引き絞られていた。

 こちらへ向けられた矢の先端が、まばゆく光っていた。
 スキルが待機状態にあることを示すエフェクトだった。

「ヒィっ!? ちっ、ちがっ……ぼ、ボクっ、お、オエェエエエ!」

「えぇっ!? ちょ、ちょっと!?」

 ボクはプレッシャーに耐え切れず吐いた。
 元からの体調の悪さに加え、人から殺意を向けられるトラウマががが。

「あたしだって、そこまで脅すつもりは」

 彼女はそんなボクを見て、あたふたとしていた。
 やがて警戒が解けたらしく、待機状態にあったスキルを解除して幹から飛び降りてきた。

 そして、はじめて彼女の姿がはっきりと見えた。
 そこに立っていたのは……。

 ――エルフの名にふさわしい、超絶の美少女だった。



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