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物語をおいしく味わう

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

映画や漫画、小説などの物語を紐解いていく中で、「以前どこかでこれに似たシーンを見たことがあるな」と思ったことはないだろうか。

例えば、食パンをくわえた少女が転校生とぶつかるとか、食いしん坊が「もう食べられない…」と寝言を言うだとか、張り込み中の刑事があんぱんと牛乳を食べるとか。

これらの状況を、何の物語で見たという鮮明な記憶はなくとも、字面だけで「あーあるある!」と思わないだろうか。

先日、会社の図書スペースのおすすめ書籍として、福田里香さん「物語をおいしく読み解くフード理論とステレオタイプ50」文藝春秋が目に止まった。前出の例も本著で書かれている内容である。

これらの慣用的とも言える表現は、一種のステレオタイプとなりうる。ステレオタイプというと、先入観や固定観念、思い込みという悪い意味で捉えがちではある。

しかし、重要なのは「なぜこの場面で、この食べ物が使われるのか?」という演出面である。

食べ物や食材が持つ意味、食事に対する価値観が、その人となりを印象付ける。

冒頭、フード理論のフード3原則として、以下のようにまとめている。

1 善人は、フードをおいしそうに食べる
2 正体不明者は、フードを食べない
3 悪役は、フードを粗末に扱う

同著 3頁より抜粋

実際に、魚の骨を取るのが上手だとか、会食で食事を取り分けるだとか、そういう人に対して印象が良くなることもあるだろう。

逆に、悪役とは言わないまでも、食事のマナーが悪い ≒ 育ちが悪いというイメージをお持ちの方は多いだろう。

極悪人だと、食事の場でバットを取り出して、部下を粛清する「アンタッチャブル」のように。

逆に、食事をおいしそうに食べる極悪人は恐ろしい。うまいバーガーを腹に収めてから、拳銃で蜂の巣にする「パルプ・フィクション」のように。

ちなみに、他に面白いなと思った点だと、以下のような例が挙げられる。

少女まんがの世界では、「温かいココアには、傷ついた心を癒やす特別な効力がある」と信じられている。

同著 86頁より抜粋

焚き火を囲んで、酒を飲み回したら、それは仲間だ。

同著 193頁より抜粋

家族会議の下、焦げ臭いにおいは台所に流れる。

同著 221頁より抜粋

繰り返しになるが、これらの演出がただの使い回しというわけではなく、食事や食材の意味や捉え方ゆえに、それ相応の価値や背景がある。

それらの一種の思い込み(ステレオタイプ)が物語をスムーズに進行する(あるいはミスリードを引き起こす)一役を担うのだ。

そういった面から、物語を咀嚼して、しっかりと味わってみるのも一興なり。それではまた次回!

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