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東京の特殊性が生んだ「東京道路奇景」

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
今回は、「東京の特殊性が生んだ『東京道路奇景』」という話を書きます。
東京という都市が持つ「ひずみ」が、「東京道路奇景」として表に出ているという話です。

■「東京道路奇景」って何?

さて、みなさんは「東京道路奇景」をご存じでしょうか。
おそらくご存じでない方のほうが多いでしょう。
それは当然のことです。なぜならば、そう呼びはじめたのはこの私だからです。

「東京道路奇景」は、東京の道路が織りなす不思議な風景のことです。

東京には「東京道路奇景」が多数存在します。他の都市では見られないような道路の立体交差や、アクロバティックな構造の道路がたくさんあるのです。

なぜ東京には、このような道路が織りなす不思議な風景が多数存在するのでしょうか。
その理由を知るカギは、東京という都市の特殊性にあります。

■東京という都市の特殊性

東京を都市や交通という視点で見ると、おもに次に示す3つの特殊性があります。

(1)世界最大級の都市である
(2)未完成の都市である
(3)鉄道と道路のバランスが極端に悪い

(1)の「世界最大級の都市である」は、人口の多さを示しています。東京は、首都圏と呼ばれる世界最大の人口を誇る都市圏の中心都市であり、特別区(23区)の人口だけでも、ニューヨークやロンドンの人口よりも多いという特徴があります。

(2)の「未完成の都市である」は、都市の「骨格」として機能する道路が完成してないことを指しています。東京では、幹線街路(メインとなる都市計画道路)のうちの約6割しか完成しておらず、約4割の道路が未完成のままになっています。

(3)の「鉄道と道路のバランスが極端に悪い」というのは、鉄道網が特異的に発達しているのに、道路網があまりにも貧弱であることを示しています。その理由は、先ほど述べたように、道路が未完成のままになっているからです。

東京は、鉄道で移動するのはとても便利な都市なのに、自動車で移動するのはきわめて不便な都市でもあります。このアンバランスさは、鉄道網と道路網の整備状況が極端に異なることと密接な関係があります。

この点をもっとくわしく知りたい方は、ぜひ私が東洋経済オンラインに投稿した下記の記事をご覧ください。

■「ひずみ」が生んだ「奇景」

以上をまとめると、東京は、都市の骨格となる道路網が未完成なまま人口が増え続け、世界最大級の規模までふくれ上がってしまった都市と言えます。しかも、道路網はいつ完成するかわかりません。

人間にたとえるならば、東京は、骨格が未成熟なまま肥大化した巨人のような都市だと言えます。もしそのような人間がいたら、未完成の骨格が大きな身体をきちんと支えることができず、歩くことすらままならないでしょう。

となれば、都市としてどこかに「ひずみ」が生じるはずです。
私は、その「ひずみ」が表に出たものが、冒頭で紹介した「東京道路奇景」なのではないかと考えています。

東京では、戦後になって自動車保有台数が急増して、道路交通が逼迫しました。道路網のあちこちで渋滞が発生し、消防車や救急車のような緊急車両さえも走りにくくなり、都市機能がまひしそうになりました。

そこで東京では、1950年代後半から首都高速道路や環状7号線などの立体的な道路が急ピッチで整備されました。道路や河川などの空間を立体的に利用して高架橋やトンネルを造り、都市全体の道路網の交通処理能力を短期間で増やしたのです。

その結果、都市部に高架橋が次々と現れ、非日常的な風景が生まれました。
それが「東京道路奇景」です。

だから私は、道路網が未発達であることで都市に生じた「ひずみ」が、「東京道路奇景」を生んだと考えているのです。

■都市に残された「伸びしろ」

もしそうだと仮定すると、東京に存在する「東京道路奇景」を探し出し、それらができた背景を個々に探ることで、東京という都市の全体像や将来像に迫ることができると考えられます。

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川辺謙一著『東京道路奇景』

じつは、私の本『東京道路奇景』は、このような発想から生まれました。これは、2016年に草思社から出版した書籍です。

タイトルだけ見ると、「東京道路奇景」の写真を集めた写真集だと思う方がいるかも知れません。しかし実際は、数ある「東京道路奇景」から都市計画の歴史を探り、東京という都市の全体像や将来像に迫った書籍なのです。

先ほど私は、道路網が未発達であることで生じたものを、「ひずみ」とネガティブに表現しました。しかし、見方を変えれば、これは東京という都市が持つ「伸びしろ」とポジティブに表現することもできます。つまり、東京は、未完成都市であるゆえに、これからも発展できる余地がまだ残されているのです。

多くの方にとって東京の道路は、日常風景に溶け込んだありふれたものであり、とくに興味を持つものではないでしょう。ところが視点を変えると、東京の道路はさまざまな可能性を秘めており、たいへん興味深いものになるのです。

本書では、この東京が持つ「伸びしろ」についても具体的に挙げています。
もし今回の記事でご興味を持たれた方は、ご覧いただけると幸いです。もちろん、電子版もあります。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました!

(※この記事は2022年5月6日に一部修正しました)


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