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一撃一冊‼️その3

過去に読んだ本、又は現在読んでいる本の中で特に心に刺さった本を不定期でご紹介。

加藤諦三『自分に気付く心理学』


読了後、かつてこれ程までに打ちのめされた本があっただろうか?                否、正確には読む事に対して何度も中断を余儀無くされて放心状態に陥ってしまったと言った方が良いかも知れない。

前回の『一撃一冊‼️』で自らの無知さを叱ってくれる本を好むといった事を書いたと思うのだが、本書においては無知を叱るレベルを遥かに超越し、私自身の無意識に渦巻くドス黒い情念さえも細大漏らさず暴いて見せた。

本書を購入したのはネット通販だったのだが、そこに書かれているコメントには「理解が難しい」と言った内容が散見された。        それもその筈である。何故ならば「心が健康的な人」には本書に書かれている事に対して自らが入り込む事は容易ではない。代理経験では理解出来ない広大な境地が厳然と立ちはだかっているからだ。

だが、本書の指摘する「神経症的な人」からの目線で見ると、まるで我が事の様にズバズバと言い当てられてしまう。読んで理解をしていくのではなく、思考そのものを暴かれていくという感覚に襲われるのである。

著者の慧眼と明晰な筆致によって、読み進める度に次々と暴かれていく自らの思考。脚下照顧や自己省察する余裕もなく度々読む事を止めて放心するしかなかったが、読了して分かったのは部分的にではあるが、私自身も「神経症的な人」にカテゴライズされている事だった。

本書の意図は普段から外側ばかりに目を向けて内側を見る事をしない習慣の是正と自らの思考や行動を反省する事の重要さを説いている訳だが、特に著者が繰り返し指摘するのは

 「甘えの欲求を抑制しない事」

                 である。

ネタバレになるので詳細は割愛するが、この言葉を読んで「何を馬鹿な事を」と一笑に付す態度こそが既に「神経症的な人」の萌芽を抱えている可能性があるかも知れない。  

人の思考の成り立ちや人格形成は言わずもがな育ってきた環境に大きく影響を受けるのだが、その環境自体を根本から変える事は不可能である。大切なのは「自分の中の幼児性に気付く事」なのだと加藤氏は言う。

加藤氏自身も神経症的な父親の影響によって、その存在からの依存性の脱却に懊悩した経験があったのだが、独力で「依存性への気付き」と「自律性を育てる事」を繰り返し実践した経緯の下りを読んだ時、その行間からは壮絶なまでの筆舌に尽くし難き苦悩が炙り出されている。

ソクラテスは「汝、己を知れ」と言ったが、「無知を自覚したつもりで生きていた事」にしたり顔して生きてきた私自身にとって、真正面から冷や水を浴びせられた気持ちであると同時に己自身の省察の足りなさに嫌悪感を抱いてしまった。

だが、本書との邂逅は私自身にとって僥倖でさえあると感じる。何故ならば全く理解出来ていなかった自分自身を知るという事をここまで詳細に書ききった本を他に読んだ事がないからだ。

藤原正彦『国家と教養』と共にこの『自分に気付く心理学』も自らの枕頭の書として繰り返し耽読したい。

加藤諦三。恐るべし。

最後までお読み頂き有り難うございました。 いつも拙い頭で暗中模索し、徒手空拳で書いています。皆様からのご意見・ご感想を頂けると嬉しいです。