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北極圏・ラップランドひとり旅 2日目

September 14, 2019
Helsinki

「サウナは初めて?フィンランドのサウナはもっと湿度を上げるんだよ」
早朝、ゲストハウスの最上階にあるサウナにひとりで入っていると、後から来たフィンランド人が水の入ったバケツを持って来てそう言った。

ヘルシンキの街外れ、トラムの終点にあるこのゲストハウスをわざわざ選んだ理由は、無料のサウナがついているからだった。フィンランドといえばサウナのイメージだけど、まさか1泊1,300円のゲストハウスにまでサウナがあるなんて。

フィンランド2日目にして日本でもほとんど入ったことのないサウナに入る。僕はサウナよりも無類の温泉好きで、サウナの入り方を知らなかった。ストーブに積まれたサウナストーンに笑いながら水をかけ続けるフィンランド人。みるみる蒸気が上がり、その蒸気が天井を雲のように覆い、対流し、座っている僕の肌に降りてくる。僕は蒸気がこんなにも熱いものだと知らなかった。呼吸をすれば肺の中まで火傷しそうな熱さに耐えきれなくなり、たまらず出口へ向かう。ドアを開けながら振り返ると、彼がバイバイと言って手を振りながら笑っていた。彼らの肌は熱さを感じないのか?笑顔が少し恐ろしい。

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サウナを出て着替えて宿を出る。寒い。まだ9月の中旬なのに吐く息は白く、空気はキリリと冷たい。日本はまだあんなに暑かったのに、この国はもう秋の気配。北国に来たんだ。

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どこの国に行っても必ずマーケットに立ち寄るのが僕の習慣みたいになっている。見たことのない野菜や果物、吊るされた肉と新鮮な魚。歩くだけでも楽しい。そんなマーケットで僕はいつもリンゴを買ってしまう。だいたいどこにでも売ってるし、肉とか魚を買うよりずっと手軽だから。

マーケットのある場所は海に面していて、そこから小さなフェリーに乗ることができる。フェリーの行き先はスオメンリンナ島。スオメンリンナはかつてヘルシンキを守る要塞として使われていた島で、簡単に日帰り観光ができる。地図で見るとそこそこの大きさだったので、きっとお腹が空くと思い、お昼の分のリンゴを買った。

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お店の人と少し話してリンゴを齧りながら歩く。
齧りながら街を歩くと地元の人になった気分になる。

スオメンリンナは思った以上に大きな島だった。要塞だった頃の建物や砲台が残っていたり、第二次世界大戦の頃の潜水艦が展示されていたりして、島全体が大きな野外博物館のようだった。ほとんど遠足の気分で島を歩き回って、気持ちの良い場所を見つけたら座ってリンゴをかじる。なんて贅沢な時間の過ごし方なんだろう。

釣りをしているおじさんがいたから「何が釣れるの?」と聞いたけど、教えてくれた魚の名前はわからなかった。もっと英語ができればなぁ。

一人旅に行くことを友達に話すと、みんな大体言葉のことを聞いてくる。僕の英語力はかなり低いが、これまでの旅では何とかなってきてしまった。もちろん言葉が分からなくて困ったこともあるし、もっと勉強しておけばよかったと思うこともある。
それでも僕が言葉について心配しないのは、言葉の壁よりももっとずっと大切なものがあるからだ。それはまだ見たことのない景色を自分の目で見ることだったり、現地の人の生活や価値観を感じたり、不自由さを楽しむことだったりする。(だからいつまで経っても英語を覚えようとしないのかもしれない)

島から戻るといくつかの有名な観光地や博物館を巡った。ヘルシンキの街中は最近の北欧ブームで多くの日本人が歩いていた。大学生っぽい男女グループや女性の2人旅。みんなおしゃれな格好をして歩いていた。間違ってもスキーウェアと登山靴を履いて歩いている人はいない。

日本を出る前、友人におすすめのピザ屋さんを教えてもらった。曰く、ヘルシンキで一番美味しいピザらしい。夕方、夜ごはんを食べようとお店に行くと店員さんが店仕舞いを始めていた。今日は早く閉まる日らしく、テイクアウトならまだ大丈夫とのことだったので1枚だけ注文する。焼きたてのピザを抱えてトラムに乗り、終点のゲストハウスに戻る。

大きすぎるピザとフィンランドのビール

ピザを食べ終え、寝る準備をし、明日乗る飛行機を確認する。予約してあるのはヘルシンキからロヴァニエミ行きの朝一の便で、何時のトラムに乗ればいいか調べると、最寄りの停留所はエラーの表示になっていた。どうやら飛行機の時間が早すぎてトラムの始発でも間に合わないらしい。歩き疲れ、ピザとビールで乾杯し、今日はもう終了という気分だったのに、嫌な汗が出始める。
空港までタクシーを使う...?遅い時間の飛行機を予約し直す...?それとも飛行機はやめて鉄道でロヴァニエミを目指す...?サウナがあるからという理由で選んだヘルシンキの街外れ、トラムの終点にあるこのゲストハウスが、まさか飛行機に間に合わないほど遠い場所だったなんて。

少し落ち着いて調べ直すと、宿から1kmぐらい離れた停留所からトラムに乗れば予定の飛行機に乗れそうなことがわかった。よかった。助かった。緊張して上がっていた心拍数が徐々に下がるのを感じながら、朝すぐに出られるように荷物をまとめ、ベッドに入る。
絶対に寝坊しないよう、アラームを4つ、セットした。

ヘルシンキはもう秋の気配です。
街を歩く人はみんなおしゃれなコートを着ています。僕が着ているのはもっさりとしたスキーウェアと登山靴。なんだかお上りさんのようで少し恥ずかしいです。
この街では多くの日本人観光客とすれ違いました。自分もそのひとりなんだけど、街を歩いていて日本語が聞こえてくるのはなんだか不思議な気分です。小さな礼拝堂の中が全員日本人になった瞬間なんて、海外に来ていることを忘れてしまうような感覚でした。
パリやロンドンへは行ったことがないけど、もしかするとこんな感じなのかな。君がパリで過ごした日のこと、帰ったらぜひ聞かせてください。
では、また。

ヘルシンキにて

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