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どんどん人が辞めてもアメリカの会社が元気な理由

3週間前に同僚が会社を辞めることになったことを僕に伝えてくれた。そして通常のごとく、2週間前にそれを会社全体に公表し、今週、彼女は会社を去っていった。2021年の夏、僕とほぼ同時期に今の会社に入社し、新たに作った部署を一緒に牽引してきた重要なパートナーだった。まだ入社して1年半になろうかというところで、もう別の会社に転職を決めたらしい。つい先日まで、彼女の下で働くことになるポジションの候補者をインタヴューして、彼女のグループに合うかどうかを一緒に話し合っていたのに、リーダー自身が抜けてしまう形になった。彼女の代わりとなるリーダーを探しながら、リーダー不在となった彼女のグループを、残されたものでしばらく支えて行かなれけばならなくなった。立場上、仕事の議論で、ぶつかり合うことも多かったが、普段はとても楽しく付き合える同僚であり、良い同士でもあった。

彼女の退社は、日本人目線で見ると少々無責任に感じるかもしれない。あまりにも沢山の人が早期に辞めていく会社には問題があるかもしれない。でも、超ジョブ型雇用のアメリカの会社では、ある程度の人が早期に辞めていってしまうことは避けられない。会社にとっては完全な想定内だ。僕自身、彼女が辞めることにしたことは、致し方なく、良い決断だと思えた。彼女の新たな門出にエールを送れた。僕自身、今の会社に何が何でもしがみつくという気は毛頭ない。そしてこのように人がどんどん辞めることが、日本の会社にはない、アメリカの会社が元気な理由にもなっているとさえ感じる。

人がどんどん辞めることがポジティブに働く理由

人がどんどん辞めることがポジティブに働く理由を、1) 業界・会社にとって、2) 個人にとって、3) プロジェクトにとっての3つの視点で挙げてみた。

理由1.人材の流動化が業界全体のレベルを上げる

日本でもすでに転職は当たり前の世の中になっただろう。でも、転職の頻度、それに伴う人材の流動化は、アメリカの方がいまだ圧倒的に活発だ。僕がいるバイオテック業界は生き残っていくにはイノベーションが必須だ。ボストンとカリフォルニアのサウスサンフランシスコは、ビッグファーマからスタートアップまでバイオテック企業が無数にひしめき合う2大拠点となっている。それぞれの拠点の中では、大掛かりな引っ越しをしなくとも、簡単に転職が可能だ。それぞれの会社で、人が去り、新たな人が入るを頻繁に繰り返す。それに伴って知識、経験、情報も新たに入り込んでくる。人材の流動化により好循環な新陳代謝が生まれ、業界全体のレベルを押し上げている。

つい最近、人材の流動化で僕自身助けられた経験をした。全く別の部署である統計部門に新たに入ってきた人から、僕の計画にAが欠けていると教えられたのだ。彼女がいた前の会社ではAを行っていたと言うのだ。当初、僕は別の部門の人が、前の会社の経験だけで、僕の専門領域に口を挟んできて、気分が良くなかった。「どうせ彼女が前にいた会社が勝手にルールを作ってAをやっていたに過ぎないんだろう」と勘ぐっていた。ところが調べてみると、僕の方が間違いだった。Aをやっておかなければ、後々問題になるところだった。新たに入社した彼女のおせっかいな口出しで僕は助けられたのだ。

こんなことは日常茶飯事だ。新たに入ってきた人が、過去の会社の経験から新たなアイディアや問題点を持ち出す。殆どは、一旦プロジェクトがかき回された後、沈静化して終わりだ。だが、たまにそれらの新たなアイディアでプロジェクトが大きく好転したり、重要な問題点であることが判明し、軌道修正するして、九死に一生を得ることもある。

理由2.個人のステップアップの機会を増やす

会社の成功にとって人的資本は最も大切なファクターのひとつだ。会社にとっては、会社に貢献してくれる人に転職されては困る。本当に転職されたら困る人には、貢献に見合った雇用条件を準備せざるを得ない。メンバーシップ型に比べて、ジョブ型雇用では、圧倒的に給料が上がりやすい。それ相応のポジションを用意してくれる。

ジョブ型雇用では、自分の最高のパフォーマンスが出せない会社にい続けることは致命的だ。転職は、当人にとっても、雇う会社にとっても重要なことだから、慎重に行われて当たり前だが、それでも短期間で個人・会社の双方の要望が完璧に噛み合った転職がいつも成立するとは限らない。実際に働いてみたら、自分の想像とは全く違っていたということも起こる。この会社で自分のパフォーマンスを出すのは無理と判断したら、あっさりと次の挑戦に切り替えられることは、結局、個人・会社の双方にとってよいことだ。

退職した同僚も僕もビッグファーマから、今の小さなスタートアップ会社に入り、新たな部署の立ち上げに挑戦した同士だった。ビッグファーマでは、たくさんあるプロジェクトのひとつを担当するリーダーに過ぎなかった。でも、今のスタートアップ会社では、部門のリーダーとして会社全てのプロジェクトを網羅しなければならない。退職した同僚は、明らかにバランスを崩していた。残念ながら、グループを軌道に乗せる前に、滞りを生じていた。彼女も夜遅くまで働いて頑張っていたが、仕事は溜まっていく一方だった。僕から見ても彼女は今のポジションに留まるより、もっと彼女の強みに合ったポジションに転職するのが彼女にとっても良いと思った。だから、彼女の退職の決断の話を聞いたとき、驚きはしたが、同時に祝福し、エールを送ることができた。

理由3.大局的思考・軌道修正の機会となる

重要なポジションの人間が突然会社を去れば、当然プロジェクトに大きな支障が生じる。残された者で何とか進めていかなければならない。とりあえず、何とかなる小さな問題は、脇に置いて、本当に重要な問題のみにフォーカスせざるを得ない状況に追い込まれる。ところが、この究極の状況が、大局的思考の絶好の機会となる。「そのプロジェクトの本当のゴールは?」「そのゴールを達成するために、本当に取り組むべき大切なアクションアイテムは?」 もう一度、原点に戻って、見直す機会が得られる。まさに、グレッグ・マキューン著の「エッセンシャル思考」や安宅和人著の「イシューからはじめよ」で書かれているような、本当に本当に大切な問題を見極めるを実践できる絶好の機会となる。そして絶好のプロジェクトの膿出しの機会である。そして、さらにその後にプロジェクトの成功に向けて、大胆に軌道修正も行うことができる。


ジョブ型雇用で雇用されている者が心得るべきこと

一見、厳しい社会のようにも見えるが、僕はとても楽観的に感じた。過去には自分のパフォーマンスが十分に発揮できず、追い込まれているとだけ感じることがあった。そんな時は、自分には能力がなく、自分が努力して向上する他、何も選択肢がなく、八方塞がりのように感じた。でも、実は自分を追い込む必要はなく、合わなかったら、あっさり諦めて別の道に進めばよいだけなんだと気づいた。自分の強みが最大限活かせる職場環境にいるかどうかを意識する。そうでない環境なら、そのまま留まって環境を変えることはできるか?あっさり転職してしまった方がよいか?を考えればよいだけなのだ。








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