生命の起源の探求:増幅と強化による自己発展システム

■はじめに

このnoteでは、システム分析のアプローチで生命の起源の探求を行っています(参照記事1,2,3)。生命の特徴である自己増殖についても、以前の記事で考察をしていました(参照記事4)。

この記事では、増幅と減衰という現象の抽象モデルを考えていき、それが自己増殖と同じように発展するシステムを形成しえることを説明します。このため、以下の点を説明していきます。

  • まず、増幅と減衰という現象がフィードバックを通じて発生することを説明します。特に増幅は「集中型」と「拡散型」という二つの異なる方向性を持つことも説明していきます。

  • この時、入力となる「リソース」が「媒体」に与えられることで「プロセス」が駆動する、というモデルを前提として考えます。このモデルが「フィードバックリンク」を持つことで、プロセスが増幅や減衰します。フィードバックリンクのトポロジにより「集中型」「拡散型」「ハイブリッド型」の増幅現象が起きます。

  • 加えて、システムが新しい「フィードバックリンク」を生成する能力を持っていると、時間と共にトポロジが変化していき、新しい増幅現象が発生します。

  • また、強化や弱化という現象がサプライリンクを通じて発生することを説明します。強化も、増幅と同様に「集中型」と「拡散型」という2つの方向性を持ちます。

  • 「プロセス」が新しい「媒体」や「リソース」を生成する能力を持っている場合があります。生成された「媒体」や「リソース」は新しい「プロセス」を駆動することもあります。こうしてあるプロセスの成果物が別のプロセスの媒体やリソースとなる時、そこには「サプライリンク」が生じます。

  • 「サプライリンク」が元の「プロセス」に影響することで、強化や弱化が起きます。「サプライリンク」のトポロジによって「集中型」「拡散型」「ハイブリッド型」の強化現象が発生します。

これらのメカニズムにより、システムは自己発展が可能になります。このメカニズムは、生命の起源における化学進化、具体的には有機物から細胞が形成される過程でも発生し得ます。従って、自己増殖する遺伝子のような複雑な機構を必要とせず、比較的シンプルな有機物でも自己発展が可能だったという事が分かります。

以下、詳しく見ていきます。

■システムにおける自己増幅・減衰の一般論

システムがフィードバック回路を持ち、それにより増幅や発散、あるいは減衰や収束をするとした場合について考えます。

例えば、マイクがスピーカの音を拾ってしまうハウリングは、音の増幅現象です。他にも、金融において毎年の利息も資金に組み入れながら運用することで福利効果を出していくことも、資金の増幅現象と考えることができます。反対に毎年損失を出していくと、資金は徐々に減少していきます。

フィードバックにより増幅や発散する場合、初期状態やフィードバックの量、増幅係数、レイテンシ(フィードバックにかかる時間)に少しでも誤差があると、時間とともに誤差の影響も増幅され発散していきます。金融の例では、増幅係数は利率、レイテンシは利息が得られるまでの時間、フィードバック量は利息のうち再投資する量に対応します。

一方で、減衰や収束をする場合は反対に、時間と共に誤差も減衰し、収束していきます。

増幅現象においては誤差の影響が大きくなるということは、未来の予測が難しくなるということを意味しています。予測と現実にほんのわずかでも誤差があると結果が大きく変わってしまうためです。一方、減衰現象は誤差によって予測がそれほど大きくずれることはありません。

■集中型と拡散型の2方向の増幅

システムにおける増幅は、リソースを使います。一般的にはエネルギーですが、システムによって増幅に使われるリソースは異なります。

リソースにはエネルギーのようにやがて使えなくなるものと、物質のように再利用し続けることができるものがあります。

システムで増幅が発生するとき、空間上の中心部分にリソースを集める、という方向性で増幅するケースがあります。これを集中型の増幅と呼ぶことにします。

このケースは、システムの中心部にリソースが注ぎ込まれていく仕組みか、システムの中心がリソースの方へ移動する仕組みかの、いずれかの仕組みが必要です。

一方で、空間上の中心から、空間上の外側に、増幅が広がっていくというケースもあります。これを拡散型の増幅と呼ぶことにします。

このケースは、リソースがある空間に向かって増幅が広がって行きますので、その空間にあるリソースを利用することです増幅を継続することができます。

例えば、ある会社に資金を投資して利益が出た時に、また同じ会社に資金を投資していくケースがあります。これは集中型の増幅と言えます。

一方で、ある会社に資金を投資して得られて利益を、今度は別の会社に投資するようなケースがあります。このようにして各会社が利益を出せば、次々に投資する会社が増えていきます。これは拡散型の増幅です。

それぞれの例で、最初の資金と得られる利益、そして再投資する資金が全く同一だとしても、集中型では一つの大きな会社が活性化し、拡散型では多様な小さな会社が活性化するという違いがあります。

■リソースと媒体

リソースについては既に述べました。リソースは、増幅や減衰現象の最中に加工されるものです。増幅現象を考えるとき、リソースとは別に媒体も必要になります。媒体は、増幅現象の中で加工されたり変化したりしないものです。

投資の例では、会社や工場や店舗や従業員が媒体で、資金や原材料や電気がリソースです。ハウリングであればマイクやスピーカーが媒体で、それを動かすための電気やそこで流れる音がリソースです。

実際には媒体とリソースの線引きは難しい部分があります。リソースが媒体のような側面を持ったり、媒体が増幅や減衰現象の最中に変化してしまう場合もあるためです。同じものは、現象のある時点ではリソースであり、ある時点では媒体というような振る舞いを見せることもあります。

あまり現実的な例ではありませんが、熱で物を加工する工場で、熱を得るために必要な燃料が外部から手に入れられず、工場設備の一部を燃やして熱を取り出すような場合を考えます。この場合、工場設備は媒体であり、リソースになることもあるという話になります。

そのようなリソースと媒体が流動的に変化したり、同じものが二面性を持っているという増幅減衰系を扱う前に、最初はシンプルに概念を整理できるように、媒体とリソースが明確に異なる系を考えた方がよさそうです。その後、こうした流動的な変化や二面性のある系を考える、という流れです。

■プロセスとフィードバックリンク

システムにおいて何が増幅するのか、あるいは何が減衰するのか、という点を考えます。すると、リソースや媒体が増幅・減衰しているわけではない時がtきます。ここで増幅・減衰しているのは、プロセスです。

リソースや媒体が増えたり減ったりしているように思えるかもしれません。しかし、エネルギーや物質はエネルギー不変の法則や質量不変の法則がありますので、系全体で増えたり減ったりすることはありません。良く考えてみると、これらは増えたり減ったりしているわけではなく、外から取り込まれたり、外へ散逸しているだけです。

また、リソースから生成される加工物が増えたり減ったりしているようにも見えますが、これは増幅や減衰の現象のいわば副産物です。副産物が生成されないような増幅減衰系も含めて考えると、増幅・減衰しているのは静的な側面であるリソースや媒体でなく、動的な側面であるプロセスだという事が見えてきます。

この増幅するプロセスが駆動する場となるのが、媒体です。

媒体に外部からエネルギーや物質といったリソースが供給されて、プロセスが駆動します。そして、プロセスが特定の性質を加工物を生成します。その加工物がシステムにフィードバックされることで、増幅や減衰という現象が発生することになります。

この際に、フィードバックの伝達先が、プロセスを駆動している媒体自身であるケースと、別の媒体となるケースとがあります。プロセスを挟んで媒体と媒体の間にあるフィードバックの伝達経路を、フィードバックリンクと呼ぶことにします。

■フィードバックリンクのトポロジと増幅タイプの関係

フィードバックリンクが元の媒体に接続されている時、その媒体で駆動されるプロセスが時間と共に増幅されていきます。これは、その媒体を中心とした集中型の増幅の基本モデルとなります。

一方で、フィードバックリンクが別の媒体につながっている時、媒体の間でプロセスの駆動が波及し広がっていきます。これは、拡散型の増幅の基本モデルです。

さらに、フィードバックリンクが、別媒体につながっているものの、ループ構造になっており、また元の媒体にフィードバックが戻ってくる系もあります。これは、複数の媒体による応用型の集中型の増幅の基本モデルとなります。

さらに、ループ構造もありつつ、外型の媒体にもフィードバックリンクが伸びている場合、集中型と拡散型のハイブリッドな増幅モデルになります。

このようにフィードバックリンクのトポロジが、増幅現象のタイプを規定します。

■フィードバックリンクの生成と、リソースの獲得

単に増幅という現象を引き起こすだけでなく、発展するシステムでは、新しい媒体へとフィードバックリンクがつながる仕組みを持ちます。

増幅の過程でフードバックリンクが増えると、今まで波及していなかった媒体にも増幅現象が波及するようになります。また、フィードバックリンクが新しくつながることにより、ループ構造が生まれることもあります。

このような形で、フィードバックリンクが新しくつながっていく仕組みを持つシステムは、集中型・拡散型のハイブリッド型の増幅をしながら、新しい媒体へと影響範囲を拡大していくという発展型の増幅システムとなります。

発展型の増幅システムは、新しい媒体へと波及することで、その媒体の周辺にあるリソースを利用することもできるようになります。これはシステム全体としては、新しいリソースを獲得したことと同義です。

■媒体の生成、集中型と拡散型の強化

プロセスが生成した加工物が、プロセスの媒体やリソースとなるケースもあります。

加工物を生み出したプロセス自体の媒体やリソースとなるケースもあれば、別のプロセスの媒体やリソースとなるケースもあります。このプロセス間の媒体やリソースの供給関係を、サプライリンクと呼ぶことにします。

サプライリンクによりリソースが供給されるケースは、フィードバックリンクと同じ性質です。一方で、サプライリンクが媒体を供給すると、システムが強化されます。反対にサプライリンクが別の媒体を抑制するような触媒を供給すると、システムが弱化されます。

サプライリンクにより自分のプロセスの触媒を供給すると、自己強化システムになります。これは集中型の強化とも言えます。一方、別のプロセスの触媒を供給するなら拡散型の強化と言えるでしょう。

こうしたサプライリンクも、フィードバックリンクと同様に、連鎖することでトポロジを形成します。これによりいくつかのプロセスを含んで循環する集中型の強化や、ハイブリッド型の強化システムもあり得ます。

また、サプライリンクが増加するシステムもあります。これにより発展型の強化システムが形成されます。発展型の強化システムは、リソースから新しい媒体を生み出すことで、時間と共に空間内に広がっていきます。

サプライリンクの例は、工業社会における工場間の関係を考えると分かりやすいと思います。ある工場の生産物が、別の工場での加工プロセスに必要な原材料(リソース)になることがあります。また、ある工場の生産物は、別の工場の生産設備(媒体)になるでしょう。現代の工業社会は、まさに強化システムとして発展していると言えます。

■生命の起源における化学進化への適用

この増幅と減衰、および強化と弱化のフレームワークは、有機物から細胞が形成されるまでの生命の起源における化学進化の説明にも十分適用できます。

化学進化においても、エネルギーや有機物がリソースや触媒となり、化学変化というプロセスが駆動され、新しい有機物が生成されます。生成された新しい有機物は、そのプロセス自身や別のプロセスのリソースや触媒となる場合があります。従って、有機物の化学進化は、発展型の増幅システムと発展型の強化システムの両面を持つシステムとなる条件を兼ね備えています。

これは、自己増殖する遺伝子のような複雑な機構を伴わなくても、比較的シンプルな有機物でも、発展するシステムが達成可能であることを示しています。従って、自己増殖する遺伝子の発生前の段階では、有機物がこの増幅と減衰、および強化と弱化のフレームワークのメカニズムに沿って、自己発展していったと考えるができるということです。

■さいごに

この記事では、以前に参照記事4で書いた自己増殖の理論よりも鮮明に、発展型のシステムを説明するフレームワークを整理することができました。

この理論に加えて、以下の点を加味して考えると、生命の起源における化学進化のフレームワークが一層鮮明に描けると思います。

  • 参照記事1や参照記事2で説明してきた、有機物のスープが地球上の多数の水たまりに形成されてそれが地球の水の循環によって入り交じる現象

  • 参照記事2や参照記事3で説明した、昼や夜、季節といったエネルギー供給量の周期的な変化により、活発な化学変化が促進されたり、それが収まって有機物が沈着することが繰り返される現象

  • 参照記事5で説明した、進化や発展において、加速や減速や方向転換が起きる現象。なお、加速は本記事で挙げた増幅と強化、減速は減衰と弱化に対応すると考えられます。

  • 参照記事6で説明した、死停止性(止まると構造が崩れて再生できない)と休眠停止性(止まっても構造が維持され再生可能)の特性を持つシステムの概念

このnoteで私が行っている、システム分析のアプローチで生命の起源を探求の旅は、一段落したと思っていたら、また先が見えてくるということを繰り返しています。おかげで、最初に考えていたよりも遠くまで来れたという実感があります。私自身が有機物の実験や研究ができるわけではないため、常に机上での検討にはなりますが、こうした検討が、大きな発見につながれば良いなと思って探求を続けています。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2

参照記事3

参照記事4

参照記事5

参照記事6


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