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生命の起源の研究メモ:自己増殖の理論と考察

このところ、知能や社会に関して思索を行っていましたが、久しぶりに生命の起源の探求に関する研究をしています。これまでの記事で、生命の起源に対して生態系システムという考え方で全体の流れを考えるアプローチしてきましたが、個別の現象の検討はまだまだ足りていません(参照記事1, 2, 3, 4)。

生命の起源における有機物の化学進化の過程において、遺伝子が登場する以前にどのように自己増殖を行うことができたのかという事を考えています。

この記事では、現段階ではまだ検討に甘い部分がありますが、自己増殖について考えていることを研究メモとして記載しておきます。

<完全自己増殖の3類型>

  1. 完全単独自己複製:遺伝子のように、自分自身を複製する能力を持つ。
    ・素材とエネルギーの準備:自分で環境から集める
    ・素材の単位:基礎単位の素材
    ・情報:自分そのものが自分のコピーを生む設計図になっている
    ・増殖メカニズム:分離と修復。DNAは二重鎖が一対になっている。鎖がほどけて分離し、それぞれの鎖が元の片割れを修復することで分裂が完了する。

  2. 完全再帰的自己複製:自分を生み出した仕組みを生成する能力を持つ。
    ・素材とエネルギーの準備:自分で環境から集める
    ・素材の単位:基礎単位の素材
    ・情報: お互いがお互いの設計図を持っている状態
    ・増殖メカニズム: 二重らせんのようにはつながらない遺伝のようなもの。AがBを作る、BがAを作る。

  3. 完全自己触媒:自分を生み出す能力を持つ。
    ・素材とエネルギーの準備:自分で環境から集める
    ・素材の単位:基礎単位の素材
    ・情報:自分を生む設計図を持っている
    ・増殖メカニズム: 与えられた素材と、自分が持っている設計図で、自分を作り出す。

<完全自己増殖と半自己増殖>
上記の自己増殖の類型のうち、以下の制限事項のいずれやかその組み合わせを持っているものは、半自己増殖能力を持つことになる。
・「素材の単位」が基礎単位よりも複雑なものを単位とする。
・「素材とエネルギーの準備」が自分では全てあるいは全くできない。
・「情報」が一部、あるいは全て欠落している。
・「増殖メカニズム」が一部、あるいは全て欠落している。
ただし、素材の単位については、どこを基礎単位とするかは、恣意的に決まる。このため、素材の単位についてだけは、完全自己増殖と半自己増殖の区別は恣意的になる。
また、「素材とエネルギーの準備」は、環境がそれを許す環境になくてはならない。これは、完全自己増殖の性質を持っていても、環境のサポートを必ず必要とすることを意味する。

<環境によるサポート>
半完全自己増殖は、「素材の単位」「素材とエネルギーの準備」「情報」「増殖メカニズム」の欠損を、環境がサポートすることで、自己増殖を可能にする。
完全自己増殖であっても「素材の単位」「素材とエネルギーの準備」に関しては、それを可能とする環境のサポートが必須である。

<環境によるサポートの観点での考察>
・上記のように考えると、初期段階では環境のサポートが非常に高い状態が作られ、そこで完全自己増殖現象が発生したことがスタートだと考えるのが自然である。
・しかしそのままでは、環境の条件が少し変化してサポートが弱まると、自己増殖が行えなくなる。
・このため、完全自己増殖現象が発生している間に、その現象にも変異が起き、多少環境条件が変化しても自己増殖が続けられるように「素材の単位」「素材とエネルギーの準備」「情報」「増殖メカニズム」が強化されたものが生き残るという自然選択が行われる。
・段々と環境条件が変化しても自己増殖ができるようなロバスト性が高い現象が発生つつ、実際に環境によるサポートが弱くなっていく。あるいは環境によるサポートが薄い場所へも自己増殖現象が移っていけるようになる。
・このような進行で、最終的に自己複製が可能な細胞が誕生したと考える事ができる。

<初期の「情報」と「増殖メカニズム」>
・情報科学の符号理論のように、一部の構造が崩れても、周辺の構造がその崩れた部分を修復する修復能力を持つ場合がある。
・この能力を自己に使えば自己修復である。一方、この能力を他の存在に使い、それによって自己と同一のものが完成したとしたら、それは自己増殖にあたる。

さいごに

以上のような形で、自己増殖について検討を行っています。この検討で見えてきたことは、遺伝子のような完全に自己復元を行える仕組みが突然誕生したと考えるよりも、段階的に実現したと考える方がやはり自然であるという事です。

また、初期の段階では、かなり環境からのサポートを受けてシンプルな仕組みとして自己増殖が起き、それが環境の強化をしつつもロバスト性を持つ形で進化したと考える事で、徐々に複雑な自己増殖が行えるようになったという進化の順序についての仮説も立てることができました。

私は、有機物と化学反応が織り成す動的な存在のパターンとして、振り子や渦や波などを私は考えています。振り子は二種類のエネルギー蓄積の仕組みが連携し、一方から他方にエネルギーが移り、それが終わると逆向きにエネルギーが移る、という動きを繰り返す仕組みです。また、渦は循環型の化学反応の連鎖が継続しながら、その化学反応を駆動している有機物が次々と別の有機物に移り変わっていくような動的な存在です。波は渦のように化学反応の連鎖が移り変わっていく際に、複数の有機物にネズミ算式に分岐しながら広がっていくような動的な存在です。

このうち、波は自己増殖をする動的な存在と捉えることができます。波の仕組みは水面や紐を揺らす程度のものですので、環境が高度なサポートをすることができるなら、比較的容易に自己増殖は実現できそうです。

さらに、類型を示したように、自己増殖は自己複製以外の形でも実現ができます。化学進化の過程では、自己複製以外の方法での自己増殖も活用して、進化を加速させていた可能性も考えられます。自己複製以外のメカニズムがが直接遺伝子の誕生にはつながらなくても、自己増殖が行うことが早い段階で実現できていたのなら、化学進化にとっては大きな進歩だったと考えられます。

加えて、多細胞生物における自己増殖についても考えていくことで、自己増殖の理論をより洗練させることができると思います。単細胞生物は分裂型の自己複製だけで説明ができますが、多細胞生物は自己複製よりも自己触媒や再帰的自己複製に当てはまるかもしれませんし、この3類型の枠組み以外の類型を追加して考える必要があるかもしれません。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2

参照記事3

参照記事4


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