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生命の起源について:私の探求の現在地

はじめに

これまでこのnoteで、生命の起源の探求についていくつかの仮説やモデルを記載しました(参照記事1, 2, 3)。また、社会システムや価値システムについてもモデルを提起してきました(参照記事4, 5)。

この記事では、これらのモデルを取り入れつつ、新たに気が付いたメカニズムも取り入れながら、私の生命の起源の探求の現在地を整理します。

なお、私は生命の起源について、有機物が集積した水たまりである有機物のスープの中で化学進化が進んだことで細胞の誕生に至ったという化学進化説を前提にしています。

内容が多岐にわたりますので最初に各セクションの概要を簡単にまとめておきます。なお、動的な存在という用語を多用しますが、有機物群と化学反応群のセットを指しています。

  • 動的な存在のトポロジおよび、供給と価値の連鎖

    • 有機物とその化学反応が、多様な構造を持つことを説明します。これらの構造の組み合わせにより、工場のように有機物を次から次に加工していく供給の連鎖を形成し、かつ、生成した有機物がその工場を強化するという価値の連鎖を生み出します。この2つの連鎖が化学進化において、有機物の安定生産と多様化及び高度化を支えます。

  • 動的な固体・流体・軟体・骨格体

    • 動的な存在が多様な形態を持つことを説明します。これらの形態は、物体の個体・流体や、軟体生物や骨格を持った生物といったアナロジーと対比して捉えることができます。骨格を持った生物に対比される動的な骨格体ができればエネルギーや資源へのリーチできる範囲も広がります。

  • 活性フェーズと非活性フェーズ

    • 昼と夜で太陽エネルギーの供給量が変わりますが、こうしたエネルギー供給量の変化が、有機物のスープに活性フェーズと非活性フェーズをもたらします。活性フェーズで新しい動的な存在が生み出される一方、非活性フェーズでは特定の動的な存在だけが存続します。化学進化の進行によって、徐々に非活性フェーズを超えることが出来る動的な存在が増えていき、生命現象に至ることを説明します。

  • 多数の有機物のスープ、コンジャンクション型の交換とコミュニケーション型の交換

    • 地球上の多数の水たまりや池や海が有機物のスープであり、各々で化学進化が進行しつつ、水の循環や潮の満ち引きにより有機物のスープが入り交じることを説明します。これが、個々の水場内での有機物のスープの化学進化のマンネリ化を防ぎ、全体として進化を持続させる役目を持っています。

  • 空間の凝集と時間の凝集

    • 抽象的な議論として、有機物のスープが地球上に多数あるということを空間における有機物の凝集と分散、活性フェーズと非活性フェーズがあることを時間における化学反応の凝集と分散、と捉えます。この観点で、もう一度これらのメカニズムが化学進化に多様性と進化の促進をもたらしている点を考察します。

  • 社会的伝達と歴史的伝達

    • 抽象的な議論として、有機物のスープ同士の動的な存在の交換を社会的伝達、活性フェーズと非活性フェーズの間の動的な存在の存続を歴意志的伝達、と捉えます。この観点で、有機物の化学進化における動的な存在の交換と存続を再整理します。

  • 動的な圧縮と復元

    • 活性フェーズと非活性フェーズで、多数の動的な存在が少数の動的な存在に絞られ、再び活性フェーズに戻った時に、元と同じような動的な存在が復元できる場合があることを説明します。これを動的な圧縮と動的な復元と呼び、歴史的伝達だけでなく、社会的伝達においても大きな利点を生むことを述べます。

では、以下に各セクションの詳細を説明します。

動的な存在のトポロジおよび、供給と価値の連鎖

生命は有機物と化学反応という静的な存在と動的な処理を組み合わせた、動的な存在です。

有機物は分子が結合して構成されます。鎖状、ツリー状、環状、ネットワーク状の様々なトポロジを持ちます。

化学反応も結合して連鎖しますし分岐することもできます。同じく鎖状、ツリー状、環状、ネットワーク状の様々なトポロジを持ちます。

動的な存在は化学反応を内包していますので、ある有機物をインプットとし、ある有機物をアウトプットする場合があります。これは、有機物の工場のようなものです。その時の動的存在の本体となっている有機物は触媒の役目を果たす、生産設備のようなものです。

動的な存在のアウトプットが、別の動的な存在のインプットとなることで、動的な存在自体も連鎖構造を持ち、そこにも、鎖状、ツリー状、環状、ネットワーク状の様々なトポロジを持ちます。このため、動的な存在は入れ子構造を持ったトポロジという事になります。

このインプットとアウトプットの連鎖は、ビジネス用語で言えばサプライチェーン(供給の鎖)です。

一方、生産されたアウトプットとなる有機物が、サプライチェーンを構成している生産設備としての有機物の存在を維持したり強化する性質を持っていることがあります。そのような有機物はサプライチェーンを安定化し生産性を向上化させますので、さらに多く生産され、それがまたサプライチェーンの維持や強化にプラスに働くという循環関係が生まれます。サプライチェーンの維持や有機物の生産が、価値があることだと捉えると、この循環関係はビジネス用語でいうバリューチェーン(価値の鎖)と呼ぶことが出来ます。

生命の誕生まで化学進化では、このバリューチェーンを生み出すような形でサプライチェーンが複雑に伸びて進化していくことで、多様で複雑で高機能な有機物および動的な存在が生成されるような発展をしていきます。

動的な固体・流体・軟体・骨格体

先ほど説明した動的な存在は、静的な構造と処理の構造を持ちます。その構造にに自由度のない固定的なものから、自由度が高い流動的なものまで多様なものが存在します。前者を動的な固体、後者を動的な流体と呼びます。

動的な流体と動的な固体の中間には、動的なゲル、動的なゾルがあります(通常の物体で言うと、ゲルはドロドロしいた粘度を持ち、ゾルはゼリー状のものです)。また、そうした自由度の異なる動的な存在が組み合わさることで、動的な軟体や、動的な骨格体も存在し得ます。動的な骨格体は脊椎動物のアナロジーで捉えると、骨の部分が動的な固体、関節の部分が動的な軟体、そして肉の部分も動的な軟体で構成される動的な存在です。

生命の誕生まで化学進化では、動的な流体だった有機物のスープの中に、徐々に動的なゾルやゲル、動的な固体などが生成されていったと考えられます。化学進化が進むと、その種類が濃度が増えていき、やがて動的なゾルやゲルが組み合わさって動的な軟体が登場します。さらに動的な固体と動的な軟体が結合することで動的な骨格体が登場します。

軟体動物よりも脊椎動物の方が高いところまで届き、速く泳いだり走ったりできるように、動的な軟体よりも、動的な骨格体の方が、広く早く遠くまで自分のテリトリーを持つことが出来ます。これによりい動的な骨格体は、より多くのエネルギーや有機物を取り込むことが可能になります。

活性フェーズと非活性フェーズ

動的な存在はエネルギーを受けて駆動されます。動作が停止した後、再びエネルギーを受けて動作することが出来る休眠停止性の動的な存在と、動作が停止すると構造が崩れて二度と起動できなくなる死停止性の動的な存在とがあります。

有機物のスープに外部から与えらえるエネルギーの供給度合いには、時間によって多くなったり少なくなったりする波があります。エネルギー供給が多い時間帯を活性フェーズ、少なくなる時間帯を非活性フェーズと呼びます。

活性フェーズでは多くの動的な存在が活発に動作します。その中で、動的な存在が新しい有機物を取り込んだり、動的な存在同士が組み合わさったりして、新しい動的な存在が生成されます。

非活性フェーズに移行すると、動的な存在はその動きを止めて停止します。この時、休眠停止性の動的な存在は停止したまま存在し続けます。一方、死停止性の動的な存在は構造が崩れて消失します。

生命の誕生までの化学進化では、活性フェーズと非活性フェーズが繰り返されることで、動的な存在の生成と消失を繰り返しながら、徐々に動的な存在が多様化し複雑化して進化が進んでいきます。

その中で、非活性フェーズに入ってからもしばらくの間、動作をし続ける死停止性の動的な存在が現れます。進化が進むにつれて、その持続時間が伸びていきます。やがて、非活性フェーズを1度だけ超えることができるような動的な存在も現れます。それがさらに進化することで、複数フェーズを連続で超えられるようになっていきます。そしてついには、非活性フェーズを延々と乗り越え続ける死停止性の動的な存在が出現します。これが生命の素となる動的な存在であり、この現象を生命の離陸と私は呼んでいます。

多数の有機物のスープ、コンジャンクション型の交換とコミュニケーション型の交換

地球上には多数の有機物のスープが存在していたと考えられます。水たまり、池、湖、そして海です。これらの有機物のスープの中で化学進化が進行したと考えられます。

地球には水の循環や潮の満ち引きなどがありますので、時々、これらの有機物のスープの間でスープの交換が行われます。

有機物のスープが全体的に入り交じるようなコンジャンクション型の交換と、部分的かつ選択的に交換が行われるコミュニケーション型の交換とがあります。前者は、多様な動的な存在が入り交じります。後者は、例えば水の上の方に浮かぶ比重の軽い有機物で構成された動的な存在だけが交換されます。

生命の誕生までの化学進化では、それぞれの有機のスープの中での化学進化があるところで止まってしまうマンネリ化が起きることが考えられます。しかし、時々こうしてコンジャンクション型の交換やコミュニケーション型の交換が起きることで、新しい有機物や動的な存在同士がであい、マンネリ化を脱して化学進化が促進されます。

空間の凝集と時間の凝集

有機物のスープが地球上の水たまりに存在したという点を少し抽象化して捉えると、化学進化を起こすために必要な有機物が空間的に凝集と分散をしていたと捉えることが出来ます。凝集することで化学進化が起きやすくなりますし、空間的に分散しつつも時々交換がなされることで、マンネリ化を防ぐことが出来ます。

また、エネルギー供給度合いの高低の波が、活性フェーズと非活性フェーズとなっていたという点を同じく抽象化して捉えると、化学進化を起こすために必要な化学反応が、時間的に凝集と分散をしていたと捉えることが出来ます。空間の凝集と同じく、時間の凝集により化学進化が起きやすくなりますし、時間的に分散しつつも一部の休眠停止性の動的な存在が継承されることで、マンネリ化を防ぐことが出来ます。

地球上の水たまりや池は、天然の空間凝集と分散をもたらしました。一方で、化学進化の過程では、ゾルやゲルのような粘度を持った有機物の固まりが、有機物のスープ内部に自ら空間凝集と分散をもたらします。また、有機物のスープが膜に包まれることで、よりくっきりとした空間凝集も実現されます。これらの空間凝集は、天然の空間凝集と掛け合わせて、より有機物のスープの化学進化を多様化しつつ、さらにマンネリを防いで多様な進化を可能します。

地球の自転による昼と夜の繰り返しは、太陽エネルギーの供給度の高低の波を作り出し、天然の時間凝集と分散をもたらしました。一方で、化学進化の過程では、動的な存在がエネルギーの振り子構造を作り出し、エネルギーの蓄積と放出を自ら繰り返すことで時間凝集と分散をもたらします。また、糖や油脂のように停止してもエネルギーを蓄えて置ける有機物が生み出されることで、より柔軟かつ長時間の時間凝集も可能になります。これらの時間凝集も、天然の時間凝集と掛け合わせて有機物のスープの化学進化に多様性をもたらします。

社会的伝達と歴史的伝達

先ほど挙げた空間の凝集としての、粘度を持った有機物の固まりや膜に包まれた有機物のスープは、多数の有機物から成る動的な存在を、その構造を失わずに維持しやすくするという利点もあります。

また、時間の凝集としての、エネルギーの振り子構造や糖や油脂のようなエネルギーの固定も、エネルギーを失わずに保つ作用があります。

これは長距離の移動をしやすくします。このため、これらの登場は、水たまりや池などの有機のスープの間でのコンジャンクションやコミュニケーションを促進します。

これらの交換は、空間的な凝集と分散の間の橋渡しとなっており、これを社会的伝達と呼ぶことにします。

一方で、エネルギーの振り子構造や糖や油脂のようなエネルギーの固定は、単に自ら時間的な凝集と分散を作り出すだけでなく、活性フェーズと非活性フェーズの間の橋渡しにもなっています。このため、これを歴史的伝達と呼ぶことにします。

動的な圧縮と復元

活性フェーズで、動的な存在が新たに有機物を取り込んだり、動的な存在同士が組み合わさることで、新しい動的な存在が生成されます。

一方、非活性フェーズでは、多くの死停止性の動的な存在は消失することになり、残るのは休眠停止性の動的な存在がほとんどになります。

この休眠停止性の動的な存在は、活性フェーズに入ると駆動されて化学反応を再開します。このとき、休眠停止性の動的な存在が駆動されて生み出す有機物が、すぐに別の動的な存在として駆動されるようなケースがあります。そこからまた更に別の動的な存在が駆動される、という連関が続くケースもあります。

こうなると、休眠停止性の動的な存在は、非活性フェーズで見られた停止中の有機物に比べて、それよりも多く多様な動的な存在を生み出す能力があると言えます。これはサプライチェーンで言えば、停止中は1つの生産設備ですが、駆動すると次々と別の生産設備を生み出すという仕掛けのようなものです。

これはコンピュータにおけるファイルを小さく圧縮したりそれを復元することに似ていますので、動的な圧縮と動的な復元、と呼ぶことにします。

活性フェーズでは多数の動的な存在があり、非活性フェーズではそれを復元するのに必要な最低限度の動的な存在だけが残るという現象が、動的な圧縮です。

そして反対に動的な圧縮がなされた動的な存在が活性フェーズに入って他の動的な存在を生成する現象が、動的な復元です。

動的な圧縮は、歴史的伝達において少数の動的な存在だけを伝達すれば良いため、伝達効率や破損の可能性を低くすることが出来ます。

特に複数の動的な存在が連関する必要のある動的な軟体や動的な骨格体において、活性フェーズから非活性フェーズを挟んで再び活性フェーズを迎えた際に、すべての動的な存在が元の通りの配置を保つことは難しい面があります。

しかし、動的な圧縮と動的な復元のメカニズムであれば、複雑な動的な構造から構成されるような動的な軟体や動的な骨格体を、正しい位置関係で復元することが容易になります。

このように、動的な圧縮は歴時的伝達に大きな利点を生みます。

この記事は、生命の起源の話題ですので細胞生物の登場以前の現象にフォーカスを当てていますが、この動的な圧縮と動的な復元のメカニズムで、複雑な動的な存在を生成するというパターンは、多細胞生物が胚から発生して成体となる現象を上手く説明することが出来ます。有機物の化学進化においても、このメカニズムが有効に働いていた可能性は十分に考えられます。

また、動的な圧縮は、複雑なものをコンパクトにでき、かつコンパクトな分、構造が壊れにくい状態で保ちやすいという利点があります。これは、歴史的伝達だけでなく、社会的伝達にも大きな利点を生みます。コンパクトに圧縮されて長距離を移動できる非活性フェーズの動的な存在は、移動先の有機物のスープ内でエネルギーを受けて駆動することで、複雑な動的な存在群を復元することができます。これは、複雑な動的な存在のコピーと拡散を可能にするという事です。

これは、人間の知識が言語に圧縮されて、個人から個人に伝達される構造と同じメカニズムです。

生命の誕生までの化学進化では、この動的な圧縮と動的な復元は、おそらくタンパク質、RNA、DNAの進化へとつながっています。これらはまさに、生命における動的な圧縮と動的な復元の最終形態と言えます。

さいごに

かなり複雑で、多様な概念の説明を必要としましたが、私の研究の現時点の成果を網羅的に整理することが出来ました。

参照記事1を書いた頃に比べると、より多くの重要な概念を付け加えることが出来たと思います。一方で、参照記事1でも述べていたように、やはり生命の起源には、この地球の環境的な条件が大きく関与していたと考えられそうです。地球の環境条件が、この記事で説明した概念に対応することは、仮説でありつつもこれらの概念に対する一定の信憑性を与えていると思います。また、地球の環境とのつながりが見えてくることで、今度は宇宙における他の惑星での地球型生命の存在についての研究にも、新しい視点が加えられるのではないかと思います。

加えて、私は、このnoteで記載している記事全般のアプローチとして、生命の起源と、その他の自律的に自己組織化するシステムとを同じモデルで捉えることを強く意識しています。このため、この記事で記載したほとんどの概念は、細胞誕生以降の生物の進化、人間の知能、社会システム、知識の発達や経済システムの発達など、様々な分野にも適用できる概念になっています。

これにより、学際的な視点、つまり、多くの学問分野の間での知見や洞察の交流を可能にすることも私の研究の大きな目的です。この記事での整理は、その目的に対する前進のためのステップにもなっています。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2

参照記事3

参照記事4

参照記事5


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