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生命と知性の基礎:フィードバックループ

生命や知性の性質を把握するために、この記事では、明確さと秩序という観点に着目して考えていきます。

明確さと秩序を生み出すためには、自己強化を伴うフィードバックループ構造が存在することが重要だというのがこの記事の結論です。生命や知性は、自己強化を伴うフィードバックループ構造に支えられています。

この事を、量子、分子、生物、知能、社会といった様々な側面で見ていこうと思います。

■生命や知性の本質を考える際の視点

私たちが物事を深く考えるとき、言葉を使います。言葉自体にも曖昧さはありますが、できるだけ曖昧さを排除する工夫をしながら考えています。そのように捉えると、ぼんやりと曖昧なものよりも、クリアに判別できる明確さを思考は求めていると言えるでしょう。

一方で、地球上の生物や知能は、アナログでファジーな性質があり、デジタルで明確な処理を行うことが得意なコンピュータやロボットよりも、高度で複雑な事を行っているように感じられます。このため私たちは、生命や知能の本質が、このアナログな部分やファジーな部分だと考えがちです。

それは、明確な処理を行うことを標準として捉えているためです。そのため、ファジーな性質を持つという特異性にこそ大きな意味があると考えてしまいます。

アナログでファジーな性質に着目することも大事ですが、反対に生命や知性の持つデジタルのような非連続性や明確さに注目することも大切です。

生命や知性は、コンピュータのような秩序と明確さを持つ世界と、乱雑で複雑な相互作用をする物理的な世界の、中間にあります。そして、物理的な世界が標準だという見方をすれば、生命や知性は非常に明確で秩序だったものに見えます。この視点からも、生命や知性を分析していくことが、重要です。

つまり、乱雑で複雑な物理世界における、秩序と明確さを持つ現象に着目することが、生命や知性をより深く理解する鍵となるはずです。

■原子同士の結合

原子が結合することで、分子が構成されます。原子の結合にはいくつかの種類がありますが、いずれにしても原子同士に引き合う力が働いて結合します。結合した分子の振る舞いは、ばらばらの原子の振る舞いに比べると、秩序と明確さを持ちます。

原子間の結合には、引き合う力が原子間の距離を縮め、原子間の距離が縮むことで引き合う力が強まるというフィードバックループ構造があります。このフィードバックループ構造が自己強化的に作用して状態が収束することで、原子が結合して分子となります。

■有機物から生物へ

分子の中でも有機物と呼ばれるものが、生物の基礎です。有機物が複雑に進化し、進化した様々な有機物が連携することで、生命活動が行われます。

生命の起源、つまり有機物から最初の細胞ができるまでの過程は未解明です。ただ、有機物が化学進化することで細胞誕生に至ったと考える場合、そこにはやはりフィードバックループ構造による自己強化があっただろうと私は推測しています。

最初は単純な有機物が生産され、それを組み合わせた少し複雑な有機物が偶然生成されます。その時、それが一度きりの偶然であれば、そこから複雑な有機物は生み出せません。生成された少し複雑な有機物が、元になる有機物の生産や、複雑な有機物の生産を強化する作用を持つことで、自己強化的に少し複雑な有機物の生産が増えます。

ここにフィードバックループ構造による自己強化があります。これが何度も積み重なっていき、生命誕生に至ったというのが私の仮説です。

■生物から知能へ

生命誕生以降は、生物と遺伝子が主役になります。生物の設計図である遺伝子は、自己複製を行うことができます。遺伝子が複製されることで、細胞が増殖します。これは、単細胞生物でも多細胞生物でも、生物個体の増殖にもつながります。そして、生物個体は生殖によって遺伝子を複製する能力を獲得します。

ここにもフィードバックループ構造があります。このフィードバックループ構造が、自己強化として遺伝子と生物を増殖させます。その結果、その環境下で維持できるだけの個体数まで生物は増えます。

そして、生物が進化することで、やがて高度な知能を持った人類が誕生します。

■形式的な知識

言葉や図や表で表現できるものを、形式的な知識と言います。形式的な知識は、個々人の頭に記憶されて維持されます。人から人に伝達されることで、その知識を記憶している人が増えます。知識を記憶している人が増えると、その知識が伝達される可能性も高くなります。ここにもフィードバックループ構造があり、自己強化的に知識は広がっていきます。

形式的な知識や言語の起源については、生命の起源と同様に、謎に包まれています。おそらく言語を持たない動物たちと同じようなパターン認識や予測、感情、コミュニケーションを行っていたとは思います。これはいわゆる暗黙的な知識によるものです。そこから、どのようなメカニズムによって言語や形式的な知識を獲得したのかは明らかではありません。ただし、そこにも何らかのフィードバックループ構造と自己強化のメカニズムが働いていたという想像はできます。

ある対象物を見た時に、同時にある音を聞いたとします。別の機会にまたその対象を見た時に、たまたま同じ音を聞いたとします。これを繰り返していると、その対象と音が頭の中でパターンとして結びつきます。すると、次にその対象を見た時に、音が鳴っていなくても頭の中にその音が浮かびます。逆に、その音だけを聞いた時にその対象が思い浮かびます。

その状態で、自分の口でその音を真似た声を出すと、対象が思い浮かび、対象が思い浮かぶと自然と口からその音が声として出ます。これが対象の概念と言葉を結びつけるフィードバックループ構造を形成して自己強化され、言語の誕生に至るきっかけとなったという想像です。

■社会や学問・芸術

私たちは集団としてコミュニティ、組織、社会を形成しています。これらの人間集団には、特有の知識や用語、文化や慣習、ルールや規律が存在しています。メンバーや世代が変わっても、これらは伝承されていきます。そこにも、フィードバックループ構造を形成して自己強化が見られます。

例えば定期的なお祭りやパーティは楽しいものです。実施すると楽しいという共有体験が残ります。その体験が、また来年も実施するモチベーションになります。こうして共有体験と楽しいことの実施とがフィードバック構造となり自己強化していきます。

楽しいことだけでなくルールと罰則のようなネガティブな面を持つものも同様です。ルールを守らない人に罰則を科した時、それで皆の気持ちが晴れたなら、そのルールは保持されるでしょう。共有体験とルールがフィードバック構造を持ち、自己強化する様子が見られます。

学問も、ある理論が納得性が髙ければ知識として複製されますし、その知識が別のところで役に立ったり、より深い知識を生み出せば、存在感が増していきます。ここでも、理論と実用性や応用性との間のフィードバック構造が形作られて、自己強化されます。その構造だけをみれば、芸術にも同じような面があります。

■量子の波と粒子

あくまで仮説ですが、量子の世界にもフィードバックループによる自己強化は見られるかもしれません。

量子は波と粒子の両方の性質を持ち、重ね合わせ状態にあるという見方がされています。他の量子の作用を受けることで、状態が確定します。量子より大きなスケールでは、物質は波ではなく粒子を単位として構成されているように見えるのは、量子同士が相互作用しあっているため、と考えられそうです。

粒子が当たり前だと考えている私たちの目からは、量子が波と粒子の性質を併せ持つ時、波の状態が特別なものに感じられます。しかし、相互作用する前の波の状態や重ね合わせ状態を基準として捉え、他の量子との相互作用により状態が確定していることが限定された状況だという見方をすることも可能です。

その見方から、量子同士の相互作用は、フィードバックループ構造を持ち自己強化的に確定的な粒子の振る舞いに近づくという仮説が思い浮かびます。もし、量子の相互作用が始まった時に重ね合わせの確率分布に局所性が発生し、その局所性がさらに相互作用を促進するようなことがあれば、そこに自己強化現象がある事になるでしょう。

こうしてフィードバックループ構造により自己強化的に局所性を持った量子が存在すると、周囲の量子にも影響を与えることが想像できます。量子の相互作用による自己強化が、伝播していくイメージです。これにより量子が集積している空間では、量子は主に粒子として相互作用し続けることになります。

例えるなら、水に溶けている塩のようなものです。水に溶けた塩は、水の中のどこにあるのか分かりませんが、確かに存在しています。そして、一度どこか1か所で溶けた塩が析出して固形化すると、にわかにその周囲に塩の結晶が形成されて溶けていた塩が固形化されていきます。

これと似たように、量子も相互作用しない時は、空間内のどこかに存在はしていますが、どこにあるかは分かりません。ただ見えないだけでなく確率的に分布しています。しかしどこか一か所で量子同士が影響しあって粒子のように局所性を持つと、その周辺の量子も次々と局所性を持って粒子のように振舞い始めるというイメージです。

■明確さや秩序的な現象

乱雑で複雑な相互作用をする物理的な世界においても、自己強化を伴うフィードバックループ構造ができれば、その構造を維持し続けることができます。さらに、遺伝子や形式的な知識のように、その構造自体を複製することができるものもあります。

遺伝子や形式知は、空間的に構造を複製しています。自己強化を伴うフィードバックループ構造は、時間軸方向に構造を複製していると捉えることもできます。

複製には、明確さと秩序が条件です。曖昧で非決定的な構造では、複製することが不可能あるいは困難です。もちろん、物理的な物には常に曖昧さや不確定性が内在しており、それが複製の際に誤差や複製の不完全さを生みます。しかし、その確率が限定的であれば、概ね複製は成功します。

ただし、乱数を持たないコンピュータによるシンプルな処理のように、100%の明確さと秩序が保たれる世界では、新しい進化は発生しません。

複製による誤差や不完全さが、遺伝子においては進化の鍵になっていることはよく知られたポイントです。また、物理世界の連続的でランダムな性質が、多様なパターンや新しい組合せを生み出しています。これらが、分子、有機物、生物、知識の進化と発展の原動力となっています。

つまり、明確さや秩序も、乱雑や複雑性も、生命や知性にとって不可欠な要素です。

■さいごに

量子の粒子への収束、原子の結合による分子の形成、有機物の生産による生命現象の芽、遺伝子の自己複製、知識の形式化と伝達。これらが自己強化を伴うフィードバックループ構造を持ち、かつ、明確で決定論的な現象を生んでいます。

乱雑で複雑な状態が多くを支配する物理世界の中で、様々な自己強化を伴うフィードバックループ構造が現れることで、明確さと秩序を持つ現象が引き起こされます。これが生命や知性にとって重要なメカニズムとなっています。

この記事では、量子の粒子性や、生命の起源、言語の起源について、仮説を交えました。これらの仮説自体の真偽は定かではありません。しかし、生命や知性に関与する各レイヤーで、自己強化を伴うフィードバックループ構造が存在すると想定して考えることは、重要な視点だと思います。

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