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夜霧のベルゲン・ベルゼン 〜ふたりのアンネ〜【舞台用台本@90分】

夜霧のベルゲン・ベルゼン
   〜ふたりのアンネ〜

                               ※パソコン閲覧推奨。

【タイトル】

夜霧のベルゲン・ベルゼン
       〜ふたりのアンネ〜

作/演出 香取 大介 
【登場人物】◆男性7名 ◇女性8名 計15名 

◇キティ / ユダヤ人。人体実験候補者。余命3日の少女。

◇マルコ・カフマン / 日本人。母を追いかける少女。

◇セツコ・カフマン / 日本人。真理を求める精神外科医。(夫・カフマン)

◇ヘレンカ / ユダヤ人。人体実験で獣になった女。
◆マイヤー / ユダヤ人。人体実験で超人になった男。
◇ペトラ / ユダヤ人。愛が枯渇した義足の女。
◆ヴェルデック / ユダヤ人。自己認識力の弱い女性恐怖症の男。
◆オットー / ユダヤ人。夢見ぬコミュニティー不全の男。
◆ヨース / ユダヤ人。鬼畜で残酷なカポー。
◆バウル / ユダヤ人。人体実験で心を売った男。
 
◇バーバラ / ドイツ人。ユダヤ人嫌いの最悪の看守。
◇イルゼ / ドイツ人。サイコパス的看護婦。
◇メラニー / ドイツ人。孤独を彷徨う看護婦。
◆ミュラー / ドイツ人。迷える収容所副司令。
◆ヨゼフ / ドイツ人。サディストな極右的収容所司令。

【注意】 ※2017年2月に上演。その当時のネタあり。
     ※劇中に出入りなし。全員舞台面にいる。
     ※白黒動画よろしく、基本的に白と青で表現したい。
その他…霧、靄、人垣、壁、渦、時空など演じてない役者が身体で表現。

序章〈1945年2月、ドイツ・とある郊外〉

薄暗い朝靄の中。人影にも見える靄たちが冷たくなった路地の面から立ち籠めるように現れてくる。1945年2月、ドイツの郊外にある街の一角。冷え切った街並みに人通りはない。彼らは一様に「かごめかごめ」を口ずさんでいる。そこにセツコが先に走って現れ、マルコがあとを追いかけてくる

マルコ  「(声だけ)お母ぁたん! どこにいくの?」
セツコ  「ちゃんとお家で待ってなさい、マルコ!」
マルコ  「待ってよ、お母ぁたん。お願い、今日はお仕事に行かないで?」
セツコ  「どうしたの?マルコ。いつもそんなこと言わないのに。」
マルコ  「よくわからないけど、なんかお母ぁたんがいなくなっちゃう気がするんだ。」
セツコ  「大丈夫。お母さんはどこにも行かない。ちゃんと帰ってくるわよ。」
マルコ  「そうなんだけど、・・・そうじゃなくて。」
セツコ  「大丈夫、大丈夫よ。・・・あ、もしかしてマルコ、学校でいじめられてるの?」
マルコ  「違うよ。」
セツコ  「私たちはドイツ人じゃないけど、ユダヤ人でもない。日本人よ。だから捕まることもないし、安心して、大丈夫。」
マルコ  「うぅ・・・、」
セツコ  「マルコ。お母さんは、お父さんの願いと、そして日本人の一人として、人助けをするために、ドイツまで来たのよ。戦争は悲しいだけで絶対に良くない。だからせめて、お母さん一人くらい、人の命を奪うんじゃなくて、人の命を救う人間がいてもいいでしょ?だから、行かなくちゃいけないの。」
マルコ  「でも、・・お願い、今日だけは行かないで。」
セツコ  「心配してくれてありがとう。大丈夫だから。ほら、お家に帰ってなさい。」
マルコ  「でも・・・、」
セツコ  「ほら、今日も学校の支度して行ってらっしゃい。」
マルコ  「学校も行きたくない!」
セツコ  「マルコ。大丈夫だから。(最高の笑顔で)ね。」
マルコ  「(笑顔に負けて渋々)わかったよ、お母ぁたん、行ってらっしゃい。」
セツコ  「行って来ます。マルコ。」
マルコ  「うん。(ゆっくり振り返り歩き始める)」
セツコ  「気をつけて学校、行ってくるのよ! 夕方には帰ってくるからね。」
マルコ  「(振り返らずに頷く)うん。」
セツコ  「じゃあ、行ってくるね!(そのまま踵を返し人垣へ消えていく)」
マルコ  「(トボトボ歩き、しばらくして止まる。しばしじっと地面を見つめ顔を上げる。突然振り返り)お母ぁたん! やっぱり行っちゃダメ! お母ぁたん!」

第一幕その1〈ベルゲン・ベルゼン強制収容所・作られた世界〉

突然大音量で音楽が流れる。
時空が歪み動き始める(舞台上の役者が動き始める)。その歪んだ時空と朝靄が混じり合い、走り出したマルコを飲み込む。ここは作られた夢の中の世界。ヒトラー総統率いるドイツ帝国が建設を夢見る千年王国の前身となる姿を仮想世界に作り出していた。この地球上のどの生命も物質も、人間が生み出した法則。いつか朽ちていくモノ。だが理論としてはこの法則は永遠に続いてく真理である。思想と科学の対立、神は味方か、自然は敵か、己の弱さと無知を知る者には気高き意志がある。そんな世界をキティは生きてきた。現実世界でキティは母への想いをかぶせた姉の背中を追い、ともに耐え生きてきたが先に姉が消えてしまった。そして心から母に懺悔する。そんなオープニングダンス。

キティ  「(軽く咳き込み)ママ、ごめんなさい。お姉ちゃん、守れなかった・・・。」
マイヤー 「それでもまだ、お前は生きている。」
キティ  「誰?」
マイヤー 「直にこの戦争は必ず終わる。だから最後まで諦めるな。」
キティ  「誰なの?」
マイヤー 「お前のやるべきことは何だ?」
キティ  「私の、やるべきこと。」
マイヤー 「お前のその強い想いがこの世界を生き抜いて行く、ただ一つの力だ。」
キティ  「どういうことなの、(軽く咳き込む)教えて」
マイヤー 「時間切れのようだ。」

ヘレンカとバウルを連れてバーバラがやってくる。
獣のような雄叫びをあげるヘレンカとバウル。
バーバラは、まるで猛獣使いのごとく荒々しく調教している。
二人は抵抗しながらも従っている。

へ&バ  「(荒々しい雄叫び)! バアゥ、バウ、ガーァァァ!!!」
バーバラ 「そこにいたのかい、マイヤー。お前はいつも勝手に動き出す。危なっかしいね。」
マイヤー 「ふん、貴様らが俺をこんな姿にしたんだろ? バーバラ。」
バーバラ 「偉そうに、ユダヤ人の分際で。(叫んでるヘレンカとバウルを黙らせる)ウルサイよ!このケダモノが!」
へ&バ  「(さらに叫びたてる)バァアアアァ!ガァアアア!!!」
バーバラ 「黙れ、ヘレンカ!バウル!(暴力で黙らせる)」
へ&バ  「(少し弱々しい鳴き声)グフゥ、」
バーバラ 「このユダヤのケダモノが。」
キティ  「あ、あなたは。」
バーバラ 「(妖艶に優しく)あら、お嬢ちゃんもこっちにこれちゃったのかい? (険しい顔つき)邪魔だね!」
マイヤー 「やめろ(バーバラの攻撃を受け止める)。」
バーバラ 「ふん、ユダヤ人同士、戯れ付きやがって。」
マイヤー 「戯れてなどいない。」
バーバラ 「まぁいい。(キティに)こいつも先が短そうだ。元の世界に戻ってな。」
バーバラは激しく地面を蹴りつける。

第一幕その2〈ベルゲン・ベルゼン強制収容所・中央ブロック〉

一気に現実世界に戻る。
すると場面はキティとバーバラを残し、マイヤー達そこにいる者が皆、無機質の塀となる。その間を縫ってバーバラが入ってくる。今度はマルコを連れている。その後ろにはイルゼとメラニーが連なって歩いてくる。

ここはドイツにある「ベルゲン・ベルゼン強制収容所」の一角。
中央収容ブロック。

マルコ 「(首根っこを捕まえられながら入ってくる)痛い、痛いよ、離せ!」
バーバラ 「うるさいガキンチョだね。殺されないだけありがたく思いな!」
マルコ  「うるさいな、コンチクショー!」
バーバラ 「減らない口だね。日本人はそんなに野蛮なのかい?」
マルコ  「うっさいな!」
バーバラ 「しばらくの辛抱だ。あんまり暴れてると、他の囚人たちと同様、すぐ撃ち殺すよ。」
マルコ  「・・・はい、ごめんなさい。」
バーバラ 「素直ね。明日か明後日にはお前の処遇も決まる。ドイツと日本は同盟軍だ。おそらく悪いようにはしない。」
マルコ  「お母ぁたんに会いたいだけなんだ!」
バーバラ 「だから、探してると言ってるだろ?」
マルコ  「本当か? 嘘じゃないよな!」
バーバラ 「本当だ、うるさいガキだ。」
メラニー 「マルコちゃん、大丈夫よ。ちゃんと探してるから。」
マルコ  「うぅぅ。」
キティ  (軽い咳)
バーバラ 「イルゼ、そこのユダヤの少女、どうやらチフスに感染してるようだ、診てやれ。」
イルゼ  「はい。」
メラニー 「バーバラさん、」
バーバラ 「何だい、メラニー。」
メラニー 「治療する薬の量が圧倒的に足りません。これでは助かる命も助からないかと。」
バーバラ 「あるだけマシだろ?そもそも生かす理由もない。」
イルゼ  「やめときな、メラニー。」
メラニー 「イルゼ・・。」
バーバラ 「任せたよ。(去っていく)」
キティ  (軽く咳き込む)

奥の方からヴェルデック、オットー、ペトラ、ヨースも集まってくる。
彼らはメラニーの方へ、それを遠巻きにマルコが見ている。
キティはただ力なく咳き込みながらその場にいるだけ。

イルゼ  「(キティのところの寄ってきて)ほら、薬だよ。口開けな。(無理やり口を開け薬を入れる)」
キティ  「!(無理やり飲み込む。そして咳き込む)」
イルゼ  「(腕で口を覆いながら)こっちまで感染したらたまんないよ。メラニー行くよ。」
メラニー 「もうちょっとだけ。」
イルゼ  「勝手にしな。(立ち去ろうとする)」
キティ  「(メラニーに)お姉ちゃんは?」
メラニー 「あなたのお姉さんは昨日死んだでしょ?」
キティ  「お姉ちゃん・・・。」
メラニー 「(きつい口調で)しっかりしてキティ。あなたも連れて行かれるわよ!」
ヨース  「(オットーを蹴飛ばし)何やってんだよ!このヘボが!」
キティ  (軽く咳き込む)
イルゼ  「どうした? ヨース?」
ヨース  「オットーの奴がよ、しっかり立たねぇでさ、(さらに蹴っ飛ばし)この屁っ放り腰が! お前なんてとっとと撃ち殺されてしまえ!」
オットー 「や、や、やめろよ、」
ヨース  「へぇ、口利けんだな、お前よ。オットーが喋るなんてずいぶん久しぶりだな!」
ペトラ  「やめなさいよ、ヨース。同じユダヤ人同士でしょ?」
ヨース  「よしてくれよ、ペトラ。あんたはその右足の義足で労働力と認められてねぇんだ。オットーはちゃんと会話できねぇときてる。そこのヴェルデックは精神的にやられて足腰もアソコも立ちゃしねぇ。お前ら全員、ゴミクズ同然だよ。」
マルコ  「お、おっちゃん、ひどいな。」
ヨース  「何だクソガキ! 俺はこれでも24だぞ!」
マルコ  「そ、そうなんだ。」
ヨース  「てか、お前みたいなクソガキが何でここにいるんだ? 見ねぇ顔だな・・・。狩られてきたのか?」
イルゼ  「その子に関わんないほうがいよ、・・日本人だ。」
ヨース  「は? 日本人? 何でここにいる?」
メラニー 「今朝のユダヤ人狩りの時に紛れ込んでしまったのよ。少しだけ預かるの。」
ヨース  「で、ここかよ。可哀想にな。」
マルコ  「何だと!」
ペトラ  「ヨース、やめなよ。」
マルコ  「ありがと、お姉ちゃん。」
ペトラ  「別に味方じゃないよ。勘違いしないで。私たちはユダヤ人、あなたはドイツ人と同盟を結んだ、日本人。所詮、敵よ。」
ヴェルデック「そ、そ、それにしても何故にほ、日本人が、そ、そんなにドイツ語を話せるんだ?」
ヨース  「お? ヴェルデックさんは、大人の女には立たないくせに、ガキンチョにはおっ立つのかい?」
ヴェルデック「そ、そうじゃない。」
イルゼ  「よしなよ。」
メラニー 「マルコちゃん、気にしないでね。」
マルコ  「あたし、お母ぁたんは日本人だけど、お父たんはドイツ人なの・・。」
ヨース  「ケ?! なんだかよ。(小馬鹿にした感じ)
ヴェルデック「な、なるほど・・、」
ペトラ  「だったら、余計近寄らないで欲しいね。嫌いだよ。」
オットー 「だ、だからですか? な、何で、今日は、か、看守のバーバラさんと、看護婦の、イルゼさんや、メラニーさんがわざわざ、ここに来たのは。」
メラニー 「ええ、まぁ、」
イルゼ  「そのガキ、一応特別待遇だからね。一応ね、」
ヨース  「可哀想なお客さんだねぇ。」
マルコ  「うるさいな!」
イルゼ  「まぁそれだけじゃない。もう少ししたら、新しい仲間をここに連れてくるから、その下見もさ。」
ペトラ  「あ、新しい仲間ですか?」
イルゼ  「寂しくないだろ? ハハハハハハ(バカにしたような高笑い)」
キティ  (軽く咳き込む)
イルゼ  「!(キティを蹴り飛ばし)こっち向いて咳をするな。」
キティ  「す、すみません。」
イルゼ  「まったく。メラニー、行くよ。(さっさと出て行く)」
メラニー 「わかったわ。(少し後ろ髪を引かれながら出て行く)」
マルコ  「(いなくなったのを見計らって、キティに駆け寄る)き、君、大丈夫?」
キティ  「ありがとう。大丈夫よ、ありがとう。」
ヨース  「(キティたちの動きを見てからペトラたちに)オラオラ、お前たち! とっととここを出て働きな! お前らがサボってると俺が棍棒で殴られちまうよ。」
ペトラ  「いい気味だよ。」
ヨース  「ウルセェなくそ女。ケツ揉むぞ!」
ペトラ  「やってごらんよ!」
オットー 「ち、ちゃんと働かないと、う、う、う、打ち殺される。」
ヴェルデック「・・・。(ペトラを目で追っている)」

ヨース、ペトラ、ヴェルデック、オットーが労働のために

外へ出て行く。

第一幕その3

〈ベルゲン・ベルゼン強制収容所・余命三日の少女〉

マルコ  「ねぇ、お名前はなんていうの?」
キティ  「え? わたし?」
マルコ  「そう、お名前は? あたし、マルコ!」
キティ  「マルコね。わたしはキティ。」
マルコ  「キティかぁ。綺麗な名前だね。お友達になろ!」
キティ  「お友達か。(軽く咳き込む)いいわよ。わたしでよかったら。」
マルコ  「やったぁ!」
キティ  「(可愛く微笑んで)マルコ、面白いね。ところでマルコは幾つなの?」
マルコ  「あたし? 歳は10歳だよ。」
キティ  「10歳か。じゃあ、わたしの5個下だね。わたしの方がお姉さん。」
マルコ  「お友達にお姉さんとか関係ないよぉ。」
キティ  「(笑って)そうだね、ごめんごめん。」
マルコ  「みんな、あたしを子供扱いするんだ。さっきだってお母ぁたんをしっかり追いかけてたら、ドイツ兵たちが捕まえてきてさ。」
キティ  「よく生きてこれたわね。」
マルコ  「知らないよ、そんなの。てか、キティ、大丈夫? ずいぶんひどい目にあって・・・。咳き込んでるし、風邪ひいちゃったの?」
キティ  「風邪じゃないみたい。」
マルコ  「風邪じゃないの?」
キティ  「私の近くにいたら感染しちゃうから、近寄らないほうがいいよ?」
マルコ  「大丈夫よ! だって、あたしのお母ぁたん、お医者さんだもん。」
キティ  「?それ、関係あるの?」
マルコ  「・・・わかんない。」
キティ  「あはははは、(心地よく笑って)マルコって面白いねぇ。
マルコ  ほら、そっちの笑顔の方がよっぽどいいよ!」
キティ  「・・・ホントだ。ありがとうマルコ。久しぶりに笑ったわ。」
マルコ  「どういたしまして。」
キティ  「マルコはなんでここに来ちゃったの?」
マルコ  「わかんないよ、軍人さん達、何を言っても聞いてくれなかったんだ。」
キティ  「ふーん、ここに来る人たちはわたし達ユダヤ人か、ドイツ軍に反抗した外国人ばかりなんだけど、日本て味方だもんね。」
マルコ  「あたし達、ドイツに来てから3年くらい経つんだ。どんどん大人や周りが変わって来るね。最初はベルリンというところに住んでたんだけど、そのうちに、もう少し田舎の方に行くよってお母ぁたんが・・。」
キティ  「そうなのね、大変だったんだね。」
マルコ  「キティはここに来てどのくらいなの?」
キティ  「わたしは、どのくらい日にちが経ったか覚えてないけど、夏に捕まっちゃってそこで、パパ達男の人と別々にされちゃって、冬になったら子供達だけここに連れてこられて、・・そこでママとも別々にされちゃったの。」
マルコ  「そうか、キティも両親と離れ離れなんだね。会えるといいね!」
キティ  「そうね、・・・でも、昨日お姉ちゃんが死んじゃった。」
マルコ  「そうなんだ。」
キティ  「あ、ごめんね、マルコには関係ないのに、」
マルコ  「ううん、いいの。・・なんか戦争ってやだね。たくさんみんな死んじゃう。」
キティ  「そうね、早く終わらないかな。(軽く咳き込む)」
マルコ  「(キティの様子を心配そうに眺めながら)そうだ、キティってどんな夢があるの?」
キティ  「夢?」
マルコ  「そう、夢!」
キティ  「わたしはね、いくつかあるのよ、例えば作家さん! たくさん物語を書いて子供達に希望を配りたいわ。あと、ハリウッドスター! 綺麗な女優さんになって、もっと素敵なお洋服をいーっぱい着るんだから!」
マルコ  「へぇ、すごーい! いいなぁ。」
キティ  「あら、マルコだって願えばそうなるのよ。」
マルコ  「そかな。」
キティ  「マルコは?」
マルコ  「あたしは、お医者さんになるの! お母ぁたんみたいに、たくさんの人を救ってあげるんだ!」
キティ  「わ、すごいねマルコ! マルコがお医者さんになったら、わたしの病気も治してもらおうかな。」
マルコ  「うん! だからキティ、元気出して! ね!」
キティ  「(舞台中がとろけるような笑顔で)うん、ありがとう!」

場転。
全員が冷たい地面によって生み出された、足元を這う霧となり、キティとマルコを包み込んで行く。
その向こう側からセツコが走り込んで来る。
すると霧の一部が人の姿となり、ドイツ兵となる。
その奥からミュラーが現れる。
セツコは一瞬たじろぎ怖れるが、ミュラーの姿を見て肩の力を抜く。
だんだんと霧が晴れて行く。

ミュラー 「セツコ・カフマンさんですね?」
セツコ  「は、はい、あなたは・・。」

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