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拝啓~昭和感の溢れるおやじへ~

拝啓

夏の訪れを謳歌するような蝉時雨の季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

さて、農業アルバイトを終えて3週間が経とうとしています。
あなたには大変かわいがっていただきました。

この手紙があなたに見つからないことを願って、キーボード上で指を走らせます。


まず、あなたには大変かわいがっていただきました。
その節はどうもありがとうございました。

入寮初日。どこの馬の骨ともわからない、無知な学生にあなたは酒と料理を振る舞って下さりました。

寮のこと、仕事のこと、働く人のこと、人生のこと。
色々な話を聞かせていただきました。

面倒見の良いおっさんだなあ。

これがあなたの第一印象でした。



翌日からも事あるごとに
「今日は寒いから暖かい恰好をしたほうが良い」「雨が降るから雨具を持ってけよ」「仕事はどうだ?」

と僕を気にかけてくださりました。
まるで父親のような声掛けに、
肉体労働、寮生活という不安が解消されていくのを感じました。


そして、毎晩のようにお酒を片手に相談に乗ってくださいましたね。
寮のこと、仕事のこと、働く人のこと、人生のこと。

それこそ初日に話した内容を。
「ふむふむ、なるほど」がいつの日か
「あれ?前にも聞いたな」に変わり、しまいには


「またこの話か」

と思いつつ聞いておりました。そこはあなたの悪い癖なのかもしれません。


しかしそれは僕にとっては全くマイナスではなくて。

僕自身、何か生きるヒントを探そうと、血肉にしようと耳をかっぽじって聞いていました。
毎晩復習をしてくれる学習教材だと考えて聞いていました。



しかも、その様子が別の寮生の目には
『毎晩同じ話を聞かされているかわいそうな奴』
と映ったようで、

「助けてあげたいけどあの親父は止まらない。ごめんな」

と可愛がっていただくきっかけにすらなりました。


あなたはよく、
「なんでも真剣にやれ。見ているやつはどこかに絶対いるから。そして絶対助けてくれるから」

とおっしゃられていましたね。
解釈は違えど、結果的にその通りになるとは。

面白いものですね。



礼儀や仕事に厳しいこと。
自分は守らないルール、自分の価値観を他の人に押し付けること。

一言でいうと頑固おやじ。
あなたはあまり好かれてはいませんでした。


これが冒頭の「あなたに見つからないことを願って」の要因です。



それでも僕はあなたの人間らしいところ、いいと思います。

「これ食え」と毎晩のように料理を作ってくれたこと。
最年少だった僕を気にかけてくださったこと。

この事実はなくなりません。僕はあなたの良いところを見ていましたから。


そんなあなたの贈与を受け続けるにつれ、僕は億劫になっていきました。

~ 気遣いはわかった。勉強になることが多かった。これからは実践していけそうだ。だけど、このたくさんいただいた分をどうやって返せばよいのだろう ~


そして最終日、僕はあなたに言いましたね。

「○○さんには色々良くしてもらいました。でも僕は何を返せばいいかわからないし、返せるものもありません。嬉しかったのですが申し訳ない気持ちになります。」


すると、
そんなことかと言わんばかりに、あっさりとした返事でこういったのを覚えています。

「いらん。気持ちだけで充分だ」
「人より辛い経験をしたけど、人の縁でここまで生きてこられた。それを別の人に返しているだけだ。だから見返りなんて求めていない」

「そういう気持ちを持っているだけでお前は大丈夫だ」


いつか、あなたからいただいた気遣いを他の人にできるように、
そんな大人になれるように精進していきたいと思います。


立派になった暁には、ぜひまたお酒を片手に人生の話をしましょう。

きっとあなたは、どこかで聞いたことのある話をまたするのでしょうが。。

そのときを楽しみにしております。


最後になりますが、暑い中での農作業、どうかお体に気を付けてお過ごしください。

敬具


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