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note小説 三十路のオレ、がん患者

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毎週月曜更新の小説。30代の会社解雇された「オレ」がガンになり、患者視点から描いていく
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#ちゅうハヤ

note小説 三十路のオレ、がん患者   第9回 手術を終えて

note小説 三十路のオレ、がん患者   第9回 手術を終えて

意識が戻った。

多分、意識が戻る直前に夢みたいなものを見ていた。
目が覚めた瞬間、忘却の彼方に消えてしまったが。

目が開いた時、ドラマや映画と同じ光景だった。

嗚呼、そう言えば手術だったんだなと記憶が蘇って来た。

辺りを見回すと、叔父が視界に飛び込んで来た。

思わず「あれ?」と声が出る。

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第8回 手術

note小説 三十路のオレ、がん患者   第8回 手術

手術の朝。

ドキドキして眠れないのかと思ったら隣のベッドの奴のイビキで眠れなかった。
大事な日の前夜がどこのどいつかもわからない奴のイビキで睡眠妨害をされるとは。

布一枚でしか仕切ってないと、こうなる。
当たり外れで言えば、完全に外れ。

何となくボワーンと目が覚めた。
会社員してた時と同じだ。

そのせいか緊張を全然してない。
もっとガチガチになると思っていた。

考えてみれば麻酔をされ意識

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第7回 手術前夜まで

note小説 三十路のオレ、がん患者   第7回 手術前夜まで

入院は生活に制限が加えられるのに暇で困る。

窓の桜も散り始め、根元に咲く菜の花が優しく見える。

世間では新年度で新学期だ。

オレは世間から隔絶されてメスを入れられると言うのに、世間では新入生や新入社員が入学して出会いを求める先輩や同期が物色している時期だろう。

実際にオレもしていた。
どうなったという事ではないが、物色自体を楽しんでいたのかもしれない。

その天罰なのかわからないが、入院病

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第6回 入院

note小説 三十路のオレ、がん患者   第6回 入院

4月になった。

その頃になると、近所には桜並木の桜が咲き乱れ、菜の花が歩道に彩りを添えてくれる。
梅だってまだ咲いている。

住所的には関東首都圏でベッドタウンなのだが、そうは思えないほどの田舎道だ。

入院の支度ができ、病院まで歩いていく事にした。

その田舎道を10分ほど歩けば病院に着く。

散り始めた優しい色をした桜の花びらを見ながらオレはこんな奇麗な景色を見ながら腹を切られに行くのかと現

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第5回 手術までの間

note小説 三十路のオレ、がん患者   第5回 手術までの間

意外な事にガンの宣告をされて手術まで一ヶ月ほど期間があいている。

進行性のガンだと言われ、すぐに手術しないのか。

その間に進行してしまうではないか。

大腸ガンが他のガンに比べ進行が遅いとしても進まないわけではないだろう。

それまでオレは毎日、造血剤を飲んでいる。
血を作る薬を飲んでいると言う事は、体内で出血しているという事だ。

入院したが、検査しただけで処置はしてない。

それまでに方々

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第4回 会社は冷たい

note小説 三十路のオレ、がん患者   第4回 会社は冷たい

退院してからやらねばならない事。

採用選考の進んでいた会社への辞退の連絡。

来月に手術という事で入社時期をズラすわけにもいかない。
手術を終えて即復帰できるとは限らないからだ。

合併症だの後遺症だの残る可能性がある。

「ガンの手術」は成功しましたが、「肺炎」を引き起こしました。

芸能人のニュースなど前半しか報道されなかったりする。

トータルで健康にならなければ意味がない。

最終面接ま

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note小説 三十路のオレ、がん患者   第3回 母へ宣告

note小説 三十路のオレ、がん患者   第3回 母へ宣告

病室に戻り、その日の夜。

ベッドで声を押し殺して泣いた。

オレの人生は何なんだ。
会社を二度もクビになる人間は生きていたらいけないのか。
頑張っていれば報われるんじゃないのか。
オレが生きてちゃダメなのか。

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