大事なことは相手を間違えないこと

江國香織氏著「流しのしたの骨」。

わたしはこの本を、冬が始まるあたりに必ず読む。

登場人物は

そよ(長女・25歳)

しま子(次女・23歳)

琴子(三女・19歳)

律(長男・15歳)  

父(名前は出てこない・おそらく公務員)

母・由紀子(専業主婦)

とある姉妹弟が紡ぐ、初冬から春にわたる、ごくごく日常の物語り。

…と聞くと、なあんだ。地味で、格別、事件も何もないお話なのね。つまんない…

ってホン投げてしまわれるかもしれないですが、いえいえ。

くいしんぼうの方は必読。

特に、「小説に出てくる食べ物描写がたまらなく好き」という方には是非。本当に、読むとたまらなくお腹が空く物語りです。

それから恋と愛についてもっと深く知りたいあなた。

必読です。

ワタクシ自身、当時(乙女のころ)は恋とか愛とかって、始め方も終わり方もいわゆる紋切り型しか知らなかった…のですが、この本を読んで開眼。かっと見開いた眼からウロコが落ちたようでした(…いたたまれない表現ですが、他に例えようがなく)

印象的なシーンを一つご紹介。

そよ・しま子・琴子・律、の4きょうだいの母、由紀子さんが、彼らにとっくりと向かい合って性愛(!)について話をするのです。

「恋する相手は間違えないように。その人かどうか、わかるからわかるのよ」と。

その箇所を読んだ当初、あまりにも衝撃過ぎて、わたしは頭を抱えた。だって、そんな話…まだ幼子にですよ?

そよちゃんが当時、中学生くらいだったとあるので、末っ子の律にいたっては3歳くらい?おそらく、きょうだい達にとっては「かーさん何いってるんだろう?」と訳もわからなかったはず。

でも、後年、欠けていた記憶の断片にぴったり収まるべく、4人とも、探していたパズルのピースを見つける日が巡り来るのです。まさに物語のピークともいうべき時。4人とも出会うべき人、場所にそれぞれのやり方で辿り着くのです。

そう思うと、伝えるべきことをさらっと言えて、しかも必要になった時に思い出してもらえる。いつか自分もかーさんになった時、由紀子さんのように、未来の我が子に話ができればなあ、と思ったものでした。

ところで。不倫という永遠につきないテーマについて、慮っていることがあります。

たとえばですよ。

荒野のごとく、この世を彷徨い歩き続け、やっと出会った人。

もしかしたら運命の人!? と胸が高鳴り、そしてお付き合いが始まって愛を育み、やがて結婚。人生は薔薇色。ラ・ヴィ・アン・ローズ。嗚呼、生きていてよかった…。

ちょっと待ったです。

「ほんとにこの人かしら…?」と、心の片隅にふと疑問符が浮かび、それがどうしても、いつまでも消えてくれなかったとしたら?

大きな決断の前に迷いはつきもの。一瞬でも迷う隙があれば、その疑問符、見捨てずに、心の声に素直に耳を傾けるべき、と思うのですね。

でもでも、この人を逃したら後がない?会社や友達、とにかく皆んなに結婚するって言っちゃったし。親には何て説明しよう。いまさら、いまさら…

迷いと体面をかかえて一緒になったとしても。後から、必ず後から、ぴったり合う人が出てきてしまうもの。パズルのピースのように。

たとえば、出会ってしまった二人。どちらかが既婚者であるものの、ゆきずりの関係を通り越し、いつしか真剣な付き合いになってしまう。果たして気持ちの整理を付けることができるのか。悲劇の幕開けを予感させるが、二人の未来はこれ如何に。

恋する、とか、愛するとかって、誰にも止めることは出来ない、不思議な感情。倫理に反するから「好きな気持ち」を止めよう、って思ってそれが出来る超人は、人類史上、古今東西見渡しても、ほぼいないのではないかな、と思う。

人生は長い。でも青春は短い。後戻りしたくても簡単にできないこともある。そんな事態に陥らないよう、未然に防ぐ方法はそう…。

直感が全て。何事においてそれにかかっているのだ、と言っても大袈裟ではない。

大事なことは相手を間違えないこと。

由紀子さんの名言はあまた、あるのだが、この一語は格別。繰り返し読むうちに、今では私の中にしっかり根付いてしまった。友情でも愛情でも、とにかく情が絡む場面(あくまで人限定。物に対しての後悔はどうしたって取り戻せるから。)で「この人、何か違うかな?」って思ったら、素直に、心の声に耳を傾けるようにしている。

心の声が聞こえるようにするには直感力を養うこと。直感力を養うには五感を鍛えること。見る・聴く・触る・味わう・匂う。わたしはこれらのうち一つでも鈍くなると、もうだめだ。考えがとっ散らかり、支離滅裂な羽目に陥ってしまう。外出もままならない昨今。なかなか難しいけれど、日に1度は五感を研ぎ澄ますようにしている。(それには、五感同時に使う料理が一番手っ取り早く、おすすめです。)

江國香織氏の小説は、カルバドスがたっぷり入ったホットチョコレートのよう。長年にわたり、永遠のスイーツとしてわたしを支えてくれている。心と体の風邪の特効薬。ひきはじめには必ず、読む。

そうして、しなびてきた己の直感力を取り戻し、すべからく流転する万物に立ち向かえるよう、今日も元気にがんばるのだ。





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