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子どもだけでなく支援者にも‟聞いてもらえる”居場所は必要

経済的に困難を抱える家庭へオンラインによる伴走と学びのプログラムを提供している「キッカケプログラム」。私はそこで主に、子どもたちの支援者であるメンターのマネジメントを担当しています。

そんな私に、「子どもだけでなく “大人” にも居場所は必要」と思わせてくれたメンター・アキホさん(仮名)との出会いを今日はご紹介します。

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アキホさんと初めて会ったときの印象は、落ち着いていて思考力が高い子。とにかく真面目で、子どもたちへの対応が思うようにいかなかったときは「次までに改善します」と口にすることが多く、「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ」と声をかけることもありました。

そんなアキホさんにある日、転機となる出来事が訪れます。それは、キッカケプログラムに参加する子どもたちに向けて、メンターが自分の人生を語ることで、将来のことを考えてもらうキッカケを作るイベント。そこでアキホさんが登壇することになったのです。

自分自身を理解することはきっと自信にもつながるし、その自信は子どもと向き合うときに間違いなくプラスに影響すると思ったので、全力でサポートをしようと心に決めました。

まずは人生語りをするために、今までの人生の棚卸しをすることに。2ヶ月間、とにかく対話の連続。指示するのではなく “聞く” を意識しました。というのも、私が今のアキホさんのように子どもたちのメンターをしていた頃、子どもたちだけでなくメンターにも寄り添ってくれる存在が大事だと感じたからです。

棚卸しを進めていくと、ある一つのエピソードを教えてくれました。それは学生のときに、友達から仲間外れにされた話。仲間外れにされて悲しいと思いつつも、自信のなさから自分の意見を伝えられず、情けなさを感じていたとのこと。ただ、その後自分を受け入れてくれる友達と出会ったことで、 “ありのままの自分でいいんだ” と気づかされたとのことでした。

「このエピソードを子どもたちにぜひ伝えたいです」とアキホさん自身が言った瞬間、背中を押せたかもという手ごたえを感じました。どこかに導くのではなく、本人の気づきを大事にできた瞬間でした。

メンターたちと会議をする様子

そしてもう一つ、アキホさんとは思い出深い出来事があります。それはアキホさんが、ある子どもとの関わりで悩んでいたときのこと。その子は極度の人見知りで、最初はzoomに参加できずチャットでのやりとりが精一杯だったので、アキホさんも戸惑いを見せていました。

最初は私に質問しながら対応方法を考えていましたが、アキホさんに考える力があることは知っていたので、質問をされたときに「アキホはどうしたらいいと思う?どうしたい?」と聞くようにしました。そうやって自分で考える余白を作ると、徐々に自分で決められるようになったのです。

これまでの私だったらすぐにアドバイスをしてしまっていたかもしれません。でも、今までいろんなメンターと関わってきた中で、「このメンターにはこう関わった方がいい」という経験が蓄積されてきたことで、アキホさんへの最適な関わり方を選択することができました。

こうやってアキホさんと一緒に壁を乗り越え、成長して1年が経った頃。ついにアキホさんがキッカケプログラムの卒業を決意しました。卒業のとき、アキホさんからこんな言葉が。

「美羽さんは理想のメンター像でした」

私との対話の時間をとおして、子どもがメンターに感じるような安心感や、今までになかった学びを得てくれたのではないかと思い、嬉しくなりました。また、今までは子どもの成長を感じて喜んでいましたが、メンターの成長やかけてくれる言葉に感激することもあるんだと気づかされました。

そして何より、アキホさんと出会ってから感じたのは、子どもたちの支援者であるメンターは “話を聞く” “寄り添う” ということを常日頃行っていますが、それだけではバランスが崩れてしまうということです。

メンター自身にも “聞いてもらう” 場があって初めて、課題を客観視できたり、自己肯定感を高めたりなど、子どもの前に出るためのチューニングができる。この気づきを大切に、これからも支援者にとってのナナメの関係を大事にしながら、メンターたちと関わっていこうと思います。

メンター会議を行っているZOOM画面

今回のコラム担当:菅原 美羽(すがわら・みう)/キッカケプログラム
新卒でウェディングプランナーとして勤務した経験を活かして、「大人だけでなく子どもの思いにこそ寄り添いたい」と2020年にNPOカタリバでボランティアを開始。”先生とは違う大人の関わり”をさらに広げていくことを目指して翌年に職員となり「キッカケプログラム」にて主にメンターのマネジメントやプログラム設計を担当している。