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「しつこいんだよ!」反抗して現実から逃げていた女の子が、小さな自信を得たときに見せた大きな変化

家庭でも学校でもない、第3の居心地が良い場所「サードプレイス」。
そこは、子どもたちが親や教員、友達とも違う人たちと出会い、さまざまな価値観や可能性にふれられる場所。やりたいことが見つかったり、自分の良さに気づくことができたりなど、子どもたちの世界が広がる場所でもあります。

カタリバではこれまで20年間、子どもたちのためのサードプレイスと、親や教員(タテ)や同級生の友だち(ヨコ)とは異なる 「一歩先を行く先輩とのナナメの関係」を届けてきました。

子どもたちがどのようなきっかけで「サードプレイス」に来て、どんな経験をし、何を見つけたのか。これまで出会ったたくさんの子どもたちの中から、特に印象的だったエピソードをご紹介します。

管理栄養士になりたい。夢を抱きつつも勉強を嫌がり、反抗していた女の子

ハルさんは幼い頃から「管理栄養士になりたい」という憧れを抱いていた女の子。管理栄養士として企業の社員食堂で働くお母さんを見て、この仕事に憧れるようになったのです。

でも、勉強は大の苦手でした。なかでも国語と数学は、中学1年の通知表からずっと「1」。ハルさん自身、どこが理解できていないのか、どう勉強したら良いのかすらわかりませんでした。

そこで高校受験に備えるため、お母さんがハルさんを連れてカタリバが運営するサードプレイス「放課後の居場所」を訪れたのです。ハルさんが中学2年の3学期のことでした。

「放課後の居場所」スタッフはすぐに学習支援をスタートするため、「毎週火曜日と木曜日に『放課後の居場所』で授業を受ける、宿題は毎日必ず夕飯前に済ます」などの約束をハルさんと交わしました。

しかし「放課後の居場所」に来ても、授業には出ないハルさん。スタッフが注意したり、勉強しようと誘ったりすると、「しつこいんだよ!やる気がなくなる」と乱暴な言動で反抗します

その様子を、ハルさんが来所した時から見てきたスタッフのケイさんは「本当に嫌というより、反抗することをおもしろがっている感じだった」と言います。

「普段のハルさんはどちらかというと静かで、マイペースなのんびり屋さんです。ただ、ハルさんと同時期に『放課後の居場所』に来館するようになったやんちゃなグループと仲良くなり、そのグループと一緒にいる時には言動が乱暴になるようでした」(ケイさん)

中3になっても「放課後の居場所」の授業に出ず、受験勉強にも本腰が入らないハルさん。結局、志望高校には偏差値が届かず、より偏差値の低い高校にどうにか滑り込みました。

現実から逃げてばかりいた女の子に訪れた、ほんの小さな変化

高校に入ると部活とアルバイトを理由に、さらに勉強を避けるようになったハルさん。それでもスタッフはハルさんにアプローチし続けました。

「といっても、いつも勉強のことを言っていたわけではありません。『放課後の居場所』は学習の場であることよりも、スタッフや他の子とおしゃべりしたり遊んだり、皆でいっしょにご飯を食べたりなど、子どもたちの『居場所』であることを最も重要視しています。

実際、ハルさんも他の子も常に反抗的なわけではなく、仲の良いスタッフには甘えたり慕ってくることもあるんです。そうした日常の関わりを第1に大切にしながら、スタッフ全員で連携をとりながら関わりを続けていました」(ケイさん)

ハルさんは周りの雰囲気に流されやすく、やっと勉強を始めても、仲良しグループのメンバーが来るとすぐやめて遊んでしまいます。それをスタッフが注意すると、「別の日にやった」など嘘をつくことも。

また、授業で入試の過去問を解いても答え合わせはしないなど、「間違いに向き合いたくない」「現実から逃げ出そうとする」ところも多く見られました。

そんなハルさんに変化が見え始めたのは、高1の終わり頃でした。冬休みの課題に積極的に取り組み始め、高2からは「放課後の居場所」の授業にも出るようになったのです。

「その頃、中学時代からつるんでいたグループの仲間うちでちょっとした揉め事があり、ハルさんもグループから少しずつ距離を置くようになったようです。同時に、高2になって周りが進路を決め始め、不安を感じたようでした」(ケイさん)

スタッフが「今から基礎学力を高めよう」と中1からの学び直しを提案したところ、素直に応じたハルさん。出席率も良くなり、しばらくすると少しずつ成績が上がり始めました。

「成績が上がった時はすごく喜んで『自分できるじゃん!って自分で驚いた』なんて照れていました。苦手だった勉強をコツコツ続けることができたこと、それで結果を出せたことで、少し自信が持てたのだと感じました」(ケイさん)

進路に迷い将来が見えなくなった時、最後に頼ったのはサードプレイス

その後も学び直しを続け、成績が上がっていったハルさん。次第にハルさんの学力的には挑戦校でもある、管理栄養士の資格が取れる四年制大学への進学を希望するようになりました。

しかし高3の7月、担任の先生から「学力的に四年制大学合格は厳しい」と言われてしまいます
お母さんからも「受かる可能性が低い学校を受験をさせる余裕は、うちにはないわ。ごめんね」と頭を下げられ、それ以上何も言えませんでした。

数日後、ケイさんに「大学はあきらめるしかないのかな……」と相談したハルさん。これまでずっとスタッフの言葉を聞かず、反抗的な態度をとってきたハルさんが、自分から何かを相談してきたのは初めてでした

「『放課後の居場所』では、たとえ子どもが聞く耳を持ってくれなくても、『伝えるべきことは伝え続ける』ことを意識しています。何かできた時は思い切り褒め、ダメなことはダメと叱りながら向き合っています。

『あの人たちは私がいくら反抗しても言うべきことを言ってくれた』『自分のことをちゃんと見ていてくれた』と思ってもらえたことが、最後に頼ってくれた理由ではないかと思うんです」(ケイさん)

ケイさんはすぐに「進路のことは一緒に考えよう」と提案。その日から週2回、進路について面談を行うことにしました。

しかし、四年制大学という目標を失ったハルさんは、「就職して、働きながらやりたいこと見つけるのもアリだよね」「管理栄養士か他の仕事か、気持ちは五分五分」と、管理栄養士の夢も諦め始めていました

「以前の『難しい現実と向き合いたくない、目を背けて逃げ出そうとする』癖が、また出てきたと思いました」(ケイさん)

さらに「うちにはお金がないから早く働かなきゃ」「こっちの仕事の方が管理栄養士よりお金が貯まる」など、自分の希望や納得感から目を背け、収入などの良し悪しで進路を決める方へ傾いて行ったのです。

そこで、「良い進路」ではなく「自分が納得する進路」を選んでも良いことを伝えるため、「就職もいいと思うけど、そもそもなんで進学したいと思ったんだっけ?」と、一度全てを白紙に戻して考え直すよう促しました。
ケイさんに「どうして管理栄養士になりたいと思ったの?」と問われたハルさんは、改めて幼い頃からの夢について考えたそうです。

管理栄養士になる方法も調べ直した結果、「専門学校であれば学力的にも合格の可能性があり、栄養士の資格を取ってすぐに働ける。その後、管理栄養士の試験も受けられる」という結論にたどり着きました。
ハルさん自身が「これしかないと思う」と納得した新しい目標でした。

最も苦手な「面接」を徹底的に練習。乗り越えた時にまた一歩成長が

受験に向け、細かい勉強の計画も立てました。なかでもハルさんが不安視していた「面接」は、週3〜4回の集中レッスンを行うことに。
やるべきことが決まったことで、ハルさんは驚くほど前向きに受験対策に取り組むようになりました。

「面接は『自分の考えを言える』ことが第一歩なので、そのレッスンから始めました。例えば『好きな漫画は何?』『それは何巻あるの?』など、簡単に答えられる質問から始めて、徐々に『その漫画のどこが好き?』など、自分の考えをまとめて言葉にする練習を重ねたんです」(ケイさん)

自分の考えを言えるようになったら、次は相手とのやりとりの練習。これも「ハルさんが好きな漫画のキャラクターが面接官だったら」という架空の設定で、楽しみながら練習を重ねました。

「最後は本番を想定した面接練習です。スタッフたちの知り合いの大学教授や会社役員の人などに協力してもらい、いろいろな人と面接しました。年が明ける頃には『偉い人ともたくさん面接したから、もう怖いものないし』と笑って言うようになっていました(笑)」(ケイさん)

その言葉通り、「本番の面接でも緊張しなかった」と言うハルさん。希望した専門学校に見事、合格を果たしました。

その数週間後、ハルさんは『放課後の居場所』に家のパソコンを持って訪れました。専門学校から入学前にやっておくようにと課題が出たので、自習室でやると言うのです。

「『先にやった方が後がラクだから』と笑うハルさんを見て、なんだか感動しました。
何事も受動的で、面倒なことから逃避していたハルさんが、課題に自主的に取り組み始めたのはすごいことです。変な言い方ですが、『面倒くさがりを良い特性に変えた』なと(笑)

『絶対無理!』と思っていた面接も乗り越え合格できたことが、新たな自信になり、それが彼女をまた一歩成長させたと感じました」(ケイさん)


専門学校には合格したものの、夢である管理栄養士にはまだなれません。専門学校で栄養士の資格を取り、実務を3年間経験した後、難しい試験を受ける必要があるのです。
それは、決して簡単なことではないでしょう。

でもケイさんは、「きっともう大丈夫!」と笑顔で語ります。

「ハルさんを見ていて、人は『やればできるとわかると本当に変わる』ということを感じました。ほんの小さい自信でも、それを1つ1つ積み重ねていくことで、すごく成長できるんです。

ハルさんには小さい頃からの『夢』もあります。どんなことであれ、ちゃんと『憧れられる力』があるのは強味です。それがあれば苦手なことも、きっとどんどん得意に変えて進んでいけると思います」(ケイさん)

※個人の特定を避けるため、一部フィクションが含まれています

-文:かきの木のりみ


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