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ラブクラフト『エーリッヒ・ツァンの音楽』感想

 新潮文庫『狂気の山脈にて クトゥルフ神話傑作選』より3話目の短編の感想をお送りします。

 この物語も構成は前の2話と同じです。

 語り手が過去の恐ろしい出来事を振り返って語る。
 語り手は、事情があって恐ろしい場所にゆく。探索をして、事件があって、語り手(主人公)は対処し、ラストへ、の流れです。

 前の物語『ランドルフ・カーターの陳述』『ピックマンのモデル』の感想はこちらからどうぞ。



 『エーリッヒ〜』は『ピックマンのモデル』に比べると、やや書き込みと掘り下げが不足気味で、割とあっさり終わってしまった気がします。『ピックマン〜』の直後に読んだので、比較してしまうからでしょうか。単体で見ると、充分によく出来た小説です。

 『ピックマン〜』は画家の話でしたが、『エーリッヒ〜』は音楽家、ヴァイオリン弾きの話です。作中ではヴィオールと表記されています。調べてみたところ、ヴィオールとはヴァイオリンのフランス語呼びだそうです。この物語の舞台はフランスです。

 筋書きは以下の通り。

 貧しさから安いアパートを探して住むことにした主人公は、屋根裏部屋から聴こえる奇妙な音楽に心惹かれます。屋根裏部屋には、貧しいながらも天才的な腕を持つヴァイオリン弾きの老人が住んでいました。主人公は彼の部屋で音楽を聴かせてもらううち、恐ろしい出来事を体験します──

 ラブクラフト流のパターンは、この現実世界が恐ろしい異界につながっていて、ふとした事で異界からやって来る恐ろしい存在と遭遇してしまう、そのようになっています。

 それが、すでに述べた通りの、

 1 語り手が過去の恐ろしい出来事を振り返って語る。
 2 語り手は、事情があって恐ろしい場所に行った過去がある。
 3 その過去話の中で、恐ろしい場所の探索をして、事件があって、語り手(主人公)は対処し、ラストへ。

の流れの中に組み込まれています。

 創元推理文庫の『ラブクラフト全集1』にある『インスマスの影』もその他の物語も、基本的にはこのパターンで書かれています。

 それをワンパターンと感じさせないラブクラフトの筆力はさすがですね。

 ちなみに、クラーク・アシュトン・スミスには、強大な力を持つ魔術師が、傲慢になりエゴを暴走させて破滅するパターンがあるようです。その魔術師が主人公側なのか、敵側なのかの違いはありますが。

 作家にはそれぞれ、書きたい・書けるパターンがあり、それを使いこなすのが大切なのかも知れませんね。

 私にもきっと得意とするパターンがあります。

 それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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