ラブクラフト『ピックマンのモデル』感想
新潮文庫『狂気の山脈にて〜クトゥルフ神話傑作選』より『ピックマンのモデル』の感想をお送りします。
図書館や古本で買うより、新品の本を買ったほうが読書が進みますね。電子書籍も良いですが、やはり紙の本が好きです。ちなみに、新潮文庫には紐のしおりが付いています。
さて、この物語の構造は、以前お話した『ランドルフ・カーターの陳述』とほぼ同じです。
何らかのきっかけがあって、恐ろしい場所にゆく。そこでの事件があり、主人公は対処し、その結果としてのラスト。と、こうですね。
主人公が、出来事を後から振り返って語るスタイルも同じです。
しかし続けて読んでも、似たような印象にはなりません。骨格は同じでも、肉付けが全く違うからです。
ピックマンは画家で、見る者をぞっとさせる不気味な絵ばかりを描いています。まごうかたなき鬼才で、主人公はピックマンを高く評価しています。
主人公の一人称視点で、真に優れた芸術的な絵と、見た目だけを整えた絵の違いも語られます。
優れた画家の一人として、ラブクラフトの友人であり、作家仲間だったクラーク・アシュトン・スミスの名も出てくるのです。
クラークは、当時ラブクラフトより人気のあったダークファンタジー作家であるばかりではなく、画家としても活動していたのです。ラブクラフトの小説に、挿し絵を書いたこともあるそうですね。
実在の人物の名を出すのは、物語により現実味を添えますね。あるいは、友人クラークへの謝辞でもあるのでしょう。
ピックマンは自分の暮らす土地について、魔女狩りのあったセイラム付近であり、長い歴史を経て、自分のような奇怪な絵を描く芸術家が住むに相応しい土地柄になったのだと語ります。
そして主人公は、半ば朽ち果てた古い屋敷の中に設えられた、ピックマンのアトリエにやって来るのですが……。
ピックマンは何者だったのか、どこに消えたのか。それは謎のままに終わります。謎のままにすることで、余韻を残し、気味の悪さ、恐ろしさを演出しているのです。
ラブクラフトの作品は後の世に、クトゥルフ神話大系として様々な派生作品を生み出しました。彼の作品は死後に認められたのです。
クラーク・アシュトン・スミスは、ラブクラフトが生きているうちにクトゥルフ神話の小説を書いたそうです。おそらくは彼は、見る目を持っていたのでしょう。
クトゥルフ神話のテーブルトークRPGまであり、You Tubeでの実況が人気を博しているそうです。
幻想的な作品において世界観はとても重要です。世界観の奥行きは、語られない部分を残すことにより演出されます。
ホラー小説としての不気味さを出す手法が、クトゥルフ神話大系の世界観の奥行きと、その広がりを演出することにもつながったのでしょう。
故に、設定それ自体の巧みさもさることながら、語られない部分を語りたい人々を魅了し、クトゥルフ神話大系はシェアードワールドとして成功したのでしょう。
私はそう考えています。皆さんは、いかがお考えになりますか?
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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