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【かすみを食べて生きる 6 一般病棟②】ワレンベルグ症候群による嚥下障害のリハビリなどの記録

脳梗塞 発症4日目:一般病棟2日目
・食事:飲み込みができないため絶飲食。水分、栄養とも点滴。誤嚥性肺炎のため鼻からの経管栄養を延期中。
・状態:ベッド上安静。自力で上体を起こせるのはまだ短時間。
HCUにいた時ほどではないが、唾液や痰は続いていた。
そして誤嚥性肺炎による熱。

この日も私の世界はベッドの上だけだった。

<発症3日目:一般病棟①   発症5日目:一般病棟③>


午前中は検査

腹部造影CTと頭部MRI。
CTやMRIをこんなに短期間にガンガン撮って大丈夫だろうかという不安はあるけど、回復するためには仕方がないと考える。
生きるために命を削っている。
造影剤注入用に右手にも針を刺され、両手にルートを確保されてしまった。

おむつ問題への提案

検査から帰ってきた時、すでにおむつは汚れていたが今日も看護師さんは忙しそう。
やむなく2回目もおむつですることにしたが、失敗して盛大におもらしをしてベッドを汚してしまった。
運悪く防水シートから外れた場所。
ナースコールを押し、ベッドの片付けとおむつ替えを依頼した。
看護師さんはすぐにきて状況を見て、シーツ替えをするから少し待っていてくださいと言った。
手を煩わせたくなかったのに、シーツ全取り替えというおむつ替え以上の手間をかけてしまった。
くやしい。
これ以上迷惑をかけたくない。
けれど濡れたおむつで我慢するのはしんどい。
そこで、シーツとおむつを替えてもらったタイミングで看護師さんに聞いてみた。

「おむつ、自分で替えちゃだめですか?」

看護師さんは「呼んでくれれば替えますよ」と言ってくれたけど、できれば自分で替えれると助かるともうひと押しお願いをしてみた。
看護師さんはそれならと、どうすれば私がひとりでおむつを替える事ができるかを考えてくれた。
ベッドの横に、持ち手付きビニール袋の束を取り付け、束の中の一袋におむつを何枚か入れてくれた。
夫に余っていた子ども用のお尻拭きを持ってきてもらうように頼んだ。
子どもが赤ちゃんだった頃以来、久しぶりのおむつ替え。
まさか自分で自分のおむつを替えることになるとは思っていなかった。

  • 排尿したらおむつを開け、汚れた尿取りパッドを外してビニール袋に入れる。

  • 汚れた部分を拭いて腰を浮かせて新しいパッドを入れおむつを留める。(おむつ本体が汚れていたらそれも取り換える。)

  • 手を洗いにいけないので家から持ってきた拭き取りのアルコール消毒剤で手を拭く。

すべてベッド上で一人でできる。
10分位かかり、調子の悪い時は少し息切れがしてしまう。
でも気持ち的にはとても楽になった。体も気持ちもすっきり。
トイレを我慢しなくていいし、出した後もいつでもすぐに替えることができる。こうして私は自分でおむつを取り替える患者になった。
人として大事な何かを、ひとつ取り戻した。

パブロフの犬

今日も言語聴覚士の谷元さん(仮)が来てくれた。
絶飲食の私に水分を持ってきてくれるのはこの段階でこの人だけ。
谷元さん(仮)来た!水分だ!
谷元さん(仮)がカーテンの端から顔を出しただけで、よだれが出てしまう。そしてこの日は訓練用に氷を持ってきてくれた。
もう口に入れることのできるものならなんでもうれしい。
しかし氷を口に入れた時、私は不思議な感覚に襲われた。
口の中の左右で氷の冷たさの感覚が違う。
左は普通に冷たいけど、右は冷たいようなそうでもないような感じ。
私の症状の一つに右半身と左頭部の温覚が鈍いというのがある。
そうか、口の中は右が鈍いのか。

「ごっくん」の「くん」

小さな氷を口に入れて溶かして、それを飲む練習。
「ごっくん」の「ごっ」まではいく。のどぼとけが上に上がる感じ。
でもその後の飲み込んだものを下に流す「くん」ができず、水は食道に入らず喉のあたりで溜まってむせてしまう。
時々息ができないほどむせて、ベッド上で溺れたようになる。
これを繰り返す。
私がむせると谷元さん(仮)は私の首や肩周りをマッサージしながら、しっかりむせて咳をして喉に残っている水を出すようにと言う。
横には吸引の用意もあるから、どうしても出せない時は吸引をするから大丈夫だとも言っていた。
2日ほど前は全然咳き込めなかったが、少しずつ咳き込むことを思い出してきた感じがする。
何度もむせて咳き込み方を少しずつ思い出している感じでもある。
リハビリの時間は30分程度。
「ごっくんのくん」を思い出すために、氷のかけらを口に入れてはむせるを繰り返す。
誤嚥は怖いけど、谷元さん(仮)がいる間はなんとかしてくれそうなので、時間いっぱいやるしかない。
嚥下訓練、体育会系の部活並みにハードだなと思いつつも、やらないとどんどんできていた事を忘れていきそうだなという恐怖感もあった。


ーーー振り返って

嚥下訓練始まりました。
ゲホゲホゴホゴホとむせ続ける、なかなか苦しい訓練でした。
脳の回路が一部切れて嚥下機能を忘れてしまっているけど、なんとなく身体は覚えてる感じはしていました。
楽譜は忘れてるけど指が覚えてるみたいな感じ。
身体が思い出してくれたら、脳も新しく覚えてくれるのではないかというイメージでした。

身体!忘れきってしまう前に思い出して脳に教えて!
これ以上忘れないで!

むせ倒して自分の体にそう問いかける期間でした。

おむつ問題、体感では10日位悩んでいた気がするのに、振り返るとたった4日で決着がついた話でした。
おむつおむつと下の話をしつこく書いてすみません。
この時期におむつ替えをするという動作が脳の状態的によかったのかどうかわかりませんが、いいリハビリになったのではないかと思います。
(でもそれは結果論なので、似た状況で自分のおむつ替えを考えた際は、関係者によく相談をすることをお勧めします。)
私の中だけで起きていた大事件だったので、ここに書き置いて供養させて下さい。

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