見出し画像

【かすみを食べて生きる 36 リハビリ病院1か月目⑬】ワレンベルグ症候群による嚥下障害のリハビリなどの記録

脳梗塞 発症1か月と3日目:リハビリ病院13日目
・食事:飲み込みができないため絶飲食。食事は鼻からの経管栄養。
・状態:歩行訓練中。日中、フリー歩行自立。終日、車いす・歩行器自立。
・嚥下:嚥下訓練中。首を左に向ければ1~2mlの水を飲み込める。

食事訓練をかけた嚥下造影検査まで、あと8日。
嚥下訓練は少しずつ、でも着実に進んでいる。
歩行器なしで歩くといろいろ間違えられる。

これまでのお話はこちら『かすみを食べて生きる 序文と目次』
<発症1カ月と2日目:リハビリ病院1か月目⑫
 
発症1か月と4日目:リハビリ病院1か月目⑭>


1mlの世界

9日後の嚥下造影検査に向けて、言語聴覚士下浦さん(仮)のリハビリでは、日々1ml単位の水分を飲み込む訓練が続いている。
今日もあご、のど周りの筋トレを行った後、以下の嚥下訓練を行った。
顔は正面を向いて。軽くあごを引く。

  • 水1mlシリンジ 2回

  • 水2mlシリンジ 2回

  • 水1mlスプーン 3回

  • ICE BOX 2粒(家族からの差し入れ)

1回の嚥下ではのど残りがあるため、何度か追加で嚥下する。
最終どうしてものどに残る感じがある際は、首を左に向けてごっくんとするとすっきりする感じがする。
大きくむせることは少なくなった。
今日は比較的いい感じで飲みこめた。

わくわくADL室

ADLは「Activities of Daily Living」の略語で日常生活動作を意味する。
リハビリ病院のリハビリ室には、ADL室という部屋があった。
そこは小さな家のような部屋。
玄関がありそこで靴を脱ぐ。
畳の部屋があり、フローリングがあり、お風呂もある。
調理室では実際に料理の訓練ができるし、木工室には様々な工具や3Dプリンターもある。
このおもしろい空間は作業療法士さんたちの領域。
家を模した場所で、実際の生活に近い環境を作り生活動作の訓練をする場所。
今日の作業療法士花井さん(仮)とのリハビリは、浴槽シミュレーター。
花井さん(仮)から夫への依頼によって、うちの家の段差、浴槽の高さなどの住環境に関する情報が伝えられている。
浴槽シミュレーターは高さを変えられるので、我が家の浴槽と同じ高さに設定して、浴槽をまたいで中に入れるかどうかをお湯のない状態で訓練する。
急性期病院の作業療法士国島さん(仮)との最後のリハビリで、浴槽の入り方をベッド上で試したことを思いだす。
国島さーん(仮)!あの時やったこと!やっとここで試します!
予習のかいもあって、浴槽に入ることは問題なくいけそうだった。
これをもって次回の作業療法士花井さん(仮)とのお風呂評価では、久しぶりの浴槽に入ることになった。やったー!

セラピストさんではない

最近リハビリのセラピストさん達の制服が変わった。
スポーティな形の紺色のお召し物になった。
私はリハビリを受ける時、黒のジャージを着ている。
雰囲気が少し似ているとは思っていた。
昼過ぎ、デイルームにリハビリで使う嚥下訓練用の氷水をくみに行った。
邪魔にならないように部屋の隅を移動して給茶機に近づく。
水を入れて振り向くと、車いすのご高齢の女性と目が合った。
「早く連れて帰って!」
大声で叫ばれる。
周りを見ると看護さんやセラピストさんはいない。
「早くきて!」
え、いや、その、私そういうのじゃないんですが…。
「早く!」
すごい形相でにらまれる。
私が完全にたじろいでいると、看護師さんが気づいてその患者さんに声をかけ連れて行ってくれた。
これが2、3度あった。
黒のジャージを着ることをやめようか、真剣に悩んだ。

やましたまみこさん(仮)ではない

夜、デイルームでNHKの大河ドラマを見ていると、後ろの方から声がする
「おーい、まみこ!」
認知症のある患者さんが、思い出して家族の名前を呼んでいるのだと思った。
「おーい、まみちゃん!」
「や、ま、し、た、ま、み、こ、さ、ん!!」
「まみちゃーん!」
何度も何度も呼んでいる。
心なしか近づいてきているようにも感じる。
「おい!まみこ!」
怒り出した。
こわい、こわい、こわい。こわくて振り返れない。
テレビの内容が全然頭に入ってこない。
「おい!まみこ!返事をせんか!」
怒鳴りだしたところで看護師さんが来た。
「はいはい、山下さん(仮)、あれはまみこさんじゃないですよ。」

周りを見ると女性は他にはいなかった。
あれ?もしかして私、呼ばれてた?
山下さん(仮)車いすで近づいてきてた?

「まみちゃーん!」
まだも呼ぶ声は続く。
気持ちは少しわかる。
私も脳梗塞を起こしてすぐは幻聴がひどく、病室の外の廊下から元職場の上司の声が時折聞こえていた。
病院にいるはずなどないのだが、私はそれを上司だと思って疑わなかった。
ベッド上安静で動けなかったので、動けるようになったら挨拶に行かなきゃと思っていた。
あの方には、私がやましたまみこさん(仮)に見えてるのだろう。
どう対応するのがいいかわからない。
やむなく大河終わりで立ち上がり、その患者さんの方を向いて軽く会釈をして病室に帰った。


ーー振り返って

水を飲みこむ訓練。今思うとほんとに少しの水を飲みこむところからでした。
最初は水をシリンジで口に入れてもらっていましたが、スプーンで少量をすくって飲むようになると自分で飲んでいる感がぐっと出ました。
正面を向いての嚥下は難しく、一発ですっきり飲みめることはなかなかありません。
左を向けばかなりの確度で飲みこめるのは救いでした。

ADL室おもしろかったです。
木工室では、患者さんがリハビリのために作業をするだけでなく、作業療法士の方が患者さんの動作を補助する道具や訓練のための道具を作ったりされるのだそうです。
リハビリ病院の中にこんな施設があって日常動作のリハビリができるなんて、知りませんでした。

歩行器なしで歩くと、マスクの下は鼻からチューブが出ていますが、見た目は元気な人に見えるようで、当初はよく間違えられました。
あの時の私の体力では車いすを押すことはできませんでしたし、他の患者さんを手伝って怪我をさせてしまったり、自分が怪我をしても大変です。
私にできるのは看護師さんを呼ぶことぐらいだと、患者さんに呼び止められて困っている間に怒鳴られる、を何度か繰り返して気づきました。

あ!振り返ると山下さん(仮)に呼ばれた私、後ろを振り向いて会釈していますね!
頭を動かすとめまいや頭痛がひどかったので会釈ができず、挨拶は基本手を振っていたのですが、この頃には会釈ができるようになっていたようです。


この記事が参加している募集

今日の振り返り

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?