わたし、たちのいる場所|まちは言葉でできている|西本千尋
マンション建設反対運動
とある夏の日。10歳のわたしは煎餅屋の軒先の角に腰をおろして絵を描いていた。煎餅屋は交差点の一角にあって、そのすぐ隣には11階建てのマンションが立っていた。わたしは道路をへだてた向かいにある古い蔵造りの町並みを写生していたのである。蔵造りの建物は2階建てで、鬼瓦が屋根の上にどしんと載っていた。その下で、一枚一枚の瓦が鈍く光っていた。画用紙に向かって、鉛筆を走らせていると、後ろからとつぜん声をかけられた。「上手だねえ。このまちは古い建物がたくさん残っ