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強き美しき母に #6 そりゃそうだよ

よもぎでございます。連載第6話です! 前のお話はマガジンから。

悪い予感って当たりますよね。

なんなんでしょう、当たってほしくないことほど当たります。

今回はそんなお話。

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お母さんのガン発覚からドタバタと入院手術、抗がん剤治療と、あっという間に一年が過ぎた。

大学院に入学して二度目の桜の季節。修士論文に追われて花見をしている暇もなかった。

お母さんの抗がん剤治療は毎日の服薬のほか、3ヶ月1回、数日間入院して抗がん剤の点滴があった。

それが一区切りした今、一番気になっていたことを知る時が来た。


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新着メール:お母さん
本文:今度転移してないか検査するんだと。ペットシーティーとか言って、炎症起きてるとこがわかるんだってさ
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pet-CTは静脈注射で薬剤を体内に投与し、全身の様子を一気に調べることができる方法。これもお母さんがガンになってから調べて知ったことだ。

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新着メール:お母さん
本文:日帰りでいいらしい。帰ってこなくていいからね!
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大学が忙しいということと交通費を気にして、お母さんはいつもこう言う。

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返信:わかった。結果出たら教えてね
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              ・・・


結果は1週間ほどでわかると言っていた。

案の定1週間経っても10日経っても、お母さんからのメールはない。

心配させまいとしているのか、いつもこっちから聞かないと教えてくれないのだ。

仕方なくメールを送った。


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TO:お母さん
本文:検査の結果そろそろ出たんじゃない?
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返信はすぐに来た。

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新着メール:お母さん
本文:卵巣が怪しいらしい。また手術かも、もうやりたくない(´ ; ω ; `)
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胃の手術の後、主治医の先生はお腹の中を調べ、「がん細胞は2種類しかいなかったから転移は多分大丈夫」と言ったんだった。

最初から「2種類しかいない」という言い方に違和感があった。

1年後の検査で卵巣に転移? そりゃそうだよ。がん細胞、居たんだもんなぁ。


手術や抗がん剤は、私が想像できないくらいに苦しかったんだろう。

普段は弱音を一切吐かないお母さん。「もうやりたくない」と泣き顔の絵文字を見て、胸がぎゅっと詰まった。


これがお母さんの本音。


もう手術はやりたくないと言っている。それならそれで、本人の選択だから。

卵巣をほっといたら他のところにも転移して、近い将来、耐えられなくなることが確定している。

かといって痛い思いをして手術を受け、苦しい抗がん剤治療を何年も続けるのが本当に幸せなのか。


それは、私からは意見できない。

私のような第三者の意見は、「少しでも完治の可能性があるなら手術も抗がん剤もしてほしい」となるに決まっている。

これは、苦しさを知らない人の意見だ。

私はお母さんのつらさを代わってあげることはできないけど、せめてお母さんの意見を尊重したかった。


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返信:そっか。お父さんと相談して決めなさいね。あとお医者さんの言うこともちゃんと聞いてね
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はーい、と眉毛を下げてしょんぼりした絵文字が送られてくる。どっちが親かわからん。

お医者さんは当然手術する方向で進めるだろう。

お母さんがどれだけ強く反発するか、わからない。


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返信:あとは仕事とかも全部休んで、好きなことして楽しんでね
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「残りの人生を」をいう余計な言葉は入れなかった。

そんなこと、本人が一番わかっているに違いなかったから。


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新着メール:お母さん
本文:そうする! お父さんとデートに行く!
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今度はにっこりした顔と、ハートマークがついてきた。


うちの自慢の両親は、とっても円満だ。

昔からほぼ毎晩、二人でドライブに行っていた。

今は私は実家を出ているが、子供が親元を離れた今、のびのびと二人で楽しんでいるんだろう。


お父さんと、何を話したんだろう。

いつもコンビの漫才芸人のような両親。見ていても苦労の色は感じられない。

私や弟がいないとき、二人きりで、これからのことを話したんだろう。

それはきっと、ガンだとわかった1年前から。

愛する人に会えなくなることが近い将来確定している。

自分が死ぬこと、大好きな人が死ぬことが、迫ってきている。


二人ともどんな気持ちなんだろう。

私には想像もできないし、まだしたくなかった。

親は強い、と今日も思う。


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最後まで読んでいただきありがとうございました!

親というものは常に私の先輩なんですよね。

就活で「尊敬する人は?」と言う質問に「両親」と答えていましたが、面接練習で「それは当たり前だからだめ」と言われました。当然のことながら、親を尊敬して生きていきます。

【次回】第七話 空っぽになっちゃう


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