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強き美しき母に #8 二度目の正直
よもぎでございます。連載第8話です! 前のお話はマガジンから。
最近良さげなハンドクリームを探しています。自分用にも、プレゼントにも。
可愛い缶に入ったものとか、いい香りがするものに惹かれますよね。高いので自分では買わないんですが……。
今回はそんなお話。
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今まで、実家に帰るお盆とお正月のシーズン以外はわざわざ家族と連絡することはなかったのだけど。
ただ、最近お父さんがガラケーからスマホに変えるという一大イベントがあった。
一見関係なさそうなこの話題だが、LINEの練習がてらどうでもいい話をしたり、写真を送れるようになったり、メール時代よりはるかに会話が増えた。
新しいウィッグを買って早速かぶっているお母さんの写真が送られてきたり。
夜ご飯の写真を送ったり。
今度はお母さんのウィッグを被ったお父さんの写真が送られてきたり。
そうやってたまに両親が元気なのを確認しつつ、思わぬタイミングで帰省の機会を得た。
免許の更新。
住所を実家から移していなかったので、実家の方の免許センターに行かなければならなかった。
・・・
季節は秋、9月の下旬。研究室がたまたま忙しい時期ではなかったので、長めに休みを取って大型連休にしてしまった。
駅に迎えに来てくれたお母さんは、相変わらず痩せていた。
首の皺を隠すため、いつもスカーフを巻くようになった。
1回目の手術、胃の全摘出の時は大騒ぎしたものの、2回目の卵巣の手術は私の知らないうちに終わっていた。
手術についても抗がん剤治療についても、何も聞かされないまま数ヶ月が経過している。確か2回目の手術をしたのは7月だ。
今回の帰省を機に、現状を色々聞き出さなければならない。こっちから聞かないと、お母さんから体調のことを話し出すことはあまりない。
実家に着くと、綺麗に手入れされた3つのウィッグに出迎えられた。
ボブヘアのマネキンは淡いピンク色のベレー帽をかぶっていた。
「手術の時帰ってこれなくてごめんね。最近体調どう?」
「なんもなんも、大学忙しいんだし交通費もかかるんだからいいのよ。今また抗がん剤やってるよ、3ヶ月に一回入院して、ポートから抗がん剤入れるんだよ」
「ポート? あぁ、そういえば1回目の手術の時に入れてたっけか。まだ入ってたんだ」
お母さんの左の鎖骨の辺りには、抗がん剤を注入するためのポートが付いている。1回目の手術の時に埋め込まれ、2年近く経った今もそこについたままだ。
「ちょっと聞いてよ、2回目の手術の時にさ、ポートもう使えないかもって言われて」
「え? なにそれ」
「ポートが詰まらないように定期的にメンテナンスしないといけないらしいんだけど、お医者さんがそれ忘れてたんだってよ。もし詰まってたら使えませんって」
「えぇ、それ医療ミスじゃん」
「そうなのよ! でも確認したらなんとか大丈夫だったみたいで、今使ってるのよ。このポートって外すにも手術しないといけないから、詰まってて使えないから手術して取りますとか言われたら怒るとこだったよ」
「それはなんか訴えたら勝てそう」
二度もお腹を開いて手術をしたんだから、今度こそきっと大丈夫。二度目の正直だ。
・・・
ふと、コーヒーを飲むお母さんの手を見た。
爪が白く濁り、指先や手の甲は乾燥してひび割れている。
抗がん剤といえば髪が抜けたり吐き気が出たりするイメージだったが、爪や皮膚がボロボロになるという副作用もあるらしい。
お母さんの手も先端から徐々に爪と指が剥がれていき、半分爪が浮いている状態だった。
透明のマニキュアで綺麗にしているものの、爪の半分が白いのはちょっと違和感のある見た目だった。
「手がね、カサカサになるのよ。爪も抜けないだけまだマシってかんじ。これも副作用なんだけどね。いっつもハンドクリーム塗ってなんとか割れないようにしてるんだけど、ベタベタしないやつがいいねぇ」
お母さんは、青いチューブのハンドクリームを塗りながら言う。
大学から近くのショッピングモールの中に、ちょっとお高めのハンドクリームを売っている一角があるのを思い出した。
今度、一番いい香りのものを一つ買って帰ろう。
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最後まで読んでいただきありがとうございました!
可愛いネイルや素敵なハンドクリームを買ってあげようと思っています。自分がそういうのに疎いもんで、プレゼントって難しいんですが……。
ついでに季節に合わせた色のスカーフなんかもプレゼントしようかしら。
【次回】第九話 お姉ちゃんみたい
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