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羽田怜花さん五行歌集『花を抱く』

 こんにちは。南野薔子です。羽田怜花さん五行歌集『花を抱く』の感想です。
 
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 『花を抱く』は新書サイズ28ページの小冊子だ。その中に甘美で濃密な時空が封じ込まれている。ちなみにR-18指定である。
 R-18であるし、私自身が恋愛の現場にたいへん疎いし、ネタバレになってもいけないのでそういう意味では感想が書きづらいのだが、しかしこの小冊子にあふれる作者の熱量について触れておきたいなと思った。
 男女の恋愛の現場における女性として、相手の男性の望む女性像ないしは世間一般に好まれるとされるような女性像を想定してそれに合わせるのではなく、自分自身で選択した「私はこういうふうに自分の女性性をあらわす」ということがあって、それをちゃんと見て受け入れてくれる男性がいたらいいな、というその願望は私なりにわかる気がする。「私はこういう女性だということをあなただけが知っている」「私がこう愛されたいという願いをあなただけが叶えてくれた」というシチュエーションはわりと普遍性のある憧れではないだろうか。
 その憧れに、この本の場合はあるアイテムが非常に重要な役割を果たしていて、それがまたその憧れの甘美さと濃密さを際立たせている。それが『花を抱く』というタイトルにもつながってくる。この五行歌集におさめられた歌は、女性視点のものと男性視点のものとが入り混じっているが、女性は「自分の女性性である花を抱いている存在」であり男性は「その花を抱く存在」であるというように、タイトルは二重の意味に取れるなと感じた。
 性自認が女性である人にとって、自分の女性性をどう捉えるか、どうあらわすか、どう見て欲しいかは千差万別、その中で「自分としてはこうありたい、こう見て欲しい」を率直に歌として昇華させた熱量がページごとに伝わってくる。
 その熱量の背景にあるものは、作者のnote記事「私がR-18の五行歌を詠む理由」からもうかがうことができる。
 五行歌集と書いたが、俳句も一句だけ入っている。それが、内容的にも全体の流れの中からもアクセントとして効いているなあと感じた。
 R-18とネタバレを考慮して、差し支えないと思われる範囲で二首だけ引用させていただく。
 
 帰りに買った白いカラーを
 抱えたきみは
 清楚な少女か
 誘惑する悪女か
 見ながら俯く僕  (「俯く」=うつむく)
 
 あなたが
 私の背中の
 鍵を開ければ
 天使の羽が
 おおきく広がる
 
 『花を抱く』はBOOTHにて購入可能です。興味を持たれた方がいらっしゃいましたらぜひ。
 
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 五行歌を書く人の数はだんだん増えてきたかと思いますし、歌会単位で冊子を作っている場合なども若干あるかと思いますが、まだ、このようにネットや文芸イベントなどで販売するケースというのは少なめなのかなと思っています。そういう方やグループが増えると五行歌界もより豊かになるのでは、と最近思っています。
 

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