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谷崎潤一郎『春琴抄』読書感想。



盲目の美女と奉公人との純愛モノということで、
健気で儚げな女性を勝手にイメージしていたけれど
全然違っていて面を食らった。

小柄で色白、儚げな見た目なのに、
我儘で傲慢、おまけに嗜虐性まである女性。
けれど、読み進めるにつれ、徐々にこの人格形成の一因を“盲目“という身体的欠陥が担っているということが詳らかにされていく。

“盲目“を自分の中で負い目として感じており、元来のプライドの高さもあり、虚勢を張らずには世間と対峙することさえままならなかったのではないだろうか。

大地から切り離された一輪の花と同じく、
支えてくれる花瓶がなければ美しい立ち姿を見せられない。
土台のなくなった彼女にとって、虚勢は自分の足で立つため、必須の補助器具だったのではないだろうか。

この自己中心的な性格が人々の恨みを買い、後の事件へつながっていく。

深夜、何者かにより熱湯をかけられた春琴は顔に大火傷
を負う。

“彼女の顔の傷を見ないようにする“それだけのために佐助は自ら盲目の世界を選び取る。

どんなに担がれようとも拭えない劣等感を抱えていた春琴は佐助も同じ盲目になったことで、ようやくそれを手放すことができたのではないだろうか。

傷が傷を癒すこともある。

この事件をきっかけに春琴と佐助との繋がりはより強固に結ばれることとなる。

しかし、2人の人間が結ばれることとお互いの本当の姿を理解することは近しいようで全く違う。

佐助は奪われた視界の中で理想化した春琴を見る。
本当の春琴を媒介として。




現実か妄想。

普遍的なテーマだ。

最近はリアルかバーチャルかよく話題になってるけれど、その問題の根本はこれだろう。

バーチャルは人の作った世界だし、どこかしらで他者と関わらなければいけないから必ず痛みが伴う。

自身で作り上げる妄想は理想通りに動くけれど、
多様性がないので深みがない。

現実はただそれだけでつらい。

私だったら妄想を選ぶかな。
自分で自分を騙せるくらいの妄想ができるならね。

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