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I don’t knowはいらない 〜あるホワイト・トラッシュ出身のアメリカ人の言葉〜

ホワイト・トラッシュという言葉を知っていますか?

あなたはホワイト・トラッシュ (White Trash)という言葉を知っていますか?
直訳すると、「白いゴミ」そんな言葉がアメリカには存在します。
白って何ですか?ゴミって何ですか?それは、他でもない、アメリカに住む白人の低所得者層のことを指す言葉なのです。

本記事では、筆者が、この白人低所得者層、俗に言う「ホワイト・トラッシュ」出身のジェフから受けたメッセージを #大切にしている教え として紹介したいと思います。

米国の白人貧困層には信じがたいほどの絶望が存在する

私が初めてフリーランスのマーケッターを考え始めた2005年頃、ビジネス仲間の友達経由でジェフと知り合いました。彼は背の高い細身の白人で、いつも前向きで楽観的、人の悪口を絶対に言わない、とっても楽しい人でした。友人に言わせると、アメリカ人は話してみると、その人がどれだけ教養のある人物かどうか、すぐに分かるそうです。確かに、ジェフのメールはスペルミスが多く、日本の中学生でも間違えないような英文法も平気で間違えるような人でしたが、私には「陽気なカリフォルニアン」としか映っていませんでした。その陽気で楽観的な性格とは裏腹に、彼は驚くほど繊細にグラフィック・デザインを描き、白人としては珍しく、ブラックカルチャーを代表する黒人有名アーティストに依頼され、アートディレクターとしてハリウッドでPV(プロモーション・ビデオ)の制作に携わっていました。

2022年1月1日の日経デジタル「成長の未来図」の記事で、ブルッキングス研究所シニア・フェローのキャロル・グラハム氏がこう述べています。

白人貧困層の若者は高校以上の教育を目指さない傾向がある。
親も励まそうとしない。絶望が次世代に受け継がれてしまう

2022年1月1日
日経デジタル「成長の未来図」幸福度は社会の「体温」 キャロル・グラハム氏
成長の未来図インタビューより

白人貧困層の多くが絶望を抱えながら負の連鎖を繰り返していくのに対し、ジェフのキャリアは億万長者ではないにしても、立派にホワイト・トラッシュからアメリカン・ドリームを掴んだ人物と言えるのではないでしょうか。

ジェフの生まれ育ったメリーランド州ボルチモアは犯罪率と貧困率が高い

カリフォルニアの空のように晴れ渡る笑顔の裏に

ジェフはメリーランド州ボルチモアの白人の低所得者層の家庭で生まれ、兄弟と共にトレーラーハウスで育ち、中学校もろくに通うことをせず、途中で行くことをやめてしまいました。教育に価値を見出すことがなかった両親もまた、そんなジェフに無理強いして学校に通わせることはなかったようです。そして、彼は18歳になるとすぐにアメリカ陸軍に入隊し、1990年の湾岸戦争に参加し、最前線で戦った歩兵の帰還兵となりました。

彼がよく笑いながら話してことは、「オレは中学も卒業できなかったアホだからさ」と言うことと、「夜、戦車の上で寝てたら、そっから落っこちて、前歯が全部折れちゃったんだよ。だから入れ歯になっちゃったワケ。でもさ、そのお陰で国から一生お金がもらえるんだぜ!」と入れ歯になった前歯をカチャカチャ鳴らしながら笑顔を見せてくれました。
とにかく、彼は辛かったことも、悲しかったことも、全部「ネタ」にしてしまうんです!

帰還兵の彼は戦争の時の話はあまりしたがりませんでしたが、ある日、こんなエピソードを聞かせてくれました。兵士としても階級の低かったジェフ達は、民間人、戦闘員問わず、犠牲者が出た際にその遺体の山を整理することも彼らの重要な任務でした。ある日、仲間と一緒に遺体の整理をしている最中、突然、その仲間が遺体が積まれた山の上に登り出し、歌い踊り、叫び出したと言います。その後、その仲間は強制的に精神疾患対応チームに収容されていったそうです。その時の彼の表情は決して悲しい顔でありませんでした。淡々と、いつものカリフォルニアの空のような笑顔ではなく、ただ、ただ、淡々と、事実を証言するかのように話を続けていました。

「I don't knowはいらない」

そんなホワイトトラッシュ出身で、中学校もろくに卒業していない戦争帰還兵の彼は、軍をリタイアした後、ベテラン(退役軍人)として、得意だった3Dグラフィックスをコミュニティ・カレッジで教えることになりました。その後もグラフィック・アートでキャリアを着実に伸ばしていくのですが、その頃、彼がビジネスを成功させるために大切なこととして、私に教えてくれたことがありました。それこそが、本ブログのタイトルにも使っている、
人に何かを聞かれた時に、「I don’t knowを使わない」ということだと言うのです。そんな、なんて無責任な!と思いますが、彼にとってこの言葉はマジックワードでもありました。

私が「いやいや、本当に質問の答えを知らなかったら何て言うのよ!」と、笑いながら聞いたら、「I got you. I will check and get back to you. Don’t worry!」だそうです。とにかく、質問してきた人に瞬間的に「分かった。確認して教えるから。心配しないで!」と言うことが大事だそうです。なぜなら、ここアメリカでは、答えを出せなければ質問者は別の所に行ってしまうからです。そして、その後は解決策を本気で調べるそうです。その人の求めている適切な”答え”を。

AI時代はアメリカ低所得者層の貧困率を更に引き上げることになるのか

超学歴社会のアメリカと低所得者層の生きる道

今、アメリカは空前の超学歴社会です。1つの採用ポジションに100以上の応募があることは全く珍しくありません。そして、多大な人事の労力を軽減化させるためにも、多くの企業でAIによる採用を導入する傾向にあり、ある一定の学歴を満たさない場合はエントリーシート(書類選考)すら通過することが困難になる、という現実があります。A Iを活用した採用については、大手求人検索サイトのIndeed(インディード)の記事、「AI採用とは。活用法やメリット、導入時の注意点を解説」でも詳しく紹介されています。また、2020年12月のフォーブス・ジャパン(Forbes Japan) の記事によれば「米国の「貧困率」が過去最大の増加、非大卒の22%が危機的状況」とあり、コロナ禍以降、アメリカの格差が広がり、厳しい状況が続いています。

さて、学歴も、生い立ちもアメリカで暮らしていくには決して優位な環境ではなかったジェフにとって、アメリカン・ドリーム、いえ、そんな大きな話ではなく、明日食べるパンを購入する為にもビジネスを勝ち取っていく必要がありました。そこには、努力と運、そして、一つ一つの出会い、一期一会を絶対に無駄にはしない、そんな彼の信念があったのです。そのマジックワードとして「I don't knowはいらない」ということが必須だったのでしょう。ジェフは私に伝えた話を覚えていないかもしれませんが、私には彼のこの言葉が、心に刺さり、何年経っても色褪せることはなく、今でも私の #大切にしている教え となっています。

あいにく、ここ数年はジェフと連絡を取り合うことがないのですが、彼は今も世界中で講師として活躍しているようです。もし私が今日、彼に声をかけても、きっと彼は昨日一緒にビールを飲んだ仲間かのように気さくに会話をしてくれるでしょう。それは、彼が「I don’t know」と言わない人だからです。



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