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美術展観賞記録

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展覧会に行ったときの感想文。Instagramに投稿しているものと基本的には同内容です。
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2024年3月の記事一覧

「フランシス真悟 - 色と空間を冒険する」(茅ヶ崎市美術館)

「フランシス真悟 - 色と空間を冒険する」(茅ヶ崎市美術館)

 アメリカ、そして鎌倉をメインに活動を続けるフランシス真悟の、国内初の大型回顧展。

 画面の形こそマレーヴィチ等を連想する抽象絵画ですが、たとえば〈Infinite Space〉(1,2)の場合、カンバスの隅に重ね塗りの形跡が残っています。よく見るとメインの画面も丁寧に塗り重ねられたハケの後が残っており、まるで夜明けのさざ波を眺めているかのような気分。画面上下にある塗り残しはまるで波打ち際…手仕

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「没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる」(東京都写真美術館)

「没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる」(東京都写真美術館)

 戦前~戦後にかけて、小型カメラのライカを手に街に繰り出し、「ライカの名手」として名を馳せた木村伊兵衛。
 その写真は非常に軽やかなテンポに溢れるもの。肖像写真などでは比較的安定感がありますが、自らを「報道写真家」と自称したのはなるほどと。メインの被写体が中央で目立つ隅でカメラマンを怪訝に観ている人をトリミングしていなかったり、素材としての生々しさを残すところはある種報道的だと思いました。

 パ

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「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)

「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)

2023年春にも東京都美術館で開催されたマティス展。コロナ禍による延期の影響で、ちょっと珍しい2年連続開催となりました。なお、前回はポンピドゥー・センター、今回はマティス美術館のコレクションが中心となっており、主催も異なる別個の展覧会です。
 
前回も前回で面白かったんですが、マティスの集大成と言える《ロザリオ礼拝堂》が映像展示で、レプリカ等による再現が無かったことに「無いのか…」と思ってしまった

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「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館)

「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館)

 タイトルにつけられた「野草」というのは中国の小説家である魯迅の散文詩集のタイトルより。前回は確か夏頃の開催ということもあり、「楽しい」という印象も強かったのですが、今回は昨今の世相を反映し、シビアな話題に触れた作品が多かったように感じました。「楽しむ」を目的に美術館に行くと面食らう作品が多いかと正直思いますが、かつてジェリコーやゴヤがそうしてきたように、同時代を生きる現代芸術だからこそできること

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卒展に行ってきました。

卒展に行ってきました。

 人はなぜ、卒展に出かけるのか。

 私が初めて卒展に出かけたのは昨年。
 エゴン・シーレを観に東京都美術館に行った帰り、ふと見かけた東京藝術大学(藝大)の卒展を観たことがきっかけでした。本当は事前予約制だったらしいのだが、受付で話したら「いいですよ」と、あっさり会場内に入れてくれました。優しい。

 もちろん卒展で展示される作品が、制作された大学生・大学院生達にとってのベストバウトであることには

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「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」(東京ステーションギャラリー)

「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」(東京ステーションギャラリー)

 安井仲治は戦前に活躍したアマチュア写真家。ただアマチュアと言っても、この時代に写真で生計を得ていた者はまだいません。安井は洋紙店勤務を続けつつ、20代ですでに写真展の審査員を複数務め、30代では新聞社主催の講演を行うなど、この道ではむしろ権威的な存在でした。
 20年と決して長くはないキャリアのなか、優しいソフトフォーカスのスナップショットや肖像写真に始まり、モホリ=ナジの影響を受けた前衛芸術的

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