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播磨陰陽師の独り言・第三百六十九話「目が悪いので」

 私は視力が弱いです。左目は手の届くところにしかピントが合いません。右目は見ているところの中心部がゆがんで見えています。昔はかなり見えたんですけどねぇ。今は、こんな感じです。
 当然、人の顔を見分けることは出来ません。誰かの顔を見ると、中心部がぼやけて見分けられないのです。誰の顔も、ただの肌色の塊にしか見えず、かなり困ります。最近は、皆、マスクをしているので、見分けるのはさらに困難になりました。
 そんな時、どうやって人を見分けているのかと申しますと、話し方や声の調子で見分けています。もちろん、服装などの全体的な印象でも見分けています。しかし、これでは見分けられない人々もいます。たとえば、病院の看護師さんたちは、皆、同じ制服で、離れていたら見分けられません。
 病院へ行くと、入院していた頃の看護師さんにも出会います。ふと、話しかけられて、
「分かりますか?」
 とか言われます。
 分からないけど、
「えぇ、分かります」
 と答えて苦笑いしています。
 目が悪いので温泉へ行く時も困ります。裸で湯船に浸かっている人たちは、どれも同じに見えます。顔が見分けられないので、誰も話さなかったら誰が誰だか分からないのです。友人たちと湯船に浸かっていても、ひとりでいる気分です。
 そんな日々ですが、時々、ハッキリと見える人もいます。いわゆる〈亡霊〉と呼ぶやつらです。先日も交差点で中年の男女が歩いている姿を目撃しました。もちろん昼間です。男性の1mくらい後ろを歩く妻らしき人の顔が真っ青でした。しかも顔には白眼がなく、大きな黒目だけでした。男の人はぼやけて見えていましたので、女の人だけがこの世のものではないようでした。
 あまり外出はしないので、見るチャンスは少ないですが、やはり見ることはあります。今年の夏、病院で何回か目にしました。先日も、亡くなっている筈のお爺さんが、ロッカー室に入って行くのを見ました。
——あれ?
 と思ったのですが、やはりロッカー室にはいませんでした。
 病院には、ぼやけている人々と、ハッキリ見える人々がいて、何だか不思議です。

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